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第8話 コユキちゃん

○ 木屋町通り 四条付近 (平成 夜)

    高瀬川の水面に街の灯りが揺れている

    美砂子 川沿いのベンチに座っている 

    美砂子の背後を若者達がはしゃいで通り過ぎて行く


  美砂子   「小鶴さんも 一人ぼっち・・・ 私と同じだ」

   美砂子 着信音が鳴ってスマホを見る 

  美砂子   「あっ! 早紀からだ もしもし」

  早紀(声) 「美砂子? 今どこぉー?」

  美砂子   「また 木屋町に来てる ところで 早紀 大丈夫?」

  早紀(声) 「なにー 大丈夫って?」

   美砂子 立ち上がって三条へと歩き出す

  美砂子   「いや・・・ 昨日よ 昨日 ちゃんと 帰れたかなと思って・・・」

  早紀(声) 「ああ 昨日なぁー 家の近くで ちょっと さ迷ったけど なんとか 家にたど

         り着けたわぁー 美砂子こそ 大丈夫やったかー」

  美砂子   「大丈夫 大丈夫 でも 気がついたら 宿のベットの上だった」

  早紀(声) 「一人でぇー?」

  美砂子   「一人って?」

  早紀(声) 「となりに あの おっさん 寝てへんかったかぁー 美砂子 めちゃ 誘われと

         ったやん」

  美砂子   「そうだったけ?」

  早紀(声) 「ええー 覚えてへんの?」

  美砂子   「う うん・・・」

  早紀(声) 「ヤッバ! ところで 美砂子 明日の朝 帰るん やったっけ?」

  美砂子   「そうだったんだけど ちょっと 急用が出来て 明日 もう1日 休み 取った

         んだ」

  早紀(声) 「急用って?」

  美砂子   「急病で 死にかかって・・・」

  早紀(声) 「急病? 誰が 死にかかってるってぇー?」

  美砂子   「いや・・・ ごめん こっちの話・・・ とにかく もう 1泊するの」 

  早紀(声) 「そやったら 今 暇? 飲まへん? また 暫く会えんやろ? まさか 昨日の

         おっさんと 一緒かぁー」

  美砂子   「バカなこと 言をないでよぉー まだ そこまで飢えてないよ でも 今 もう

         11時だよ」

  早紀(声) 「まだ 宵の口やん」

  美砂子   「早紀 明日 仕事は?」

  早紀(声) 「なに ゆうてんの 明日 土曜日やし」

  美砂子   「えっ? 今日 金曜だっけ?」

  早紀(声) 「えっ?」


○ 木屋町通り(深夜)

  高瀬川沿いの満開の桜がライトアップされている 

  大勢の酔った若者達が騒ぎながら行き交っている

  キャバ嬢 男子スタッフ達が酔った客を見送っている


○ 高瀬川 六角付近(深夜)

  水面に色とりどりのネオンの光が揺れている

  美砂子 桜の下のベンチに座って水面を見つめている 

  桜の花びらが ひらひらと落ちる


○ (回想) 少女 アパートの階段から にっこりと笑い手招きをしている


○ 高瀬川 六角付近(深夜)

  コユキ(茶髪 派手なメイク 薄手のピンクのワンピース) 美砂子の横に座る

  美砂子 びっくっとする

  コユキ 手に持っていた水色のポーチからタバコと安物のライターを出しタバコを一本 取り出

      して 口に咥えて火をつけようとするがライターから火が出ない

  コユキ   「あのー 火 持ったはります?」

  美砂子   「えっ? あっ ! 火? ごめんなさい 私 タバコ 吸わないんで」

  コユキ   「あっ ゴメン そうなんや」

   コユキ ため息をついて空を見上げる

  美砂子   「ごめんなさい」

   美砂子 コユキ 無言で腰をかけている

   桜の花びらが二人に舞い落ちる

   コユキ うつむいて鼻をすすり しくしくと泣き出す 

   美砂子 びっくりしてコユキを見る 

   コユキ 泣き続ける

  美砂子   「ほんとうに ごめんなさい!」   

   美砂子 ショルダーバックからアメ玉を出す

  美砂子   「アメでも 舐める?」 

   コユキ 顔を上げる

  コユキ   「えっ? イチゴミルクやぁー あたぁーす!」

   コユキ 手で涙を拭って微笑んで美砂子の手からアメ玉を取る

  コユキ   「おばさん 酔いざまししたはんの? それともアフターの客と待ち合わせ?」

   コユキ アメ玉を口に入れる

  美砂子   「お  おばさんって・・・」

  コユキ   「クシュン!」

   コユキ 小さな くしゃみをする

  コユキ   「ヤバ! 鼻 出た!」

   コユキ ポーチの中を見る

  コユキ   「あのー おばさん ティッシュ 持ったはります?」

  美砂子   「ティッシュ? ティッシュなら 持ってるよ まだ 外は寒いから出る時は 何か

         上から 羽織った方がいいよ」

   美砂子 ショルダーバックからポケットティッシュを出しコユキに手渡す

  コユキ   「あたーす! 危うく アメ 吐き出すとこやった」

   コユキ ポケットティッシュを受け取って鼻を拭いてティッシュを丸めて川に投げる

  美砂子   「ダメだよー そんなことしちゃー!」

  コユキ   「えっ? こんなん 普通やん ほらほら 流れて行った」

   コユキ 川を指さす


○ 高瀬川の水面 (深夜)

  ネオンの灯りが揺れる水面に丸まったティッシュが流れて行く


○ 高瀬川 六角付近(深夜)

  美砂子 コユキ 並んで桜の下のベンチに座っている


  美砂子   「あーあっ・・・ そんなの普通じゃないよ 川とかにゴミ捨てたらダメだよ!」

  コユキ   「えっ? そんなん 学校で 習わへんかったし!」

   コユキ アメをバリバリ噛む

  美砂子   「たぶん 習ってるよ 道徳の時間とかに」

  コユキ   「道徳? あー 私 中卒やし 習わへんかったと思うわぁー でも おばさん

         お母ちゃん 見たいなことゆうなぁー」

  美砂子   「お母ちゃんって・・・ 最近 いろいろあって 肌 荒れてるけど たぶん 

         まだ 私 あなたのお母さんほどの年じゃないよ」

  コユキ   「そうなんや でも 目尻のシワ ちょっと目立つで」

  美砂子   「目尻のシワって・・・」

   美砂子 自分の目尻を指でなでる

   コユキ微笑んで

  コユキ   「そんなこと ゆうてんのん ちゃうねん!」

  美砂子   「えっ?」  

  コユキ   「久しぶりに 怒られたんや・・・」

  美砂子   「久しぶりに 怒れた?」

  コユキ   「何か久しぶりにお母ちゃんに怒られた見たいで懐かしかったんや もう おらん

         けどな」

  美砂子   「そうなの・・・ 私も母親いないの 一緒だね 何だったら もっと 怒って

         あげようか?」

   美砂子 微笑み コユキも 微笑む

  コユキ   「こんな事 初めておおた おばさんに ゆうことちゃうよな」

  美砂子   「ねぇ いいかげん その おばさんって 止めない?」

  コユキ   「じゃあ お姉さん・・・ 実はな うち ハーフやねん」

  美砂子   「えっ? ハーフ? そうは ぜんぜん 見えないけど 声も 女の子だし」

  ユキコ   「お姉さん? 何か 勘違いしてるんちゃう? 確かに この顔 だいぶん もっ

         てるけど そのハーフと ちゃうわぁー」

   コユキ 美砂子の肩を叩く

  美砂子   「そ そうだよね ごめんなさい でも ハーフって?」

  コユキ   「お父ちゃんとお母ちゃんの生まれた国が違う ハーフ」

  美砂子   「あー その ハーフね」

  コユキ   「ハーフって いろいろ 大変やねんで」

  美砂子   「大変・・・ そ そうだよね」

  コユキ   「お姉さん 子供 おるん?」

  美砂子   「えっ? こ 子供?」

  コユキ   「うん」

  美砂子   「いないよ」

  コユキ   「じゃあ 結婚したことは?」

  美砂子   「結婚は 一回だけ あるよ」

  コユキ   「今もー?」

  美砂子   「うううん」

   美砂子 軽く首を横に振る

  コユキ   「うち 子供 いんねん」

  美砂子   「へー そうなんだ で 男の子? 女の子?」

  コユキ   「男」

  美砂子   「いくつ?」

  コユキ   「三つ」

  美砂子   「三つうー 可愛いさかりだね で 一人?」

  コユキ   「うん あんなん 二人もおったら うち 死んでしまうわぁー」

  美砂子   「そ そう 大変だね」

  コユキ   「そうそう 毎日 バリ 大変!」

  美砂子   「そう じゃあ 結婚してるんだ」 

   コユキ 軽く首を横に振る

  美砂子   「じゃあ 同棲でもしてるの?」

   コユキ 軽く首を横に振る

  美砂子   「そうなんだ 一人で 育ててるの?」

   コユキ 軽く うなずく

  コユキ   「昼間は デイサービスでバイトして 夜は こんな感じ」

  美砂子   「デイサービス?」

  コユキ   「そう 介護 おじいちゃん おばあちゃんに ご飯 食べさせてあげたり お風

         呂 入れたりしてる」

  美砂子   「へー 大変だね その間 お子さんは?」

  コユキ   「お子さん? お子さんはキッズルームに預けてる」

  美砂子   「キッズルーム? ああ 託児所ね」

  コユキ   「お姉さんとは 今 初めておおたのに 何で こんなこと しゃべってるんや

         ろ?」

  美砂子   「いいじゃない 私たち 何の関係のない間柄だもん 何を喋ろうが 明日になっ

         たら 忘れてるかもしれないしね 喋って気が楽になるんだったら お母さんが

         何でも聞いてあげるよ」

   美砂子 微笑み コユキも微笑む

  コユキ   「さっき うちが泣いとったから そんなこと ゆうてくれたはんの?」

   美砂子 軽く うなずく

  コユキ   「ありがとう 優しいねんな お姉さんも判ると思うけど この仕事しとったら

         いやなこと いっぱいあるよな」

  美砂子   「そ そうだね 実は私のお母さんもホステスしてたからあなたの気持ちよく判る

         よ」

  コユキ   「そうなん やっぱ 蛙の子は蛙やな!」

  美砂子   「えっ?」

  コユキ   「ムズイ言葉知ってるやろ」

   美砂子 微笑み コユキも微笑む

  美砂子   「この仕事 男と女の本性が出る 世界だもん 簡単な仕事じゃないよ」

  コユキ   「本性って?」

  美砂子   「本性? 本性は 男と女が持って生まれた性質というか 性格というか」

  コユキ   「持って生まれた? あー なんとなくやけど判る 男と女も怖いけど 女と女の

         方が いっちゃん タチ悪いもんな それで今まで よう泣かされて気来たわぁ

         ー」

  美砂子   「そう でも 私も 一緒だよ よく 泣かされた」

  コユキ   「そうなん ほんまは こんな仕事しとないねんけど やっぱ金ええしな 子供 

         育てやんとあかんし 我慢してやってんねんで 偉いやろ?」  

  美砂子   「う うん・・・ 偉いね」

  コユキ   「時々 我慢しきれんようになったら ここに来て さっきみたいに泣くことにし

         てんねん この川に いやな事 ほかしたら 気がすーとするんや」

  美砂子   「なんだ てっきり タバコ 吸えなかったから 泣いてると思った」

  コユキ   「そんなことで 泣くわけ ないやん アホ!」

  美砂子   「アホって・・・」

  コユキ   「ほんまはな こんな化粧もしとないし こんな服も着とないねん こんなん自分

         の やりたい事と ぜんぜん ちゃうねん」  

  美砂子   「よかったらでいいけど 名前 教えてくれない? 私は 美砂子」

   コユキ 手に持っていたポーチから名刺を取り出し美砂子に手渡す

  コユキ   「ラバーズのコユキでーす よろぴくぅー」

  美砂子   「コユキちゃん・・・ 可愛い名前ね」

  コユキ   「おおきに でも めちゃ 和風やろ」

  美砂子   「そうだね 京都っぽいね」

  コユキ   「京都っぽいかなぁー」

  美砂子   「私は 美砂子」 

   美砂子 ショルダーバックから 名刺入れを取り出す

  美砂子   「はい 私も よろしくね」

   美砂子 名刺をコユキに手渡す

  コユキ   「三浦美砂子さん・・・ 温泉ライター?」

  美砂子   「そう」

  コユキ   「ライター・・・ ライターやったら 何で 火 持てへんの?」

  美砂子   「ああ その ライターじゃあないよ 雑誌とかに 文章を書く ライターよ」

  コユキ   「へー 昼間 そんな ムズイ仕事してるんや」 

  美砂子   「昼間?」

  コユキ   「美砂子さんも 頑張ってるやん!」

  美砂子   「あ ありがとう でも いろいろあって 今 すごく 大変なんだ」

  コユキ   「ふーん ここで 働いてる 女の子は みんな 大変な子ばっかりやねんな」

  美砂子   「ところで コユキちゃんは いくつ?」

  コユキ   「えっ? 年? 19 で 美砂子さんは京都ちゃうよな 東京の人?」

  美砂子   「横浜」

  コユキ   「えー 横浜・・・ おっしゃれー じゃん! やろ?」

  美砂子   「おしゃれかなぁー」

  コユキ   「うち もう 京都ええかなぁー」

   コユキ 両腕を上に伸ばし空を見上げる

  美砂子   「えっ?」

  コユキ   「最近 時々 私のこと知らん人ばっかりがいるとこに行きたくなんねん そこで

         一から 出直して 自分がやりたい事したいねん」 

  美砂子   「やりたい事って?」

  コユキ   「えっ? ゴメン それは まだ ゆえん」

  美砂子   「そう・・・」

  コユキ   「でも もう 遅いかなぁー」

  美砂子   「ぜんぜん 遅くないよぉー まだ 19だもん 人生これからだよ!」

  コユキ   「早よ 京都と さよなら したいわぁー 美砂子さんは 横浜が好きなん?」

  美砂子   「さぁー どうだろ 私も 横浜と さよなら したいかな」

  コユキ   「それで 京都 来はったん?」

   コユキ ポーチからスマホを取り出してスマホを見る

  コユキ   「ヤッバ! もうこんな 時間! 早よ 帰らな また 店長に叱られるわぁー」

   コユキ 腰を上げる

  美砂子   「そう じゃあ元気でね よかったら メールでもいいから また 連絡してね」

   美砂子 腰を上げる

  コユキ   「あたーす!」

   コユキ にっこりと微笑んで後ずさりする

  コユキ   「若い子好みの ええ客 おったら 紹介してなぁー うちも 熟女さん好みの客

         おったら 紹介するしぃー 美砂子さん そこの熟キャバの人やろ?」

   コユキ 後ずさりしながら遠ざかって行く

  美砂子   「熟キャバ?」

  コユキ   「アメ ありがとう めちゃ元気出たぁー うちら もう 友達やんなぁー?!」

   コユキ 大きな声で叫ぶ

  美砂子   「そうだよ 子育て がんばってね! コユキちゃん 偉いよ!」

   美砂子 大きな声で叫ぶ

  コユキ   「カムサハムニダー!」

   コユキ にっこりと微笑んで背を向けて歩いて右腕を上げ手を振る 

  美砂子   「がんばって・・・ 元気 もらったの私の方だよ やっぱり ハーフって 大変

         だよね 京都に来て よかったなぁー でも 私がやりたい事って いったい何

         だろ? 私も 横浜と さよなら しようかなぁー」

   美砂子 コユキの後姿を見ながらつぶやく

   美砂子のスマホが鳴る

  美砂子   「あっ 早紀? 遅いよー」

  早紀(声) 「ごめーん タクシー なかなか捕まらへんかって やっと 今 乗ったとこや

         し もうちょっと 待ってて どっかの店におるん?」

  美砂子   「外だよ 立誠校の前で いいんだよね 四条? わかった」

   美砂子 スマホを耳から外すし 歩き出し 大勢の酔った若者達と すれ違う 

  美砂子   「19で子供が 三つかぁー じゃあ16で生んだんだ えっ? ちょっと待って

         もし 私が 16で子供 生んでたら 今 19ってこと? だったら あの子

         娘じゃん!」


○ 高瀬川 (夜から夕へ)

   ネオンの灯りが揺れる水面に桜の花びらが落ちる

   水面 次第にオレンジ色となり粉雪が水面に落ちる







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