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第7話 小鶴さん

○ 三条大橋西詰 (夜)

  がやがやと大勢の人が行き交っている 

  ストリートミュージシャンが弾き語っている

  美砂子 立ってスマホを耳に当てている 


  美砂子   「社長? 美砂子です 夜分すみません えっ? まだ 会社ですか お疲れ様で

         す はい そうです すみません はい 元気です どうも はい はい 大丈

         夫です 社長 ちょっと言いにくいんですが もう 一日だけ お休みを頂けな

         いでしょうか はい はい それは判ってます 実は友達が急病で死にかけてる

         んです 明日には決着が着きそうなんです はい はい それは 帰ってから

         藤森君となんとかします 大丈夫です はい はい ありがとうごます えっ!

         秋田直行ですが? はい・・・ 了解です・・・」

      美砂子 何度も頭を下げる

  美砂子   「ありがとうございます! では おやすみなさい・・・」

   美砂子 深ぶかと頭を下げてスマホを耳から離して大きく溜息をつく

  美砂子   「やったぁー!」 

   美砂子 大きな声でガッツポーズをする

   周りの人達 びっくりする

  美砂子   「でも 急病で死にかけてて 明日に決着が着くって・・・ それって 死ぬって

         ことだよね 早紀 ゴメン! あー それにしても 我ながら 口から出まかせ

         良く言ったもんだ どうせ ブラックなんだし まっ いいか!」

   美砂子 橋へと歩いて行く


○ 三条大橋の上 

  美砂子 欄干にもたれかかって鴨川を見ている (四条大橋の方向)


  美砂子(M)「妻 公認の愛人・・・ 妻が夫の愛人を選ぶって・・・ 愛する夫の成功のために

        役に立つ 愛人を 選ぶって・・・それが肝が据わった妻ってことなの? それが

        おめでたことなの? そんなの・・・・ そんなの もみじさんが可哀そうだよ 

        可哀そすぎるよ もみじさん どんな気持でちで奥さんに会ったんだろ? それが

        花街ってこと? それが花街で生きる女の定めってこと? そんなの そんなの」


○ 鴨川の土手  三条大橋から見下ろす (夜)

   大勢のカップルが楽しそうに行き交っている

   土手には等間隔でカップルが座っている


  美砂子(M)「もみじさんも普通の恋愛したかっただろうなー 私がしていた結婚・・・

        不倫って いったいなんだったんだろう?」


○ 美砂子のアップ

  目から涙が一粒落ちる 


○ 高瀬川 (夜から朝へ)

  水面にネオンの灯りが揺れている 次第に明るくなり粉雪が落ちる


○ 木屋町通り 蛸薬師付近 (昭和21年12月 朝)

  粉雪が降っている 

  高瀬川沿い路上で数羽の雀が おからを ついばんでいる

  小鶴 寒そうにしゃがみ込み雀達を見ながら細い小さな声で異国の丘を唄っている (後姿)


  小鶴   「今日も暮れゆく 異国の丘に 友よ辛かろ 切なかろ 我慢だ 待ってろ 嵐が過

        ぎりゃ 帰る日も来る 春が来る・・・」 

   小鶴 唄いながら裾からタバコの箱を取り出しタバコを一本出し口に咥えマッチをすりタバコ

      に火をつけて溜息を付くかの様に煙を吐く

   もみ春 路地から顔を出して叫ぶ 

  もみ春  「姉ーさん! 姉ーさん! 小鶴姉ーさん! お母さん 呼んだはりまっせぇー」

   鶴子独り言を言う様に

  小鶴   「もぉー 今 火ーつけたとこやし!」

   鶴子 タバコを吹かす 

  もみ春  「姉ーさん 今度は 何しはったんどすー? また喧嘩どっかっー」

  小鶴   「いややわぁー そんな大きい声で言わんでも・・・」

   小鶴 怒ったようにつぶやき 振り返る

  小鶴   「ちょと待っててー 今 行くー」

   小鶴 叫ぶ  (小鶴のアップ)

   小鶴 手に持っていたタバコを河原の石で揉み消す

  小鶴   「あー もったいなぁー・・・また しけもく 出来たわぁー」

   小鶴 吸殻を袖に入れて立ち上がり ふてくされて細い小さな声で異国の丘を唄って歩き出す

   雀が 一斉に飛び立つ 

   雀が 一斉に 飛び立つ  

  小鶴   「今日も更けゆく 異国の丘に 夢も寒かろ 冷たかろ 泣いて 笑うて 唄って

        耐えりゃ 望む日が来る 朝が来る  今日も 昨日も 異国の丘に 重い雪空 

        陽がうすい 倒れちゃならない 祖国の土に たどりつくまで その日まで・・」


○ 高瀬川 (朝)

  水面に粉雪が落ちる


○ 置屋 松本(朝)

  好江の部屋の前の廊下

  部屋の中から 小鶴の大きな声がする


  小鶴(声) 「いやどす! 絶対に いやどす!」

  

○ 好江の部屋の中 (朝)

  好江 小鶴 火鉢を挟んで座っている


  好江   「やっぱりそうどすかぁ あきまへんかぁ」

  小鶴   「当たり前ですわ お母さんも知ったはるけど うちのお父ちゃんも お母ちゃんも

        お兄ちゃんもお姉ちゃんも それと・・・ とにかく みーんなアメ公にやられた

        んや そんな仇の前で踊る事なんかでけへんし! そんな恥っさらしな事でけるか

        いな!」

  好江   「やっぱり そう どすかぁー」

  小鶴   「そうどす そんな事するぐらいどしたら四条の橋 お乳出して歩いた方が なんぼ

        か ましやわぁー」

  好江   「お お乳って あんた まさか そんな事してまへんやろな?」

   小鶴 くすっと笑って

  小鶴   「それが酔ーて よー覚えてへんけど こないだお座敷の帰りに右のお乳 出したよ

        うな・・・」

  好江   「小鶴!」

   好江 怖い顔をする

  小鶴   「お お母さん! そんな 怖い顔せんでも いくらなんでも そんなこと してま

        へんって! お母さん 本気にしはったん? アホちゃうか!」

  好江   「アホって! それ 誰にゆうてますにゃ! ほんま あんた その口の悪いの直さ

        んとあきまへんえ!」

  小鶴   「はーい」

  好江   「ほんまに お乳 出してまへんねんな!」

   小鶴 うなずく

  好江   「あーびくりした 驚かせんといておくれやす それでのーても さっき 鈴屋の市

        福はんが お座敷で オイド めくらはったって聞いたばっかりどすし」

  小鶴   「へー 市福はん オイド めくらはったんどすかぁ やるなぁー そやったら う

        ちも 負けてられへんなぁー うち どこ 出しまひょ?」」

  好江   「どこも出さんでよろし! そんな事で競争してどないすんの もぉー なんで先斗

        町は こんな子ばっかりやろ 祇園町が羨ましおすわぁ」

  小鶴   「ほな そう言う事で おやかまさんどした!」

   小鶴 腰を上げようとする

  好江   「小鶴! 座りよし!」

  小鶴   「あー 怖わぁー 何ですか!」

   小鶴 座り直す

  好江   「今日は そうはいきまへんえ あんたの気持ちは よー 判りまっけど 今度ばっ

        かりは あんたに行ってもらわんと困るんどす 芸妓は自分の気持ちを押し殺して

        も やらなあかん事もあるんどすえ」

  小鶴   「それ・・・ まさか もみやん姉さんのこと どすか?」

  好江   「そ そんなこと ゆうてまへん・・・」

   好江 言葉に詰まる

  小鶴   「そやったら お役人さんも祇園町とか上七軒とかに頼まはったらよろしおすやん」

  好江   「初めに 頼まはったんどすけど 急な話で断らはったみたいどすにゃ それで困り

        はてて うちに来はったんどすわぁ」

  小鶴   「何で うちとこが 最後どすのん? 気に入りまへんなぁー お断りを!」

   小鶴 立ち上がる

  好江   「小鶴! お役人はん この踊りが これからの京都為 お国の為に大事なんやって

        ゆわはったんどすえ お酌も せんでええ ただ 踊るだけでよろしおすし」

  小鶴   「お言葉どすけど そんなん うちに関係ないし!」

   小鶴 襖へと一歩 踏み出す 

  好江   「ちょっと 待ちよし!」

   小鶴 止まる

  好江   「どうしても あかんのんかぁー?」

  小鶴   「あきまへんなぁー」

  好江   「お国の為に 京女の綺麗な舞い お見せしまへんかぁー?」

  小鶴   「あーあほらし お母さん お国の為のお国の為って それで どんだけの人が死ん

        だか 知ったはるやろ それに うち 京女 ちゃいまっけど!」 

  好江   「あんたのお兄さんも お国の為に 敵艦に突っ込まはったんやないか あんたも 

        お国の為やと思うて 一肌 脱いでくれへんか?」  

  小鶴   「そら うち お母さんには一生かかっても返しきれん恩はありまっけど それと

        これとは別どっさかい お役に立てず すんまへん ほな おやかまっさんどし

        た!」

   小鶴 襖を開け出て勢いよく襖を閉める

  好江   「これ! 小鶴!」


○ 高瀬川 (朝から夜へ)

  水面に粉雪が落ちている 次第に暗くなりネオンの灯りが水面に揺れている







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