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第5話 おチヨさん

○ 木屋町通り   (夜) 

  高瀬川沿いを沢山の人が行き交っている

  美砂子 歩いている


 美砂子 「昭和20年っか もう 知ってる人 いないだろうなぁー もう 明日 帰るし 諦め

      るしかないのかなぁー いいシナリオ 書けそうだったのになぁー でもお腹へったな

      ぁー」 


○ 先斗町通り  (夜)

  飲食店の色とりどりの看板の灯りの横を大勢の人が行き交っている

  美砂子 歩いている

  美砂子 狭い路地をに入る


 美砂子  「おばんざい・・・」


○ のれん 「美味しいお酒とおばんざい 豆千代」


○ 豆千代の店内

  カウンターだけの狭い店内

  村井(60代 スーツ) 涼花(40代 着物) カウンターに座っている

  美砂子 引き戸が開けて入って来て会釈する


 村井   「女将さーん! お客さん やでぇー」 

  平井久美 カウンターの奥の台所から出て来る

 久美   「はい はい はい いらっしやいませ いらっしやいませ お一人さん どすか?」

 美砂子  「あっ はい」

 久美   「そやなぁー こちらへ どうぞ」

  美砂子 神妙な顔で座る 

 久美   「ごめんなさいねぇー ウチ メニューないんどす 食べるもんは ここに並んでる

       おばんざい だけどすけど よろしおすかぁー?」

  カウンターの上には大皿料理が並んでいる

 美砂子  「美味しそぉー」

 久美   「おおきに おおきに まずは お飲みもん どうしまひょ?」

 村井   「お姉さん ここ 酒やったら 何でも あるしなぁー」

  村井 ビールを飲む

 久美   「たーさん 初めてのお客さんに 失礼な ごめんなさいねぇー」 

 美砂子  「いいえ 私も こう言う 雰囲気 好きですから」

 村井   「お姉さん 見たところ 京都の人やないみたいやけど どこから きはったん?」

 美砂子  「よ 横浜です けど 京都じゃないって そんなの 判るんですか?」

 村井   「何か よーわからんけど どことのお 垢抜けたはんもんなぁー」

  村井 ビールを飲む

 涼花   「いややわぁー そやったら 京都の女は 垢抜けてへんて言うのぉー」

 村井   「そんな事 ゆうてへんがな 何かシュッとしたはんねん 京都では なかなか お見

       かけせえへん お人やって ゆうこっちゃ」

 涼花   「そやったら 京都の女は シュッとしてへんって言うのぉー」

 村井   「あんたは 十分 シュッとして 垢抜けておます 抜けすぎて 真っ白けや」

 涼花   「それって 厚化粧ってこと? 失礼な事 いわんといてくれるー」

  涼花 村井の肩を叩く

 村井   「痛いなぁー」

 涼花   「罰として 今日 レミー 下ろして もらいますからね!」

 村井   「レミー! わかった わかった ああ 怖わ! やっぱり 京都のおなごは 怖おす

       わぁー」

  村井 美砂子に

 村井   「横浜ですかぁー そやったらベイスターズですな 去年は もうちょと やったなぁ

       ー 打つ方はええけど 投げるほうがなぁー まぁ 今年はええピッチャー入ったし

       ええ とこまで いくんちゃいまっか」

  村井 ビールを飲む

 美砂子  「そ そうですね でも私 野球は ちょっと・・・」

 村井   「それで 京都へは 観光ですかぁー? それとも お仕事で?」

 久美子  「たーさん! ベッピンさん見たら すぐ鼻の下伸びるんやからー ごめんなさいね」

 美砂子  「いえ・・・ 取りあえず ビール 下さい」

 久美子  「ウチ 瓶ビールしかおまへんけど よろしおすか?」

 美砂子  「はい それと・・・」

  美砂子 大皿料理を指さして

 美砂子  「これ なんですか?」

 久美子  「がんもどきに長ネギ挟んで焼いたもんどすけど」

 美砂子  「じゃあ それと この湯葉と 後 これも お願いします」

  美砂子 指さして注文する

  久美 美砂子の前にグラスを置く

 久美子  「はい おビール」

  久美 美砂子に 瓶ビールをカウンター越しにつぐ

  美砂子 グラスを差し出し

 美砂子  「ありがとうございます」

  美砂子 イッキに飲み干す

 美砂子  「ぷはぁー 生き返ったぁー!」

 村井   「よぉ! お姉さん いける口やなぁー」

 美砂子  「ありがとうございます!」

 村井   「女将さん! それ わしに つけといて」

  久美子 美砂子に

 久美子  「よかったどすな これ たーさんのおごりどっせー」

  久美 美砂子に 瓶ビールをカウンター越しにつぐ

  美砂子 村井に

 美砂子  「いいんですか?」

 村井   「かまへん かまへん 京都に来はった わしからの ささやかな おもてなしや」

  村井 ビールを飲む

 美砂子  「ありがとうございます! それでは 遠慮なく」

  美砂子 ビールを 飲み干す  

  × × × 

 村井   「女将さん ところでおチヨさん 長いことおおてへんけど お元気に したはのかい

       な?」

  村井 お猪口で 日本酒を飲む

 久美   「元気 元気 元気すぎて 困ってますわぁ」

 涼花   「そうそう こないだも 河原町 シルバーカー押して歩いたはったわぁ」

  涼花 箸で おでんを口に入れる

 久美   「それは パチンコ どす」

 涼花   「へー パチンコ?」

 久美   「人のめー 盗んで すぐ いかはるんどす 油断も隙もあらしまへんわぁー」

 村井   「それはそうと お母さん 幾つに ならはったんや?」

  村井 お猪口で日本酒を飲む

 久美   「来月の誕生日で ちょうど 85どすわぁ もうちょと 落ち着いてもらわんと 

       こっちが いてまいますわぁ」

 村井   「そんな事 ゆうたりないな 85 ゆうたら 老人ホーム入ったり 家で 寝たっき

       りの人もいはるのに 一人で パチンコ 行けるやなんて 幸せやで」

  村井 お猪口で日本酒を飲む

 久美   「そんなもんどすかいなぁー」

  村井 美砂子に

 村井   「お姉さん ここの お母さん 昔は ほんま べっぴんさん やったんやで」

 美砂子  「へー そうなんですか?」

 村井   「先斗町一 いや 京都一の 芸妓さんやったんや 前に 写真 見せてもうたけど 

       若い時の 吉永小百合に そっくり やったわぁ」 

 久美   「今は パチンコぐるいの しわくちゃ ばあさん どすけどなー」

  久美 村井 涼花 笑う 

  美砂子 はっとして 大きな声で

 美砂子  「お お歳 お幾つでしたっけ?」     

  久美 びっくりして

 久美   「歳どすか? 43どすけど」  

 美砂子  「いいえ その おばあちゃんの?」

 久美   「いややわぁー おチヨさん どっかいな 来月で ちょうど 85どすけど・・」


○ チヨの部屋の前(2階)  

  久美 襖の前に立っている


 久美   「おチヨさん 起きたはりまっかぁー」 

  返事がない

 久美   「起きたはりまっかー」 

  久美 少し大きな声で言う

  返事がない

 久美   「おチヨさん! 起きたはりまっかー!」

  久美 さらに大きな声で言う

  返事がない

 久美   「おチヨさん!」

 チヨ(声)「なんえぇー ご飯かぁー」

  襖の向こうから チヨの声がする

 久美   「ご飯 さっき 食べはったとこどっせぇー」

 チヨ(声)「そうかぁー もう いらんわぁー」

 久美   「ちょっと 入ってよろしおすかぁー?」

 チヨ(声)「へー?」

 久美   「見てもらいたいもんが あるんどす」

 チヨ(声)「なんえー?」

  久美 襖を引く 


○ チヨの部屋

  6畳の和室 テレビ ベット タンス 小さなちゃぶ台

  テレビはバラエティ番組が映っている

  久美 入って来る

  チヨ テレビの前のちゃぶ台の前に座ってテレビを見ている

  


 久美   「また そんなもん食べて さっき ご飯 食べはったとこどっしゃん!」

  ちゃぶ台の上に 饅頭 湯のみ 急須が置いてある

 チヨ   「へー?」

  チヨ 久美の顔を見る

 久美   「もう いややわぁー ボケんといて くれなはれや」

 チヨ   「これ 美味しいえー 食べるかぁー」

  チヨ 久美に饅頭を差し出す

 久美   「また そんなもんこうて来て 一人で 河原町のコンビニ 行かったんどすかぁー」

 チヨ   「コ コ・・・ そこ どこえー?」

 久美   「河原町のパチンコ屋さんの隣に でけた お店 どっしゃん!」

 チヨ   「あー そこやで あそこ 何でも 売ってるえー あんたも 行ってきよし」

 久美   「何でも 売ったはりますけども あそこ 信号 渡らなあかんし一人で行ったら危の

       おっせー」

 チヨ   「信号・・・ そやったかいなぁー?」

 久美   「もお よお ゆわんわぁー」

  チヨ 湯呑でお茶を飲む

 久美   「それはそうと お客さん 来たはるんですけど おおてもらえまっかー」

 チヨ   「お客さん? 男はんかぁー」

 久美   「男はんって・・・ あー あほらし 残念ながら ちゃいます お若いおなごはんど

       すけど」

 チヨ   「へー 何の 御用え-]

 久美   「ちょっと お写真 見てもらいたいんどすって」

 チヨ   「お写真? 男はんのかぁー」

 久美   「残念ながら お見合い写真と ちゃいますし ちょっとお呼びして来ますよってに」

  久美 出て行く

  チヨ 饅頭を口にしてテレビを見る

  戸が引かれて 久美 美砂子入って来る

 美砂子  「今晩は 初めまして 三浦美砂子と言います」

  チヨ テレビを見ながら

 チヨ   「へー?」

  美砂子 少し大きな声で 

 美砂子  「三浦美砂子です!」

  チヨ 美砂子を見て

 チヨ   「み 三浦はん・・・」

 美砂子  「はい・・・」 

 久美   「おチヨさんに 見てもらいたい お写真があるんどすって」

 チヨ   「へー?」

  久美 リモコンでテレビを消す

 チヨ   「消さんといてなぁー 見てたのにー」

 久美   「先に お写真 見てもらいまっかぁー」

  美砂子 バックからスマホを出し 操作して チヨに差し出す

 美砂子  「この写真なんですけど この芸者さん 見覚え ありますか?」

  久美 ちゃぶ台に置いてある老眼鏡を取って チヨに渡す

  チヨ 老眼鏡を かけて 美砂子が差し出したスマホを見る

 チヨ   「これ テレビのリモコンどっせ」

 久美   「おチヨさん ちゃう ちゃう これ スマホってゆうもんどすえ」

 チヨ   「スマ・・・」

 久美   「今どきの 電話どす」

  チヨ スマホを見て

 チヨ   「へー 電話? えらい 平べっとうなって・・・」

 久美   「見えたはりまっかー?」

 チヨ   「最近 めー悪なって よー見えまへんにゃわ ちょっと天眼鏡 取ってくれるかぁ」

 久美   「最近って ようゆうわ 天眼鏡 どこにあるんどす?」

 美砂子  「ちょっと 待って下さい こうやったら 見やすくなります」

  美砂子 スマホの画面を指で操作する

  チヨ スマホを のぞき込む

 久美   「どうどす? 知ったはりまっかぁー?」

  チヨ 黙っている

 美砂子  「どうですか?」

  チヨ 黙っている

 久美   「見えてはりまっかぁー」

  チヨ 黙っている

 美砂子  「この二人に 見覚え ありますか? たぶん・・・」

  チヨ しくしくと泣きだす

 久美   「おチヨさん どうしはったんどす?・・・ い いや 泣いたはるわぁ」

  チヨ しくしくと泣きながら 両手でスマホを持っている 美砂子の手を握り締める

 美砂子  「チヨさん ご存知なんですね このお二人の事 ご存知なんですね!」

 久美   「おチヨさん 知ったはんのどすか?」 

  美砂子 久美 顔を見合わせる

 チヨ   「姉さん 姉さん・・・」

  チヨ スマホを持った美砂子の手にチヨの涙が落ちる  

  チヨ 泣き崩れる


○モノクロ写真

 軍服を着た白人と日本の芸者が座敷で並んで座っている 


○ 高瀬川 (夜)

  水面にネオンの灯りが揺れている 

  そこへ粉雪が落ちる











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