第30話 さようならプリンセス
○ 梅小路駅 構内 (昭和26年 春 昼)
構内は米軍の物資が積み上げられ 米軍の兵隊やトラックが慌ただしく往来している
○ 梅小路駅 プラットホーム
列車が止まっている
マシュー 乗り込む
美砂子(N)「昭和25年6月25日午前4時40分 突然 朝鮮で戦争が起こりました
そして この年には 京都にあった進駐軍の施設は朝鮮への出撃の拠点になって
いました 京都駅から ほど近いここ梅小路駅から兵士達が次々と戦場へと旅立って
行きました」
○ 列車の車内
マシュー 車窓を見つめている
○ 車外
東寺の五重塔が遠ざかって行く
○ 列車の車内
マシュー テネシーワルツを小さな声でハミングしながら車窓を見つめている
マシュー 「グッバイ キョウト・・・ グッバイ プリンセス・・・」
○ 車外
東寺の五重塔が遠ざかって行く
マシュー(小声)テネーシーワルツのハミング
○ 京都駅 新幹線ホーム(平成 春)
乗客 新幹線の到着を並んで待っている
美砂子(小声)テネーシーワルツのハミング
美砂子 スーツケースを足元に置き並んでいる
チャイムが鳴り アナウンスが流れる
アナウンス
「今日も新幹線のご利用ありがとうございます まもなく2番線に11時56分発のぞみ16号
東京行きが到着します・・・」
新幹線 ホームに入って来て ドアが開く
乗客 次々と乗り込んで行く
美砂子 乗り込もうとする スマホが鳴る
○ 先斗町通り(昭和26年12月)
小雪が舞っている
クレジット(右下に小さく) 昭和二十六年 師走 木屋町
○ 先斗町置屋「松本」の帳場
電話が鳴る
好江 受話器を取る
好江 「はい もしもし 松本どす・・・」
○ 松本の廊下
好江 二階に向って大きな声で
好江 「小鶴はーん お電話どっせぇー」
○ 先斗町通り(昭和26年12月)
小雪が舞っている
○ 松本の帳場
ドンドンドンドン!
階段を勢い良く降りて来る足音がする
好江 「まるで熊が降りて来た見たいに そんな大きな音 立てんでも 家が 潰れて
しまいますわぁー」
小鶴 「すんまへーん うち 熊やのうて こって牛どすにゃ・・・ で お電話って
どなたはんどす?」
好江 「男はんえ」
小鶴 「男はん? お客さん? また文句どっかぁー? うち いいひんことに!」
小鶴 行こうとする
好江 「ちゃうと思うけど・・・ あんた 田中はんって知っといやすか?」
小鶴 「田中はん・・・」
小鶴 首を傾げる
好江 「お待たせするのもなんやし ちょっと出ておくれやす」
好江 小鶴に受話器を渡す
小鶴 小声で
小鶴 「若い?」
好江 首を傾げる
小鶴 恐る恐る 受話器を耳に当てる
小鶴 「はい もしもし 小鶴どすけど・・・」
田中(声) 「小鶴さん? 田中です!」
小鶴 「田中さん・・・」
田中(声) 「はい・・・ 覚えてないかなぁー ほら政府の」
小鶴 「西部?」
田中(声) 「西部?」
小鶴 「西部劇 見に連れてくれはるんどすかぁー? おおきにー」
田中(声) 「あー 西部劇じゃなく 政府」
小鶴 「せいふ・・・」
田中(声) 「日本の政府の連絡官の田中です!」
小鶴 「・・・」
田中(声) 「オーエン大尉の!」
小鶴 「お・・・ あー マーさんの!」
田中(声) 「そうそう 思い出してくれました!」
小鶴 「お名前 田中さんどしたっけ?」
田中(声) 「最初に言ったはずですけど・・・」
小鶴 「そうどしたかいなぁー 影が薄うてよう覚えてまへんわぁー」
田中(声) 「そ そうですか・・・ あー 今日 お電話したのはですね」
小鶴 「へー」
田中(声) 「大尉の事のことなんです・・・」
小鶴 「マーさんの?」
田中(声) 「はい・・・」
○ 病院の長い廊下
コツコツコツと美砂子の急ぐ足音が響く
○ ちどり亭店内(昭和26年12月 昼)
客(中年の男) 新聞を広げ座っている
客 「戦車部隊 北進か・・・ アメ公も大変やな 戦争 終わっても 家族と離れ
離れになって遠い日本に住まなあかんわ その上また戦争や」
稲垣平八(真由美の父親) コーヒーを持って来て
平八 「そうどすなぁー ここに来てくれたはったGIはんも 酔ーて えらい泣いた
はりましたわぁー」
客 「可哀そな こっちゃな 日本 戦争負けて良かったんちゃうやろかな」
平八 「負けて良かった?」
客 「そや 御主人も嫁はん子供と一緒に暮らせてるやろ 負けて 万 万歳や」
平八 「旦那はん そんな事言うたら憲兵に連れて行かれまっせ!」
客 「憲兵? わし 憲兵や!」
平八 「そうどしたなぁー」
平八 客 笑う
小鶴 豆千代 リンダ 入って来る
平八 3人を見て
平八 「まいど! あれ 豆ちゃんも お久しぶり」
豆千代 会釈する
小鶴 豆千代 座る
小鶴 手をこすり
小鶴 「あー さぶ! おっちゃん おしるこ 二つ! と・・・」
小鶴 リンダを見る
豆千代 「リンちゃん うちらのん ちょっとづつ分けたげまひょ」
小鶴 「そやな」
小鶴 平八に
小鶴 「おっちゃん 後 お椀 一つ!」
平八 「はいはい 豆ちゃん また 口止め されてんのんかぁー?」
豆千代 微笑んで ペろっと舌を出す
平八 「こんどは何しはったんや また喧嘩か サーカスか ストリップかぁー?」
平八 奥へ行く
豆千代 困った顔で首を傾げる
小鶴 「おっちゃん! 豆 困らさんといてくれるかぁー 可哀そうやん!」
平八 奥から
平八(声) 「豆ちゃん どっちが悪さしたんや 判らへんんなぁー まるで手品やな」
豆千代 小さくうなずく
客 「ほんまや 小鶴はんは丸いもんでも四角にする不思議なお力がお有りですもんな
小鶴はん あんた 手品師になった方がよかったんとちゃうか?」
小鶴 「旦那はん 褒めてもろうて おおきにー お言葉どすけど 手品師やのうて
詐欺師に なりますわぁー そっちの方が儲かりますよってに」
客 「詐欺師? あーコワ!」
客 笑う
リンダ 不思議そうな顔で会話を聞いている
○ 高瀬川
水面に小雪が落ちる
○ ちどり亭店内
小鶴 豆千代 リンダ お椀に入った おしるこをすすっている
客 新聞を広げている
客 「アメ公の死体 朝鮮から いっぱい 福岡の芦屋って言うとこにあるの基地に
運ばれてるそうやで」
平八 洗い物をしながら
平八 「そうどすかぁー ほんま 可哀そうどすなぁー」
客 「こないだ 小倉から来た戦友がゆうとってんけどな 広い講堂が死体の山らしいで」
平八 「ニッポンも勝ってたら そうなってたんどすやろか?」
客 「なってたかもしれへんな」
平八 「もう戦争は こりごりごどすわぁー くわばら くわばら・・・」
小鶴 話を聞いて窓の外を見つめる
○ 高瀬川
水面に小雪が落ちる
○ 回想 とある陸軍飛行場 (昭和20年4月)
鶴子(セーラー服 もんぺ お下げ髪)幸夫(飛行服) 桜の木の下の草むらに並んで
座っている
鶴子 「戦争は負けるが勝ちって言う事ですね」
幸夫 微笑む
○ 回想 山荘の次の間の前 (昭和21年12月25日)
襖が開く
マシュー 背を向けて立っている
マシュー 襖を開けた音で振り向く(アップ)
小鶴 (アップ)
○ 回想 山荘の玄関前
雪が積もり 粉雪が舞っている
マシュー 微笑み 手を差し出して小鶴の手を掴む
小鶴 マシューの手を握り締める
マシュー 微笑んむ
○ 回想 とある陸軍飛行場
山田 二人の前でカメラを構えて立っている
山田 「笑顔 笑顔 笑って 笑って!」
○ 回想 山荘の座敷
米軍報道カメラマン カメラを 構える
秘書 「ほら 笑って 笑って もう 少し 身を寄せて」(英語)
○ 回想 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近(昭和26年 春)
満開の桜並木 桜の花びらが舞っている
田中 カメラを構えている
田中 「ハイ チーズ!」
○ 豆千代(声)「姉さん? 姉さん?」
○ チヨ (声)「姉さん・・・ 姉さん・・・」
○ 病室(平成 春 朝)
窓の外 桜の花びらが散っている
チヨ 鼻にチューブを入れてベッドで寝ている
久美 リカ 医者 看護師 横に立っている
ピッピッピッ・・・(ベッドサイドモニタの音)
美砂子 静かに入って来る
リカ 振り返り会釈する(目に涙を溜めている)
美砂子 会釈する
久美(目に涙を溜めている)チヨの手を握っている
久美 「おチヨさん・・・おチヨさん・・・」
リカ 美砂子に
リカ 「ごめんなさい・・・」
美砂子 首を横に振る
チヨ (声)「姉さん・・・ 姉さん・・・」
リカ 「おチヨさん さっきから こればっかり ゆうたはるんです・・・」
チヨ (声)「姉さん・・・ 姉さん・・・」
リカ 美砂子の手を握る
ピッピッピッ・・・(ベッドサイドモニタの音)
○ 豆千代(声)「姉さん? 姉さん?」
○ 小鶴 (声)「えっ?」
○ ちどり亭店内(昭和26年12月 昼)
小鶴 はっと我に帰って
小鶴 「えっ?」
豆千代 「もう! とぼけとっんといて おくれやす! さっきんから ぼーと窓の外見て
高瀬川にお札でも流れてんのんどすかぁー?」
小鶴 「えっ?」
豆千代 「ソーダもよろしもすやろ! お約束しましたやん! なぁ リンちゃん!」
リンダ 微笑む
小鶴 「そ そやったな」
豆千代 「おっちゃん ソーダ・・・ と コップ一つ・・・ 姉さんもどうどす?」
小鶴 うつろな表情で
小鶴 「うち? うちはええわ・・・」
豆千代 「そうどすか・・・ あー 珍し」
小鶴 窓の外を見つめて 呟く
小鶴 「福岡・・・」
マシュー(小声)テネーシーワルツのハミング




