第24話 謎の少女
○ 如意ガ岳(右大文字)
山桜がまばらに咲く中 大の字が朝日で照らされている
○ 病院 1階ロビー (平成 春 朝)
患者 看護師等が行き交っている
美砂子 立って電話している
美砂子 「もしもし 早紀? ゴメン・・・」
早紀(声) 「ええよ 今 昼休みやし それはそうとどないしたん? 美砂子 もう横浜や
ろ?」
美砂子 小声で
美砂子 「そ それがね・・・」
早紀 (声)「えー?」
美砂子 小声で
美砂子 「それがね まだ 京都なの」
早紀 (声)「えー?」
美砂子 玄関の方に歩き出し 少し 大きな声で
美砂子 「まだ 京都に いるの!」
早紀 (声)「そんな 大きな声で ゆわんでも・・・」
美砂子 「だって・・・」
早紀 (声)「あんた 何してるん?」
美砂子 「何してるって・・・」
早紀 (声)「判った! 京都で 男 作ってんろ! やるなー」
美砂子 「そんなんじゃないってば!」
早紀 (声)「冗談 冗談 そんな むきに ならんでも・・・ でも また 何で まだ京都
に おるん?」
美砂子 「それがね・・・」
○ 満開の桜の木
そよ風で 花びらが散っている
ピッピッピッ・・・(ベッドサイドモニタの音)
○ 高瀬川の水面
提灯の赤い灯りが水面に揺れている
桜の花びらが落ちる
○ 木屋町通り (昭和26年 春 深夜)
高瀬川沿いの満開の桜並木
小鶴 酒に酔って 夜来香 (イエライシャン)を 口ずさみ ふらふらと歩いている
クレジット(右下に小さく) 昭和二十六年 弥生 木屋町通り
小鶴 「イエライシャン 白い花 イエライシャン 恋の花 ああ 胸痛く 唄かなし・・」
小鶴 小声で口ずさんでいる
警官 自転車に乗って来て小鶴の横に止まる
警官 「小鶴 今 帰りかぁー?」
小鶴 「そうやー 今日も 忙しかったわぁー」
警官 「今日は 何にもしてへんやろなぁー?」
小鶴 「もぉ ほっといてんかぁー 今日は なーんにも してまへん!」
警官 「また 四条の橋の欄干 歩いたら 今度こそ逮捕するぞ!」
小鶴 「ええやんか うちのサーカス 皆 拍手して見てたやんかぁー!」
警官 「あんなとこから 落ちたら死んでしまうぞ!」
小鶴 「もう うち 何時 死んでもええわぁー」
小鶴 くるっと回る
警官 「あんたは死んでも ええかも知れへんけどな わしの仕事が増えてしまうんや!」
小鶴 「なんやの! いつも 交番で いねむってるくせに よおゆうわぁー 今度は
三条にしょうかなぁー 五条にしょうかなぁー 五条やったら 牛若丸や」
警官 「こら! 小鶴!」
遠くから男の声がする
男(声) 「喧嘩やー! 誰か 来てくれー!」
警官 慌てて
警官 「喧嘩? あー これから ゆっくり 茶ー 飲もと思てたのにー」
小鶴 微笑み
小鶴 「本官さん 早よ 行かな ほら ほら お仕事どっせー」
警官 「あー 判ってるわい! ほんまに 今日は おとなしい 帰れよ!」
警官 慌てて 自転車に乗り 走って行く
小鶴 大声で 警官に
小鶴 「お仕事 おきばりやっしゃー!」
小鶴 笑顔で警官に手を振る
○ 高瀬川に架かる小橋の上 団栗付近 (昭和26年 春 深夜)
小鶴 夜来香を鼻歌で唄いながら ふらふらと歩いて来て欄干に座って大きな溜息をつく
桜の花びらが小鶴に落ちる
三浦リンダ(4歳 日本人とアメリカ人とのハーフ) 小鶴の横に座る
小鶴 リンダを見る
リンダ 小鶴を見てにっこりと笑う
小鶴 思わず微笑み
小鶴 「あんた こんな夜中になにしてんの?」
リンダ 小鶴の顔を見て微笑む
小鶴 作り笑顔を浮かべる
小鶴 「こんな時間に こんなとこに いたら 子取りに連れていかれるで」
リンダ 微笑んでいる
小鶴 「うちの ゆうてる事 判る?」
リンダ 微笑みながら 軽くうなずく
小鶴 「お母ちゃんは?」
リンダ 首を傾げる
小鶴 「あー お父ちゃんは?」
リンダ 首を傾げる
小鶴 「あー マ・・・ ママ?」
リンダ 「マ ママ あそこ・・・」
リンダ 指差す
小鶴 リンダが指さした方向を見る
○ 連れ込み旅館
薄暗い旅館の灯り
○ 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近 (深夜)
小鶴 リンダ 欄干に座っている
小鶴 「ふーん 出て来はんの 待ってんの?」
リンダ うなずく
小鶴 リンダ 空を見上げて 暫く沈黙
小鶴 「お腹 空いてる?」
リンダ 微笑みながら 軽くうなずく
小鶴 「そうかぁー でも こんな時間 どっこも開いてないしなぁー」
リンダ 小鶴の顔を見て微笑んでいる
小鶴 「そや! アメちゃん 舐める?」
小鶴 袖からアメを出してリンダに差し出す
小鶴 「はい!」
リンダ 微笑んで受け取り
リンダ 「あんがとう!」
リンダ 美味しそうにアメを舐める
小鶴 「お名前は?」
リンダ 美味しそうにアメを舐めている
小鶴 「名前は?」
リンダ 美味しそうにアメを舐めている
小鶴 声を荒げて
小鶴 「あんた! 名前 何ちゅうねん!」
リンダ アメを舐めながら 小鶴を見つめて
リンダ 「リ・・・ リ・・・」
小鶴 微笑で
小鶴 「かんにん かんにん アメ舐めてからで ええで」
リンダ アメを舐めながら にっこり笑う
○ 高瀬川の水面 (深夜)
ほのかな灯りが揺れる 水面に桜の花びらが落ちる
○ 高瀬川に架かる小橋の上 団栗付近 (深夜)
小鶴 リンダ 高瀬川の水面を見つめている
二人に 桜の花びらが落ちる
○ 病室の窓 (平成 春 午後)
窓の外 花びらが散っている
ピッピッピッ・・・(ベッドサイドモニタの音)
○ 病室の前 (平成 春 午後)
美砂子 久美 リカ 立っている
久美 「なんとか 落ち着いてくれはりましたわ 先生も 一先ず 大丈夫やろって
おしゃってはりますし 美砂子さん もう お帰りになっても・・・」
リカ 「後は 私達が」
美砂子 「そうですね でも 落ち着いて 良かったですね」
久美 「お騒がせしまいた 引き止めてしもて かんにんな」
美砂子 「いえ」
美砂子 首を軽く横に振る
リカ 「美砂子さん 今から 横浜に帰らはんの?」
美砂子 「うううん 取り合えず 今日 もう 一泊する」
久美 「ええんですか?」
美砂子 「はい いいんです 他に 行くとこ あって」
リカ 「他に?」
美砂子 「いや こっちの話・・・ もし 何か あったら 連絡してね」
リカ 「はい!」
○ 満開の桜の木
そよ風で花びらが散っている
ピッピッピッ・・・(ベッドサイドモニタの音)
○ とある路地裏 (東山区本町付近 昼)
新しいアパートと木造の古いアパートが混在して立ち並んでいる
美砂子 うきうきした様子で歩いている
美砂子(声) 小さな声でテネーシーワルツのハミング
少女 人形を抱いて古い木造のアパート(前に地蔵の祠がある)の前でしゃがんでいる
美砂子 少女の横にしゃがみ
美砂子 「可愛いね」
少女 人形の頭をなでながら うなずく
美砂子 「はい!」
美砂子 少女にアメを差し出す
少女 美砂子を見て にっこり笑ってアメを口に入れる
美砂子 「ねえ おばさん・・・ あっ お姉さん まだ あなたの名前 知らないんだ
何て 言うのかな?」
少女 アメを舐めながら美砂子のショルダーバックに付いた色あせた赤いお守を触る
二人に無数の桜の花びらが落ちる




