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第19話 涙の祇園小唄

○ とある路地裏 (東山区本町付近 平成 朝)

  新しいアパートと木造の古いアパートが混在して立ち並んでいる

  少女 古い木造のアパート(前に地蔵の祠がある)の前で縄跳びをしている

  美砂子 微笑んで見ている


  美砂子   「うまいのね」

   美砂子のスマホが鳴る

  美砂子   「はい わかりました!」

   美砂子と少女に無数の桜の花びらが落ちる


○ 青空  (回想 昭和20年4月 朝)

  無数の桜の花びらが舞っている

  甲高いエンジンの音が遠くから近ずいて来る


○ 高瀬川の水面 (平成 朝)

  無数の桜の花びらが 流れて行く

  救急車のサイレンの音


○ とある陸軍飛行場 (回想 昭和20年4月 朝)

  鶴子 幸夫 山田 草むらの上で伏せている

  甲高いエンジンの音が遠くから近ずいて来る

  幸夫 少し頭を上げて空を見上げる


   幸夫   「来た! さあ 行くよ!」

    鶴子 幸夫の手を握り締める

    鶴子 幸夫 山田の上に無数の桜の花びらが舞う


○ 竹林の中の山荘 (昭和21年12月25日 夕)

  深々と雪が降っている

  2台の車 白い煙を吐きながら動き出す

  エンジンの音が響く


○ 山荘の長い廊下

  米軍将校を先頭に 小鶴 もみ春 豆千代 地方 ゆっくりと歩いている


○ 山荘の座敷の前

  米軍将校  小鶴 もみ春 豆千代 地方 立っている

  米軍将校 襖を開ける 

  マシュー・オーウエン(27歳 米陸軍の軍服) 背を向けて立っている

  マシュー 襖を開けた音で振り向く(アップ)

  小鶴 (アップ)

  マシュー 微笑み 座敷に入るように促す

  小鶴 もみ春 豆千代 地方 恐る恐る 座敷に入る

  将校 マシューに顔で合図を送り 戸を閉める


○ 次の間 

  4畳半ほどの座敷

  中央に机 角に座布団が4つ置いてある 

  小鶴 もみ春 豆千代 地方 うつむき立っている


  マシュー  「シダウン」

   マシュー 座るように促す

   小鶴 もみ春 豆千代 地方 顔を見合わせる

  マシュー  「プリーズ・・・ ハヴ ア シート」

   マシュー ゼスチャーで 座るように促す

   小鶴 もみ春 豆千代 地方 恐る恐る座る

   マシュー 背を向けて立っている

   ×××

   襖の向こうの座敷から2人の男の声(英語)がする

   襖が少し開き 男(日本人通訳)が顔を出してマシューにうなずく

   マシュー 小鶴 もみ春 豆千代に

  マシュー  「イッツ ショー タイム」

   小鶴 顔を上げ マシューを見る(アップ)

   マシュー 小鶴を見て うなずく(アップ)

   小鶴 ゆっくりと立ち上がる

   もみ春 豆千代 地方 ゆっくりと立ち上がる

   小鶴 もみ春 豆千代 地方 襖の前に座る

  


○ とある陸軍飛行場 (回想)

  幸夫 鶴子 山田 草むらに伏せている


  鶴子   「笑ろてるって・・・ そやったら アメリカ人 やっぱり 鬼やんか!」

  幸夫   「これが戦争なんだ 人間を鬼に変えてしまう それが戦争だ!」

  鶴子   「人を鬼に変えてしまう・・・」

   幸夫 鶴子 山田の上を甲高いエンジン音を立てて飛ぶ

  鶴子   「キャ!」 

   敵機が飛び去って行く

  鶴子   「これが・・・ 戦争・・・」


○ 襖

  マシュー 戸ってに手を掛ける


○ 置屋 松本の部屋(回想 昭和20年 夏)

  鶴子(汚れたセーラー服 もんぺ姿) 茶碗を手にして もくもくと食べている

 

  もみじ  「いややわ そんな 慌てて食べんでも」

   鶴子 むせる

  もみじ  「ほらほら」

   もみじ 鶴子の背中を擦る

  まみじ  「誰も 取らへんよ ゆっくり食べてね」

   鶴子 食べながら うなずく


○ 襖

  ゆっくりと開いて行く


○ とある陸軍飛行場 (回想)

  鶴子 幸夫の手を握り締める


  幸夫   「今だ!」

    幸夫 鶴子の手を引っ張って走る

    3人の背後からもう一機 敵機が飛んで来る

  幸夫   「畜生!」

    凄まじい機銃掃射の音がする


○ 襖

  ゆっくりと開いて行く


○ 高瀬川の小橋の上(回想) 

  小鶴 もみじ 欄干に腰をかけている


  もみじ  「小鶴ちゃん うちみたいに ならんといてね」

  小鶴   「えっ?」

   小鶴 もみじを見る

  もみじ  「恩返しなんて思わんと 小鶴ちゃんは小鶴ちゃん らしい やりたい事やったら

        ええんよ」

  小鶴   「・・・」

  もみじ  「雪道みたいに 足 取られて なかなか前に進めへんと思うけど ゆっくり 

        ゆっくり 歩いたらええんやよ」

  小鶴   「・・・」

   小鶴 小さく うなずく

  もみじ  「せっかく 神さんが助けてくれはってんもん お父さん お母さん お兄さん 

        お姉さんの分まで やりたい事やって 好きな人と結婚して幸せにならと死な

        はった人に申し訳ないやん!」

   もみじ 小鶴の顔をのぞき込む

  小鶴   「・・・」

   小鶴 小さく 首を横に振る

  もみじ  「そうか・・・ あんた 鶴 やもんな」

   小鶴 もみじに粉雪が落ちる


○ 襖

  ゆっくりと開いて行く


○ 三つ指をついた小鶴のうつむいた顔 (アップ)

  畳に付けた両手に涙が落ちる


○ とある陸軍飛行場 (回想)

  敵機(2機) 甲高いエンジン音を立てて飛び去って行く

  鶴子 放心状態で空を見上げてへたっている

  その横に山田が うつ伏せで倒れている

  鶴子 山田を見て 


  鶴子   「お おっちゃん? おっちゃん?」

    鶴子 山田を揺さぶる

  鶴子   「おっちゃん! おっちゃん! おっちゃんって!」

    山田 動かない

    山田の背中から 白い煙が上がっている

    幸夫 少し前に うつ伏せで倒れている

    鶴子 慌てて 駆けよる

  鶴子   「石田さん? 石田さん?」

    幸夫の背中からも白い煙が上がっている

  鶴子   「石田さん? 石田さん?」 

    鶴子 幸夫を揺さぶる

    幸夫 動かない

  鶴子   「石田さん! 石田さん! もう! 起きてえよ! 石田さんって!」

    鶴子 何度も激しく幸夫を揺さぶる

    幸夫 動かない

    鶴  「やっぱり このお守り 持ってたらよかったやん! 石田さん 石田さんって!」

    鶴子 何度も激しく幸夫を揺さぶる

    幸夫 動かない

  鶴子   「いやややー! こんなん いやややー! こんなん いやややー!」

    鶴子 空を見上げ激しく両手を膝に叩きつけて泣き叫ぶ

    鶴子 倒れている幸夫と山田の上に無数の桜の花びらが落ちる


○ 座敷

  襖がゆっくりと開く

  小鶴 もみ春 豆千代 その後に地方 三つ指をついて うつむいている


  小鶴   「先斗町の小鶴どす」

  もみ春  「もみ春どす」

  豆千代  「ま 豆千代どす」

  3人   「よろしゅー おたの申しますー」


 「祇園小唄」 流れる (地方の声)


  月はおぼろに東山 

  霞む夜毎のかがり火に


○ 鴨川沿いの道路(川端通り)

  タクシー 桜並木の道路を疾走している


 「祇園小唄」 流れる (地方の声)

  夢もいざよう紅桜

  しのぶ思いを振袖に

  祇園恋しや だらりの帯よ


  美砂子 タクシーの後部座席で電話をしている


○ 鴨川の納涼床 (昭和34年8月 夜)

  送り火(大文字) 赤々と燃えている

  三条大橋の上 小鶴 もみじ 豆千代 もみ春 眺めている


 「祇園小唄」 流れる (地方の声)

  夏は河原の夕涼み

  白い襟あしぼんぼりに

  かくす涙の口紅も

  燃えて身を焼く大文字

  祇園恋しや だらりの帯よ


○ 山荘の次の間 (昭和21年12月25日 夜)

  マシュー 襖の前に立っている


  「祇園小唄」 流れる (地方の声)

   鴨の河原の水やせて

   むせぶ瀬音に鐘の声

   枯れた柳に秋風が

   泣くよ今宵も夜もすがら

   祇園恋しや だらりの帯よ


○ 山荘(全景)

  屋根に降り積もる雪


  「祇園小唄」 流れる (地方の声)

   雪ほしとしと丸窓に

   つもる逢うせの差向い


○ とある総合病院の玄関 (平成 朝)

  タクシー 玄関に滑り込む

  美砂子 タクシーから降りて慌てて病院へと入る

  桜の花びらが舞う


  「祇園小唄」 流れる (地方の声)

   灯影ほかげつめたく小夜さよふけて

   もやい枕に川千鳥

   祇園恋しや だらりの帯よ


○ 病院の長い廊下

  コツコツコツと美砂子の急ぐ足音が響く








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