表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/36

第18話 鬼退治


○ 西木屋町付近 (平成 朝)

  高瀬川の水面

  朝日でキラキラ光っている 桜の花びらが落ちる

  美砂子 肩にショルダーバックを掛けて小さなスーツケースを引っ張り歩いている

  突然 スマホの着信音が鳴る


○ 高瀬川  

  朝日でキラキラ光る水面

  小鶴 しゃがみ込んで水面を見つめてタバコを吸っている

  

 クレジット 右下に小さく 昭和二十一年十二月二十五日 朝


   小鶴の背後からもみじの声がする

  もみじ(声)「おはようさん」

   小鶴 振り向いく もみじ 立っている

   もみじ 小鶴の横に しゃがみ込む

  小鶴    「お おはようさんどす」

   小鶴 慌ててタバコを地面で揉み消す

  もみじ   「何で 消すの もったいない」

  小鶴    「そやかて・・・」

   小鶴 消したタバコを袖に入れる 

  もみじ   「いよいよ 今晩やね」

  小鶴    「えっ?」

  もみじ   「アメリカさんのお座敷やん」

  小鶴    「そうですね 姉さんこそ 今晩・・・」

  もみじ   「そやったね」

   小鶴 もみじ 水面を見つめる 


○ 高瀬川   

  朝日でキラキラ光る水面


○ 高瀬川の小橋の上 

  小鶴 もみじ 欄干に腰をかけている


  もみじ   「今日のお座敷 ほんまに うちの為に行ってくれはるの?」

   小鶴 小さくうなずく

  もみじ   「おおきに」

  小鶴    「姉さん うちの命の恩人やし 姉さんが喜んでくれはるんやったらと思うて」

  もみじ   「命の恩人やて そんな おおげさな」

   小鶴 首を横に振る

  小鶴    「それから・・・」

   もみじ 小鶴の顔を覗き込み

  もみじ   「それから?」

  小鶴    「うち これぐらいしか でけへんと思もたんです」

  もみじ   「でけへんって? 何が?」

   小鶴 水面を見つめる


○ 高瀬川   

  朝日でキラキラ光る水面


○ 高瀬川の小橋の上 

  小鶴 もみじ 欄干に腰をかけている


  小鶴    「うち 姉さん見たいに でけへんのです」

  もみじ   「うち 見たいに?」

  小鶴    「姉さん こないだ うちに ゆわはったやん」

  もみじ   「こないだ?」

   小鶴 うなずく

  もみじ   「なんやろ?」

  小鶴    「ここ向いてないって・・・」

  もみじ   「あー かんにん かんにん でも それは・・・」

  小鶴    「うち 判ったんです」

  もみじ   「判ったって・・・ 何を?」

   小鶴 水面を見つめ

  小鶴    「姉さん見たいに 立派にお座敷 勤めて 水揚げしてもらう事が でけへんと

         ゆう事です」

   もみじ 小鶴の横顔を見る

  もみじ   「・・・」

  小鶴    「うち 姉さんと同じぐらい お母さんにも恩があります 雨風しのがせてもろて

         食べさせてもろて 綺麗なべべも着させてもろて 今まで生かせてもろてます」

  もみじ   「その代わり 小鶴ちゃん ちゃんと芸妓はん やってるやん」

  小鶴    「ちゃんとなんかしてまへん 酔ーて喧嘩して お母さんに迷惑かけてばっかりや

         うちの この性分 治らんと思うんです」

  もみじ   「性分って・・・ 小鶴ちゃん 子供の時からお転婆やったん?」

   小鶴 うなずき

  小鶴    「でも・・・」

  もみじ   「でも?」  

  小鶴    「・・・」

  もみじ   「きっと・・・」

  小鶴    「きっと?」

  もみじ   「あの戦争が そうしたんかなと思おて」

  小鶴    「・・・」

  もみじ   「今 あの戦争で 人生 狂わされた人 ばっかりやもん」

   小鶴 うなずく


○ とある陸軍飛行場 (昭和20年4月 朝)

  鶴子(セーラー服 もんぺ お下げ髪)幸夫(飛行服)桜の木の下の草むらに並んで座っている

  山田 二人の前でカメラを構えて立っている


  山田    「もう 少し ひっついて もらえませんかなぁー!」

   鶴子 幸夫 恥ずかしそうに身を寄せる

  山田    「そうそう いい感じです」

   山田 カメラを構える

  山田    「あー 顔が引きつってます 笑顔 笑顔 笑って 笑って!」

   鶴子 幸夫 作り笑いを浮かべる

  山田    「あー もう少し自然に笑ってもらえませんかなぁー!」

   鶴子 幸夫 また 顔がひきつる

   強い風が吹き 山田の帽子が飛ぶ ハゲている

  山田    「あー!」

   山田 帽子が飛んで行く方向を見る 

   鶴子 幸夫 思わず 笑う

   山田 振り返る

        「それ それ!」

   山田 シャッターを押す

  無数の桜の花びらが 三人に舞い落ちる


○ 三条木屋町 (昭和21年12月25日 夕)

  雪が降っている

  路上に2台の黒塗りの車が止まっている 

  車のそばに帽子を被ったコート姿の公三と男が3人寒そうに立っている

  男達 木屋町の方向を見る


○ 木屋町通り

  雪が降る中 赤い番傘をさした 小鶴 もみ春 豆千代 好江 信子 三味線を持った地方

  (じかた)がゆっくりと歩いて来る


○ 三条木屋町 (ロングショット)

  小鶴 もみ春 豆千代 車に近ずいて来る

  男A 4人に 黒い布で見隠しをする


○ 車の外

  男A 後部座席のドアを開ける 

  男A 3人に

  男A    「どうぞ」

   目隠しをされた 小鶴 もみ春 豆千代 乗り込む 

   男B 運転席に乗り 男A 助手席に乗り込む


○ 三条木屋町 (ロングショット)

  2台の車 雪の中を動き出す

  好江 信子 公三 見送る


○ 暗 

  もみじ(声)「大丈夫? 大丈夫・・・」

   画面 次第に明るくなって行く


○ もみじの顔 (回想 昭和20年 夏)  

  後に夏の強い太陽の光


  もみじ   「大丈夫?」


○ 先斗町 歌舞練場の前 (回想 昭和20年 夏)  

  夏の強い太陽の光

  うるさく セミが鳴いている 

  鶴子 倒れている(セーラー服 もんぺ お下げ髪)

  ホコリだらけで 首に カメラを掛けている


○ 車内 (昭和21年12月25日 夕)

  黒い布で目隠しをされた小鶴のアップ


  もみじ(声)「どこから 来はったん?」  


○ とある陸軍飛行場 (昭和20年4月 朝)


  山田    「いい 写真が撮れました ありがとうございます!」

   山田 笑顔でハゲ頭を下げる

   鶴子 笑顔で会釈する

  幸夫    「帽子 取って来ます!」

   幸夫 走って山田の帽子を取りに行く

   サイレンの音が けたたましく響く

  兵隊(声) 「敵機 来襲ー! 敵機 来襲ー! 退避ー! 退避ー!」

   敵機 3人の頭上を甲高いエンジンの音を立てて通過する

   鶴子 山田 手で頭を押さえて しゃがむ込む

   幸夫 手に山田の帽子を持って走って来る

  幸夫    「また 来ます!」

   幸夫 辺りを見渡す

  幸夫    「あそこの 塹壕まで走りましょう!」

   約50メートル先に 塹壕が見える

   また プロペラ音が 近ずいて来る

  幸夫    「伏せろ!」

   幸夫 鶴子と山田の背中を掴み 草むらに伏せる

  幸夫    「何で こんなに 近くに 来るまで判らないんだ・・・」

   敵機 3人の上を 甲高いエンジンの音を立てて通過する

  山田    「う 撃って来ないですね」

  幸夫    「アメ公やつら 僕らが 怖がってるの見て 笑ってるんですよ」

  山田    「笑ってる?」

  鶴子    「もう けえへんよね? もう けえへんよね?」

  幸夫    「いや きっとまた来る! ここは危ない! あそこの塹壕まで走れますか?」

  山田    「はっ はい・・」

  鶴子    「うち 駆けっこやったら 誰にも負けた事 あらへん!」

  幸夫    「それは 頼もしい 決して僕の手を離しちゃダメだよ!」

   鶴子 小さくうなずく

   また プロペラ音が近ずいて来る

   幸夫 鶴子と山田の上に覆いかぶさる 

   敵機 また3人の上を甲高いエンジンの音を立てて通過する

  幸夫    「グラマンか・・・」

  鶴子    「えっ?」

  幸夫    「グラマンは翼の先が四角いんだ 今度 来たら敵機に向かって走りましょう!」

  山田    「向かって走るって・・・ あなた 何を言うんだ!」

  幸夫    「飛行機から逃げちゃダメなんです! だって むこうの方がうんと速いんです!

         勝てっこありませんよ! 向かって走ってやり過ごすんです こんどこそ撃っ

         てくるかもしれません!」 

   また プロペラ音が近ずいて来る   

  幸夫    「僕が先に走るから 僕を盾にして走るんだ!」

   山田 うなずく

   鶴子 幸夫の手を握り締める



○ 車内 (昭和21年12月25日 夕)

  黒い布で目隠しをされた小鶴のアップ

  黒い布の下から涙がこぼれ落ちる


○ 高瀬川 六角付近 (平成 夜)

  美砂子 川沿いのベンチに座っている

  手に手紙を握り締めている

  目に涙を溜めている

  桜の花びらが美砂子に落ちる 


○ 車内 (昭和21年12月25日 夕)

  黒い布で見隠しをされた 小鶴 もみ春 豆千代 揺られている

  車が止まる

   男B 小声で

  男B(声)  「着きました」

  男A(声)  「到着しました もう目隠し取っていいですよ 手荒な事して申し訳ありません

          でした」

   小鶴 もみ春 豆千代 ゆっくりと目隠しを取って窓の外を見る 

   窓の外はすっかり暗くなっており雪を乗せた竹やぶの中にちらちらと山荘(日本家屋)の

   灯りが見える

  男A(声)  「しばらく お待ちを」

   一人の米軍将校(コート姿)が雪の降る中を車に近ずいて来る

   もみ春 豆千代 不安な表情をする

   小鶴 小声で

  小鶴     「怖いことあらへん」

   もみ春 豆千代 不安な表情で小鶴を見る

  小鶴     「怖いことあらへん うちら 鬼退治に来た桃太郎や」

  もみ春    「も 桃太郎・・・ そやったら やっぱり 桃太郎はんは姉さんどすやろ

          鬼退治 よろしゅう おたの申します・・・」

   小鶴 首を横に振り

  小鶴     「うううん 今日 うちは庚申さんのお猿さんや」

  もみ春    「庚申さんのお猿さん?」

  小鶴     「お母さんとの約束やねん 今日は み猿 きか猿 ゆは猿や 桃太郎さんは

          豆ちゃん あんたや」

   小鶴 豆千代を見る

   豆千代 震えた声で 

  豆千代    「う うち どすかぁー?」

   小鶴 豆千代をにらみ

  小鶴     「何か 文句あるんか!」

   豆千代 うつむく

   小鶴 微笑んで

  小鶴     「猿と豚がついてるさかい 安心し!」

  もみ春    「あのー姉さん? その豚って誰どすのん? 」

  小鶴     「うちが猿やさかい 他に誰がおるんや? 」

  もみ春    「う うちが豚どっかぁー 失礼やわぁー せめて雑種でも よろしおすし犬に

          してほしかったどす」

   小鶴 もみ春 豆千代 お互いの顔を見合わせて微笑む  

   ドアが開く

   小鶴 もみ春 豆千代 びっくっとする 

   米軍将校 降りるようにと首を振る

   男A 男B 車から降りる

   男A 降りる3人に傘をさす

   男B 3人に番傘を渡す 

   小鶴 もみ春 豆千代 番傘を受け取って ゆっくりと番傘(赤)をさす

   深々と降る雪の中を米軍将校を先頭に 小鶴 もみ春 豆千代 山荘に向って歩き出す 

   小鶴 前を見据える

   もみ春 豆千代 不安な顔をする

  幸夫(声)  「いいかい 鶴子ちゃん 今は戦ってるけど アメリカ人は そんな悪い人達じ

          ゃないんだ ほんとうは みんな 明るくて陽気な人達なんだ そう 信じて

          ほしい 決して負けた者にそんな酷い事はしないよ 僕の言葉を信じて!」

   小鶴 小声で歌う

  小鶴     「桃太郎さん 桃太郎さん お腰につけたきび団子 一つ わたしに下さいな」

   もみ春 豆千代 鶴子の顔を見る

   後に続き もみ春 豆千代 口ずさむ

  3人     「やりましょう やりましょう これから鬼の征伐について行くなら やりまし

          ょう・・・」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ