第17話 真由美さん
○ 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近 (昭和34年7月 夜)
ネオンの灯りが水面に揺れている
どこからか流れる 「ダイアナ」
橋の上を若者達が行き交い 木屋町通りをバイクが甲高いエンジン音を立てて走り去って行く
稲垣真由美 (派手な服装) 路上に立っている
そこへ男が駆け寄る
真由美 男に金を渡す
男 去って行く
真由美 泣く
それを 雅幸 橋の上から見ている(ギターを肩に掛けている)
真由美 泣きながらしゃがみ込む
雅幸 「ま まゆちゃん?」
真由美 見上げる
雅幸 立っている
真由美 「えっ! マーボー・・・?」
真由美 手で涙を拭う
雅幸 「やっぱり まゆちゃんや 久しぶり!」
真由美 「う うん・・・」
真由美 立ち上がる
雅幸 「どうしたん?」
真由美 「えっ?」
真由美 驚く
雅幸 「その かっこ やん」
真由美 「かっこ?」
真由美 自分の服を見る
○ 高瀬川 (夜)
ネオンの灯りが水面に揺れる
○ 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近
ネオンの灯りが水面に揺れている
雅幸 真由美 欄干に腰をかけている
真由美 「よー ここで遊んだね」
雅幸 「そやな 朝から晩まで よー遊んだな」
真由美 「うちら ほったらかし やったもんね」
雅幸 「夜中に 二人で 鬼ごっこ したり かくれんぼ したりしてたもんな」
真由美 「懐かしいね」
雅幸 「そやな」
真由美 「秘密基地 覚えてる?」
雅幸 「秘密基地? 覚えてる 覚えてる 鴨川の橋の下のやろ」
真由美 「よお GIから もらった チョコレート食べたやんな」
雅幸 「そうそう もらったん 先生に ばれたら 怒られるし 秘密基地で食べたな」
真由美 「美味しかったなぁー」
○ 高瀬川 (夜)
ネオンの灯りが揺れる水面
○ 小橋の上
ネオンの灯りが水面に揺れている
雅幸 真由美 欄干に腰をかけている
真由美 「うち 変わったやろ?」
雅幸 「そやったら 俺もや どや かっこええやろ?」
雅幸 リーゼントの髪を触る
真由美 「アホ! あっ! マーボー その顔 どうしたん?」
雅幸 「顔って?」
真由美 「アザだらけやん」
雅幸 「あー ちょっと 喧嘩してん」
真由美 「喧嘩? へー マーボー 喧嘩するように なったんや」
雅幸 「変わったやろ? 白井義男 みたいに強いんやで」
雅幸 シャドーボクシングをして微笑む
真由美 「アホ!」
真由美 「で マーボー 今 何してるん?」
雅幸 「歌手や!」
真由美 「えっ! か 歌手?」
真由美 驚く
雅幸 「やったら ええんやけど・・・」
真由美 「えっ?」
雅幸 「ラッキーでボーイしながら歌の修業してんねん」
真由美 「へー」
雅幸 「こないだ 初めてステージで歌わせてもろたんやで」
真由美 「そうなんや マーボー 昔から 歌 好きやったもんね」
雅幸 「そやったな」
真由美 「なぁー 覚えてる?」
雅幸 「何を?」
真由美 「ほら 小学校2年の時 やったかなぁー 地蔵盆で ほら ほら?」
雅幸 「あー 思い出した のど自慢大会で腕組んでデュエットしたな」
真由美 「そうそう ませた事して 町内の人 みんな びっくり してたやん」
雅幸 「あれ 何の曲やったけ・・・」
○ 高瀬川 (夜)
ネオンの灯りが揺れる水面
○ 小橋の上(夜)
ネオンの灯りが水面に揺れている
雅幸 真由美 欄干に腰をかけ 水面を見つめている
雅幸 「さっき さっき 何で 泣いてたん?」
真由美 うつむく
真由美 「・・・」
雅幸 「俺 見ててん」
真由美 「えっ?」
真由美 雅幸を見つめる
雅幸 「あの人 誰?」
真由美 「・・・」
雅幸 「付きおおてんの?」
真由美 瞳に涙を溜めうつむく
雅幸 「ゴメン ゴメン 言いとなかったら 別に ええで」
真由美 首を横に振る
雅幸 「コーラでも飲む?」
真由美 首を横に振る
真由美 「うち 今 家出 してんの」
雅幸 「家出?」
真由美 「うん・・・」
雅幸 「何で?」
真由美 水面を見めて
真由美 「お母ちゃん 死んでん」
雅幸 「へー お母さん 死なはったんや」
真由美 「うん 2年前に癌で」
雅幸 「そうかぁー ゴメンなぁー ぜんぜん 知らんかった」
真由美 首を横に振って
真由美 「それから お父ちゃん 人が変わって お酒 飲んでばっかりで 店も開けたり
閉めたりで だんだん お客さんも減って来てな」
雅幸 「それは そうやな」
真由美 「うちが働いたお金も みんな飲み代に使うし 大喧嘩して飛び出してしもてん」
雅幸 「へー 働いたって? まゆちゃん 高校 行ってたんちゃうん?」
真由美 首を横に振って
真由美 「お父ちゃんが こんななって 辞めてん」
雅幸 「そやったんや で 今 何の仕事してんの?」
真由美 「・・・」
真由美 ため息をつく
雅幸 「えっ?」
真由美 「初めは 京極の喫茶店で働いてたんやけどな」
雅幸 「うん 今は?」
真由美 雅幸の顔を見て
真由美 「この かっこ 見たら わかるやん! 新地や・・・」
雅幸 「新地・・・ ふーん で 今 何処に住んでんの?」
真由美 「本町のアパート 秘密にしといてな 誰にもゆうわんといてな」
雅幸 「う うん・・・ でも それ お父さん 知ったはんの?」
真由美 首を横に振る
雅幸 「あかんやん! きっと お父さん 心配したはるで」
真由美 「と 思うけど・・・」
雅幸 「思うけどって・・・ で そこ 一人で 住んでんの?」
真由美 「・・・」
雅幸 「さっきの 人と?」
真由美 「・・・」
真由美 しくしくと泣き出す
雅幸 「いらんこと聞いてしもたかな ゴメン ゴメン」
真由美 「もう これ以上 聞かんといて」
雅幸 「判った もう 聞かへん 聞かへん」
雅幸 「でも お父さんに京都にいる事だけでも ゆうたげんと あかんで」
真由美 「・・・」
真由美 うなずき 水面を見つめる
雅幸 「俺 いつも ここで練習してんねん」
真由美 「練習?」
雅幸 ギターを抱えて弦を弾く
真由美 「何か 弾いて」
雅幸 「うん・・・」
真由美 高瀬川を見つめて
真由美 「知ってた?」
雅幸 「何を?」
真由美 「この川 うちの働いてる店の前にも流れてるんよ・・・」
雅幸 ゆっくりと弦を弾く 「禁じられた遊び」
真由美 水面を見つめる
〇 回想 鴨川に架かる橋の下
雅幸 真由美(二人とも子供) 橋の下のバラック小屋でチョコレートを食べている
〇 回想 木屋町通り
雅幸 真由美(二人とも子供) 夜のネオン街を走り回っている
○ 高瀬川 (夜)
流れる 「禁じられた遊び」
ネオンの灯りが水面に揺れている
豆千代 木屋町通りから橋の上の雅幸と真由美を見ている
○ 高瀬川の水面 (夜)
流れる 「禁じられた遊び」
ネオンの灯りが揺れる水面 そこへ粉雪が落ちる
○ 回想 アパートの部屋 昭和50年代
流れる 「禁じられた遊び」
小さな窓から射し込んだ夕陽の光がキッチンを照らし出している
小さな流し台 小さなテーブル その下にリンダ(30代)が口から血を流し倒れている
美砂子(子供)それを無表情で見下ろしている
○ 高瀬川 (夜)
流れる 「禁じられた遊び」
ネオンの灯りが揺れる水面に桜の花びらが落ちる
○ とある路地裏 (平成 東山区本町付近 朝)
流れる 「禁じられた遊び」
美砂子 速足で歩いている
少女 古い木造のアパート(前に地蔵の祠がある)の前でケンケンパしている
少女 美砂子に気づいて にっこりと笑う
美砂子 笑顔で手を振る
無数の桜の花びらが舞う




