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第15話 初めてのタバコ

○ 先斗町通り (昭和21年12月 夕)

  粉雪が降っている


○ 置屋 松本 好江の部屋の中 

  小鶴 好江 火鉢を挟んで座っている


  好江    「そうかぁー 行ってくれるかぁー そら お役人はん 喜ばはりますわぁー 

         おおきに おおきに さっそく こうさんに連絡せんと」

   好江 腰をあげようとする

  小鶴    「その代わり・・・」

  好江    「その代わり? 何どす?」

  小鶴    「その代わり 一緒に行く 舞妓・・・」

  好江    「あー 舞妓はん やったら 里乃にしょうと思てるんどす あの子 まあまあ 

         踊れるしな」

  小鶴    「うち 豆に したいんどすけど」

  好江    「ま 豆って まさか 豆千代どすかいな」

  小鶴    「そうどすけど」

  好江    「あかん あかん! あの子 ほんま 物覚え悪ーて まだ 祇園小唄も ろくに

         踊れまへん それに 暗ろおすし しくじるの 目に見えてますわぁー」

  小鶴    「お母さん 相手 アメ公どっしゃろ 少々 まちごーても判りまへんって」

  好江    「まぁ それはそやけど・・・ 日本のお偉いさんもご一緒みたいどすしなぁー」

  小鶴    「うち 豆やなかったら 辞めときまっせ!」

  好江    「そ それは困るわぁー」 

   小鶴 好江をにらむ

   好江 目を反らし

  好江    「まぁ ちょっとだけやしなぁー そやったら 豆ちゃんに しまひょか」

  小鶴    「それ ほんまどすな!」

  好江    「その代わり あんたが責任持って ちゃんと教えたげてやぁ それから あんたも

         喋ったらあきまへんえ 喋ったら」

   小鶴 好江をにらみ うなずく

  好江    「でも あんた 何で そこまで 豆ちゃんを?」

  小鶴    「それは・・・」

  好江    「そやったな あんたも豆ちゃんも 境遇 似てるもんな」

   小鶴 微笑み

  小鶴    「こりゃ 面白なってきましたなぁー ほな!」

   小鶴 腰を上げる

  好江    「くれぐれも 豆ちゃんに いらん事 教えたらあきまへんえ いらんことを!」

   小鶴 襖を開け出て行く


○ 同 廊下

 小鶴 「露営の歌」を歌いながら歩いて行く 

  小鶴    「勝って来るぞと勇ましくー 誓って 国を出たからにぁー・・・」  

  好江    「これこれ 小鶴? 何考えてんにゃー これこれ!」

   好江 小鶴の後を追って出て 立ち止まり

  好江    「あたー また 真珠湾やぁー!」


○ 同 控え室 (夕)

  6畳の和室に鏡台が数台 並んでいる

  小鶴 もみ春 鏡台に向い化粧をしている


  もみ春   「それで 姉さん 豆ちゃんどうしはるつもりどす?」

  小鶴    「別に」

   小鶴 顔に白粉を塗る

  もみ春   「別にって?」

   もみ春 顔に白粉を塗る

  小鶴    「もう 明後日やし どうせ お稽古しても 一緒やろ」

   小鶴 顔に白粉を塗る

  もみ春   「それは そうどすけど お母さんの手前 ちょっとぐらい やっといた方が 

         ええのと ちゃいますかぁー?」

   もみ春 顔に白粉を塗る

  小鶴    「邪魔くさい 邪魔くさい 豆に ちょっとぐらい教えも時間の無駄や あんたも

         そう思わへんか?」

   小鶴 顔に白粉を塗る

  もみ春   「それは そうどすなぁー あんな どんくさい子 見たことおまへんわ」

   もみ春 首に白粉を塗る

  小鶴    「ぶっつけ本番や 好きなように踊らそ」

   小鶴 首に白粉を塗る

  もみ春   「そうどすなぁー そうどしたら 逆に豆ちゃんも緊張せんと踊れるかも」

   もみ春 首に白粉を塗る

  小鶴    「春ちゃん 頼むで」

   小鶴 首に白粉を塗る

  もみ春   「頼むって 何をどす?」

   もみ春 唇に紅を塗る

  小鶴    「鬼退治」

   小鶴 鏡に映った自分の顔を見つめる

   もみ春 小鶴の顔を見る

  もみ春   「お 鬼退治?」

  小鶴    「そうや」

  鏡に映った小鶴の顔

  小鶴 唇に紅を塗る


○ 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近 (夜)

  提灯の赤い灯りが水面に揺れている

  豆千代(浴衣の上にどてらを羽織っている)欄干に座って足をぶらぶらさせて水面を見ている

  小鶴が来る


  小鶴    「豆!」

   豆千代 びくっとして振り向く

  豆千代   「姉さん・・・ 今日は もう お座敷 終わりどすか?」

  小鶴    「そうや こんな早よ終わって湿気てるわぁー あんたは今日 無かったんか?」

   豆千代 うなずく  

  小鶴    「何や 今日はお風呂 入れてもらえたんかいな」   

  豆千代   「はい」

   豆千代 微笑んでうなずく

  豆千代   「おかげさんで 入らさせてもらいました 気持ち良かったぁー 身体の芯から

         ポカポカどす 姉さん お母さんにゆうてくれはったんどすやろ? おおきに」

  小鶴    「礼ゆうわんかてええで うちは ただ あんたがあんまり臭いさかい 近所迷惑

         やと思おて ゆうただけやし」

   豆千代 微笑む

  小鶴    「せっかく入ったのに こんなとこ居てたら 風邪ひくで」

   豆千代 うなずいて微笑む 

  小鶴    「それはそうと 明後日 頼むで」

   小鶴 袖からタバコの箱を出す

  豆千代   「・・・」

   豆千代 うつむく

  小鶴    「何や 急に 元気なくして そんなに うちと 行ん いやなんか?」

  豆千代   「・・・」

   豆千代 首を横に振る

  豆千代   「何で・・・ 何で うちなんどす?」

   小鶴 水面を見つめ 微笑んで

  小鶴    「うちと 同じ匂いがするねん」

  豆千代   「えっ?」

   豆千代 驚いて小鶴の顔を見る

  小鶴    「臭い 匂いとちやうでぇー」

   豆千代 くすっと笑う

  小鶴    「あんた 何 笑ろとんねん!」

  豆千代   「す すんまへん・・・」

   小鶴 タバコ箱からタバコを一本出し口に咥える

  小鶴    「火ー」

  豆千代   「えっ?」

  小鶴    「火ーや 火! あんた 見てわからんか?」

   小鶴 タバコを口から取る

  豆千代   「うち マッチ 持ってまへん・・・」

   小鶴 袖からマッチ箱を出し 豆千代に放り投げる

   豆千代 受け取れず 地面に落とす

  小鶴    「あー どんくさぁー」

   小鶴 マッチ箱を拾って豆千代に渡してタバコを咥える

   豆千代 マッチをするが なかなかつかない

  小鶴    「もう!」

   小鶴 咥えていたタバコを豆千代に渡す

  豆千代   「えっ?」

  小鶴    「咥えてみい!」

  豆千代   「えっ?」

  小鶴    「口に咥えてみって ゆうてんねん! あんた つんぼかぁー」

   豆千代 脅えて

  豆千代   「う うち まだ 吸うた事 おまへん」

  小鶴    「誰が 吸えて ゆうた! 口に 咥えるだけや マッチのすり方 教えたろ」

   豆千代 うなずき 恐る恐る タバコを咥える

  小鶴    「あんたも 一人ぼっち うちも 一人ぼっち この鳥籠から出られへんな」

   小鶴 マッチを擦って火をつける 

   豆千代の顔が炎の灯りで照らされる  

   豆千代 むせかえる

  小鶴    「アホ! あんた 吸うたんかいな アホやなー」

   小鶴 激しく むせかえっている豆千代の背中をさする


○ 高瀬川 (夜)

  提灯の赤い灯りが水面に揺れている 次第にネオンの灯りに変わって行く








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