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第12話 豆千代さん


○ 高瀬川の水面 

  水面に黄色い月が揺れている 次第に夕日の光が写り込む

  水面に粉雪が落ちる


○ 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近 (昭和21年12月 夕)

  粉雪が夕日の光が写り込む水面に落ちて行く 

  通り沿いの店先に吊るされている赤い提灯が風で揺れている

  豆千代(15歳)夕日に照らされて寒そうに欄干に腰をかけている


  小鶴   「豆!」

   小鶴 豆千代の横に腰をかける

   豆千代 びくっとして振り向く

  豆千代  「こ 小鶴姉さん!」

  小鶴   「何してんねん?」

  豆千代  「な 何にも してまへん・・・」

   豆千代 うつむく

  小鶴   「何にもしてへんって あんた 座ってるやん」

  豆千代  「すんまへん・・・」

   豆千代 頭を下げる

  小鶴   「あんた おもろい子やなぁー 座ってるだけで 何で謝るんや」

  豆千代  「すんまへん・・・」

   豆千代 頭を下げる

  小鶴   「あんた・・・ ここ好きかぁー?」

  豆千代  「えっ?」

   豆千代 顔を上げる 目に涙を溜めている

  小鶴   「なんや 泣いてんの?」

   小鶴 冷たい目で豆千代を見る

  豆千代  「泣いてまへん・・・」

   豆千代 手で涙を拭う

  小鶴   「泣いてるやん 泣いてんの邪魔したらあかんし」

   小鶴 腰を上げる

  豆千代  「うち ここ 嫌いどす!」

  小鶴   「えっ?」

  豆千代  「嫌い・・・ どす」

  小鶴   「へーえ そんな事 ゆうて ええの?」

   小鶴 腰を下ろす

  小鶴   「そら 嫌いやわなぁー 踊りは下手やわ 愛嬌ないわ どんくさいわ ションベン

        臭いわ あんた ええとこなしやもんなぁー 嫌いになんのん判るわぁー」

   豆千代 うつむき しくしくと泣き出す

  小鶴   「あー 陰気臭! あんた それが あかんねん 泣くことしかでけのんかいな 

        そやし皆からイジメられるんやで ろくに風呂も入れてもらってないやろ

        あー臭!」

  豆千代  「す すんまへん すんまへん・・・」

   豆千代 頭を下げる

  小鶴   「あんた ここが そんな嫌いやったら 早よ 辞めーな」

   豆千代 しくしくと泣いてうつむく

  小鶴   「泣くな! そんな泣き味噌 うち 大嫌いや!」

   小鶴 豆千代に肩を寄て

  小鶴   「なぁー? 豆ちゃん? うちも 一緒やねん うちも ここ大嫌いや さっきな 

        もみやん姉さんに ここ向いてないって言われたとこや」

   豆千代 小鶴の顔を見る

  小鶴   「でもな お母さんに死にかけてるとこ助けてもーた恩があるし 今かて 綺麗な

        べべ着させてもーて 食べさせてもーて 寝かせてもろてる 恩返しするまでは 

        辞めるなんか 考えられへんのんや あんたもそやろ?」

   豆千代 小さくうなずく

  小鶴   「うちらの恩返しゆーたら お座敷出て 踊って お酌して お酒飲んで それから

        もみやん姉さんみたいに・・・」 

   豆千代 小鶴の顔を見る

   小鶴 目をそらして水面を見つめる

  小鶴   「あんた 何か ほかに やりたい事 あんのか?」

   豆千代 軽くうなずく

  小鶴   「そうか・・・ なぁ? 今度 うちと お座敷 行ってもらうし」

  豆千代  「えっ?」

   豆千代 びっくりする

  小鶴   「そんな おびえんでも・・・」

   豆千代 首を横に振る

  豆千代  「う うち 何するんどす?」

  小鶴   「アホ! あんた 舞妓ちゃうんか? やること 決まってるやろ!」

  豆千代  「そ それは 判ってますけど・・・」

  小鶴   「けど 何や!」

  豆千代  「うち・・・」

   豆千代 うつむいて黙りこむ

  小鶴   「もー 何や! ゆうてみいな しんきくさいなぁー」

  豆千代  「う うち うまいこと 踊れまへん・・・」

  小鶴   「どアホ! そんなん 初めっから 判ってるわ ボケ!」

   豆千代 泣き顔で

  豆千代  「そ そやったら 何で う うち なんどす?」

  小鶴   「それは 行ってからのお楽しみや」

  豆千代  「えっ?」 

  小鶴   「安心し 春ちゃんも 一緒やし」

   豆千代 微笑む

  小鶴   「あー あほらし うちの事 そんな 嫌いなんか?」

   小鶴 腰を上げる

  小鶴   「あんた ほんまに 臭いで 風呂入りや ゆうといたるわ あー臭!」

   小鶴 指で鼻をつまみ 歩いて行く


○ 高瀬川 (夕から夜)

  夕日の色の水面に粉雪が落ちる 次第に水面にネオンの灯り揺れる


○ 木屋町通り (平成 夜)

  高瀬川沿いの桜並木がライトアップされている

  多くの人が行き交っている

  美砂子 リカ 歩いている


○ 先斗町通り  (夜)

  狭い路地に立ち並ぶ飲食店の色とりどりの看板の灯りの下を大勢の人が行き交っている

  美砂子 リカ 歩いている


 リカ    「へー それで 不倫しはったんですかぁー?」

 美砂子    「そ そうなんです 恥ずかしいですけど・・・」

  美砂子 リカ 狭い路地に入って行く


○ 豆千代の店内 (夜)

  格子戸が開く


  久美   「すんまへん まだ・・・」

   久美 カウンター越しに立ち支度をしている

  リカ   「うちや!」

   久美 顔を上げて

  久美   「なんや あんたかいな」

  リカ   「何や あんたかいなって それが久しぶりに おおた 娘に ゆうセリフかぁー」

  久美   「そやかて 突然やし」

  リカ   「突然って 自分の家に 突然 帰ったら あかんの?」

  久美   「何にも そんな事ゆうてません 最近 ちっとも 顔 見せんと 久しぶりやし 

        ちょっと びっくりしただけや」

  リカ   「いろいろと 忙しかってん」

  久美   「何が 忙しいの また なんちゃらゆうアイドルのライブ行くのにやろ」

  リカ   「ほっといてー 来週 また埼玉 行って来るし あっ! 忘れてた! ママ 

        お客さん 連れて来てん」

  久美   「お客さん?」

   リカ 振り返り

  リカ   「お待たせしました ごめんなさい! どうぞ」

  美砂子  「こ 今晩は」

   美砂子 入って来る

  久美   「あら 美砂子さん!」

   久美 驚く

   美砂子 会釈する

  リカ   「ママ 実はな・・・」

   リカ カウンター席に座る

   久美 美砂子に

  久美   「どうぞ」

  美砂子  「ありがとうございます」

   美砂子 座る

  リカ   「実はな あの写真 知ってるやろ?」

  久美   「はぁー あの白黒写真」

   久美 美砂子を見る

  リカ   「あの写真 うちの店に飾ってあった写真やってん」

  久美   「へー そやったんかいな」

  美砂子  「すみません 昨日 言い忘れてて・・・」

  久美   「いいえ そやったんですか でも びっくりですね」 

  美砂子  「はい 私も リカさんが チヨさんのお孫さんと聞いて びっくりしました」

  久美   「まぁー 孫とゆうても・・・」

  リカ   「ママ それは・・・ また 後で ゆっくりと・・・ それはそうと あの写真

        陽一さんのお父さんが持ってはってんて」

  久美   「陽一さんのお父さんって あの 亡くなった ちどり軒の大将かいな?」

  リカ   「そうや」

  久美   「何で また?」

  リカ   「ママ 知ってた? 陽一さんのお父さん 歌手やってんて」

  久美   「へー 歌手? あの無口な 頑固爺さんが?」

  リカ   「びっくりやろ」

  久美   「ほんまやな」

  リカ   「そ それはそうと お腹すいた 何かある?」

  久美   「あんた お腹すいた時にしか帰ってきいひんのんかいな」

   久美 美砂子に

  久美   「ゴメンなさいね お茶も出さんと」

  美砂子  「いいえ」

  リカ   「ママ お茶より ビール ちょうだい!」

   久美 美砂子に

  久美   「ビール? ここのビール 売りもんやけどなぁー」

  リカ   「ええやん 何時もの ことやん!」

   久美 美砂子に

  久美   「この子 お金 無かったら 何時も これどすにゃ」

   久美 微笑む

  リカ   「ママ!」

   リカ 久美をにらむ

  久美   「あんた 今日 お店は?」

   久美 美砂子とリカの前にグラスを置く

  リカ   「今日 陽一さん 早よ 上がらせてくれはってん」

   久美 瓶ビールの栓を抜いて 美砂子に差し出す

  美砂子  「いいんですか?」

   久美  うなずく

  美砂子  「あっ ありがとうございます!」

   美砂子 グラスを差し出す

   泡立つビール

  久美   「何が よろしおす? まだ 全部 出来てまへんけど」

  リカ   「私 これと これと この おナス ちょうだい」

  久美   「美砂子さんは 何に しはります?」

  美砂子  「はい じゃあ リカさんと 一緒のもので・・・」

   美砂子 ビールを飲む

  リカ   「お母ちゃんが 炊いた おナス ほんま 美味しいんですよ」

  美砂子  「そうですね 昨日 頂いもの 全部 美味しかったです」

  久美   「おおきに おおきに おナスの炊き方から お魚の煮方まで 全部 おチヨさんに

        教えてもろたんですよ」

  美砂子  「へー そうなんですね」

  リカ   「ところで おチヨさん 元気にしたはるの?」

   とリカ 自分でビールをグラスにつぐ

  久美   「それが 今日の朝から ぐわい わるーて ずっと 寝てはるんや」

  リカ   「熱あんの?」

   リカ ビールを飲む

  久美   「熱は 微熱程度なんやけど 朝 小川さんに 来てもろて お薬 出してもろたん

        やけどな 美砂子さん ごめんなさいねぇー 今日 お話 でけへんかも しれん

        へんわ」

  美砂子  「いえ・・・」

  リカ   「そやったら 今日 パチンコ 行ったらへんにぁ」

  久美   「そうや たまには 休んでもらわんとな」

   久美 美砂子とリカの前に料理を盛った小皿を置く

  久美   「あっ! そうそう 美砂子さん?」

  美砂子  「はい?」

  久美   「夕べ あれから おチヨさん タンスの中から 写真 出して来はったんです」

  美砂子  「写真ですか?」

   美砂子 ビールを飲み干す

  久美   「後は ご自由に」

   久美 奥に行く

  美砂子  「あっ はい ありがとうございます」

   美砂子 自分でビールをグラスにつぐ

   久美 戻って来る

  久美   「この写真なんですけど・・・」

   久美 美砂子に写真を渡す


○ 古いモノクロ写真

  飛行服を着た軍人とお下げ髪セーラー服モンペ姿の女学生が草むらに寄り添って座っている 

  二人とも笑顔である


○ 同店内 

  美砂子  「これ チヨさんですか?」

  久美   「いいえ ちゃうと 思います」

  美砂子  「じゃあ どなたですか?」

  久美   「それが おチヨさん 聞いても 黙ったままで 何にも ゆわらしませんにゃ」

  リカ   「また 謎の写真・・・ 何かサスペンスドラマみたいやな 京都 何とか殺人事件

        みたいな」

  久美   「アホ!」

   リカ 舌を出す

  久美   「これ 戦争中の写真どすやろな」

  美砂子  「戦争中・・・ ここどこでしょうね」

  久美   「さぁー」

   久美 首を傾げる

  リカ   「もしかして この草むら 飛行場とちゃう?」

  美砂子  「飛行場?」

  リカ   「はい この前 DVDで見た戦争の映画で こんなとこ 出てきたと思うんです」

  美砂子  「確かに この人 パイロットですもんね」

  久美   「それはそうと 何で おチヨさん こんな写真 持ったはったんやろ」

  リカ   「そやな 私の推理やと この女の子が おチヨさんと 何か 関係があるんちゃう

        やろか 例えば 友達とか」

  美砂子  「あっ!」

   美砂子 大きな声を出す

   久美 リカ びくっとして ビールをこぼす

  リカ   「ど どないしはったん?」

   ラジオからヒットソングが流れる


○ 高瀬川の水面 (夜)

  水面にネオンの灯り揺れる

  平成のヒットソングから昭和34年当時の歌謡曲に変わっ行く






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