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第10話 昭和34年 夏 木屋町


○ 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近 (昭和34年7月 夜)

  ネオンの灯りが水面に揺れている


  稲垣雅幸(リーゼント アロハシャツ ブールージーンズ) 橋の欄干に腰かけてギターの弦を

  指で弾いている

  雅幸 小さな声で歌い出す 


  ラヴ・ミー・テンダー

  Love me tender,love me sweet,never let me go.

  You have made my life complete,and I love you so. 

  Love me tender,love me true・・・


   木屋町通りを二人乗りのバイクが甲高いエンジン音を立て走って来て止まる

   運転 泰史  後 和夫 


  泰史   「マーボー!」

  雅幸   「おう!」

   雅幸 手を上げる

  泰史   「玉 突きに 行かへんけ?」

  雅幸   「あー 今 練習してるし 後で 行くわぁー」

  泰史   「練習ちゃうやろ また 姉さん 待ってるんやろ?」

  雅幸   「ちゃうよ!」

  泰史   「やめとけ やめとけ! あんな玄人 好きになっても どないしょうもないぞ 

        それに姉さん 俺らと いくつちゃうと思てんねん」

  和夫   「マーボー 年上が 好きなんけ?」

  雅幸   「そんなん ちゃうて ゆうてるやろ!」

  泰史   「あー こわー 待ってるし 早よ 来いよ!」

   バイク 甲高いエンジンの音を立てて走って行く


○ 高瀬川 (夜)

  ネオンの灯りが水面に揺れている


  クレジット(右下に小さく) 昭和三十四年 文月 木屋町


  美砂子(N)「昭和34年 日本は天照大神が天の岩戸に隠れて以来の好景気として名付けられ

         た 岩戸景気が始まっていました 4月には皇太子様が美智子様と御成婚 5月

         には東京でオリンピックの開催が決定され 長嶋選手が天覧試合でサヨナラホー

         ムランをかっと飛ばした 日本中がエネルギーに満ち溢れた年でした 人達はあ

         の戦争の事なんか思い出す暇もなくただただ前だけを見て一生懸命働いていまし

         た この頃の若者にとって もうアメリカは敵では無く 憧れの国となっていま

         した」


○ 高瀬川に架かる小橋の上 六角付近 (夜)

  稲垣雅幸 橋の欄干に腰かけて足元のコーラを飲んでギターの弦を指で弾く


  豆千代  「マーボちゃん?」

   豆千代 雅幸の横に腰をかける

  雅幸   「ね 姉さん・・・」

   雅幸 びくっとして 振り向く

  雅幸   「き 今日 もう 終わりですかぁー?」

  豆千代  「そうや あー熱つ」

   豆千代 手で顔を扇ぐ

  豆千代  「今日も よう 飲まされたわぁー もう ふらふらや」

   豆千代 ため息とつく   

  雅幸   「飲まされたんちゃうんやろ 自分で飲んだんやろ」

   豆千代 にっこりと微笑む

  豆千代  「あっ! コーラ ちょうだい!」

   豆千代 雅幸の足元の飲みかけの瓶コーラをラッパ飲みする

  雅幸   「あっ! それ!」

  豆千代  「あー おいし ふぅー」

   豆千代 ため息をつく

  豆千代  「なんや また ここで 練習してんの?」

   豆千代 雅幸にコーラを渡す

  雅幸   「う うん・・・」

  豆千代  「ここ好きなん?」

  雅幸   「うん この川 見たら 何か 落ち着くねん」

  豆千代  「ふーん ちょっとは 上手になったかぁー?」

  雅幸   「まだ ぜんぜん あかんわぁー」 

  豆千代  「ちょっと 歌とてみいさぁー うち 聞いたげるわぁー」

  雅幸   「ええわ」

   雅幸 目をそらす

  豆千代  「どうしたん?」

   豆千代 雅幸に肩を寄せて 顔をのぞき込む

  雅幸   「近いって!」

   雅幸 思わずコーラを飲む

  雅幸   「あっ!」

  豆千代  「えっ? ひょっとして 恥ずかしいんか?」

   豆千代 さらに雅幸の顔をのぞき込む

  雅幸   「ちゃうよ!」

  豆千代  「顔 赤いでぇー」

  雅幸   「もう からかわんといてよ! 姉ーさんこそ お酒 臭いで」

   雅幸 豆千代から少し離れる

  豆千代  「悪かったなぁー 飲むんが うちの仕事やし しょーがないやろぉー はぁー」

   豆千代 雅幸に息を吹き掛けて微笑む

  豆千代  「マーボちゃんは 彼女とか いいひんの?」

  雅幸   「えっ? そ そんなん いいひんよ!」

  豆千代  「そやったら 好きな人は?」

  雅幸   「そ そんなんも いいひんよ!」

  豆千代  「そんな 怖い顔して 怒らんでもええやん!」

  雅幸   「べ 別に 怒ってないよ!」

  豆千代  「ほらほら 顔 真っかっかやん ほんまは好きな人いんにゃろ? ゆーてみーさぁ

        ー」

  雅幸   「もー うるさなぁー!」

  豆千代  「かんにん かんにん そんな 怒らんでも・・・ もう 聞かへん 聞かへん!」

   豆千代  微笑み 雅幸の顔を覗き込んで

  豆千代  「マーボちゃんは やっぱり 歌手になりたいの?」

  雅幸   「えっ? ま まだ 判らへん・・・ 俺 そんな 才能ないし」

  豆千代  「才能ないって・・・ そんなん 自分で決めたらあかんわぁー」

  雅幸   「えっ?」

  豆千代  「それは 人が 決めることや」

  雅幸   「そうかなぁー?」

  豆千代  「そうや こないだ ラッキーで 歌ってたやろ?」

  雅幸   「えっ? 何で 知ってんの?」

  豆千代  「あの日 お客さんとラッキーに いたんやで」

  雅幸   「そ そやったん? あの日 支配人から 試しに ちょっと歌とてみいひんかって

        言われて・・・ でも お客さん みんな 酔っ払らってて 俺の歌なんか 誰も

        聞いてへんかったけどな 支配人 そやし 歌わせてくれたと思うやけど」

  豆千代  「でも うちは しっかり 聞いてたよ」

  雅幸   「えっ?」

  豆千代  「えー 声してるやん! もっと 自信 持ちやぁー」

  雅幸   「そ そうかなぁー 実は あの日が 初舞台やってん」

  豆千代  「そやったん? そやったら うちがマーボちゃんのファン第1号やね」

  雅幸   「あ ありがとう」 

   暫く沈黙

  雅幸   「と ところで 姉さんは これからどうするん?」

  豆千代  「これからって?」

  雅幸   「ずっと 芸妓はん 続けんの?」

  豆千代  「そやなぁー どないしょうかなぁー」

   豆千代 夜空を見上げる

  豆千代  「もう 年やし そろそろ 決めんとあかんのんかなぁー」

  雅幸   「年って ま まだ若いよ」

  豆千代  「おおきに おおきに お世辞でも 嬉しいわぁー でも マーボちゃんから見たら

        ええ おばちゃんや」

  雅幸   「そ そんなことないよ!」

  豆千代  「ほらほら また 顔 真っかっかやん」

  雅幸   「悪かったなぁー 顔 あこなんのん 体質や ほっといて!」

  豆千代  「うちなぁー ありきたりやけど 小料理さん したいかな」

  雅幸   「小料理さん? ふーん」 

  豆千代  「それには 早よ スポンサー見つけんと」

  雅幸   「スポンサーって? それって まさか だ 旦那さんの事?」

  豆千代  「この年になって 旦那はん いいひんの 恥ずかしいわぁー どっかに大金持ちで

        地位も 名誉もあって 若こーて ハンサム そんな人 いいひんかなぁー」

   雅幸   うつむく

  豆千代  「どないしたん?」

  雅幸   「どないもしてへん!」

  豆千代  「早よ 歌とてみーさぁー もう しんきくさいなぁー」

  雅幸   「今 そんな 気分ちゃうよ」

  豆千代  「酔ーたら 歌とてくれる?」

  雅幸   「えっ?」

   雅幸 振り向く

  豆千代  「はぁー」

   豆千代 雅幸の顔に息を吹き掛けて にっこりと微笑む


○ 高瀬川 (夜から朝)

  ネオンの灯りが水面に揺れている 

  そこへ桜の花びらが水面に落ちる  


○ とある路地裏 (東山区本町付近 朝)

  新しいアパートと木造の古いアパートが混在して立ち並んでいる

  美砂子 歩いている

  少女 古い木造のアパート(前に地蔵の祠がある)の前でしゃがんで猫に餌をやっている

  美砂子 立ち止まって少女の横にしゃがみ込んで

  美砂子  「こんにちは・・・ はい!」

   美砂子 少女にアメ玉を差し出す

   少女 にっこり 微笑む

   美砂子 少女(アメ玉を舐めている) 餌を食べる猫を見つめている

   少女 美砂子のショルダーバックに付いている色あせた赤いお守り袋を見る

  美砂子  「あっ! これ これは・・・」

   少女 突然 立ち上がりアパートの外付けの階段へと走って行く

   美砂子 少女の後を追う










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