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第9話 もみじさん

○ 高瀬川 (夜から夕へ)

   風が吹いて桜の花びらがネオンの灯りが揺れる水面に落ちる

   画面 次第にオレンジ色となり粉雪が水面に落ちる


○ 高瀬川 (昭和21年12月 夕)

  粉雪が舞っている

  風で通り沿いの店先に吊るされている赤い提灯が揺れている

  小鶴 しゃがみ込んで猫に餌をやっている


  小鶴    「あんた よう食べるようになったなぁー」

   小鶴 猫をなでる 

   猫 夢中で餌を食べている

  小鶴    「行儀悪いなぁー おっちんして 食べな はい おっちん!」

   小鶴 猫を座らせる

  小鶴    「ほらほら こぼしてる そんな慌てんでも 誰も取らへん あんたも 一人ぼっ

         ちやもんな あっ 一匹か あんた どう思う? このまま ここに居て ええ

         んかな このまま もみやん姉さんみたいに金持ちに 水揚げしてもらうんが

         ええんやろか 判らんわぁー もう やりたい事も諦めてしもたし あんた

         みたいに 食させてもろて寝るだけになんにゃろか」

   小鶴 猫に話しかけている

  もみじ(声)「小鶴ちゃん」

   小鶴の背後から もみじ(北村鈴代)の声がして小鶴の横にしゃがむ

   小鶴 振りむいて

  小鶴    「も もみやん姉さん・・・」 

  もみじ   「この猫 オス? メス?」

   もみじ 猫をなでる

  小鶴    「さあー どっちやろか」

  もみじ   「小鶴ちゃんに なついてるし たぶん メスちゃうやろか」

  小鶴    「えっ?」

  もみじ   「小鶴ちゃん 男はんより おなごはんに好かれんもんな」 

  小鶴    「失礼やわぁー でも 確かに うち 男はんとは 相性 悪いですわ」

  もみじ   「そやったら この 花街 向いてないね」

  小鶴    「ほんまですね」

  もみじ   「小鶴ちゃんは 他に やりたい事 あんの?」

  小鶴    「えっ? やりたい事? 昔は あったけど 今は 別に・・・」

  もみじ   「うちは 小さい時は 看護婦さんに なりたかったんよ」

  小鶴    「看護婦さん・・・」

  もみじ   「小鶴ちゃん?」

  小鶴    「はい」

  もみじ   「進駐軍のお座敷に 行ってくれへんやろか?」

  小鶴    「えっ? それは・・・」

  もみじ   「うちが 行ってあげたいけど 小鶴ちゃんも 知ってると思うけど うち その

         日 大事なお座敷なんよ」

  小鶴    「姉さん お母さんに頼まれて 言いに来はったん? それやったら お母さん

         に きっぱりとお断りしましたし! いくら 姉さんでもお聞き出来まへんな」

  もみじ   「市梅はんは お父さんのぐわいが悪るうて 丹波に帰らはるし 豆佳はんは 

         きつー 風邪ひいて 熱出したはるし 春ちゃんは まだ 心もとないし 小鶴

         ちゃんしか いいひんの どうえ 行ってくれんやろか?」

  小鶴    「それは 判ってますけど アメ公の前で そんな恥かけへんし」

  もみじ   「小鶴ちゃん? 小鶴ちゃんは 踊りを恥やと思たはんの?」

  小鶴    「えっ? それは・・・」

  もみじ   「京の踊りは 立派な 芸術なんよ もっと この花街に誇り持たんと」

  小鶴    「誇り?」

  もみじ   「小鶴ちゃんが こないだの戦争で家族みんなやられて 戦争 終わってからも

         ものすごー 苦労したことも知ってるよ 小鶴ちゃん 歌舞練場の前で 倒れた

         はんの見つけた時 がりがりに痩せこけて すすだらけの真っ黒けの顔したはっ

         たんやもん」

  小鶴    「そりゃ 3日間 何にも食べんと 大阪から歩いて来たんやから」

  もみじ   「そんな目におうた小鶴ちゃんが アメリカさんに 恨み持ってるのは 当たり前

         やと思うよ でも それは小鶴ちゃんだけと違ごうて 日本人やったら みんな

         持ってるんよ うち 日本人 アメリカさんの一人一人が 別に 恨みがあって

         殺しあったんと違うんと思うんよ お国同士が喧嘩してしまったから 仕方のう

         て あんな事してしまっただけやと思うよ 戦って そんなもんやないのかな」

   小鶴 黙って水面を見つめている

  もみじ   「小鶴ちゃん?」

   小鶴 もみじの顔を見る

  もみじ   「うち もう ここから 出なあかんかもしれへんの」

  小鶴    「出なあかんって・・・ 姉さん 水揚げしてもろても ここで芸妓 続けはるん

         ちゃうんですか?」

  もみじ   「それがお相手さんから 水揚げしたら東京に来るようにって 言われてんの」

  小鶴    「東京?」

  もみじ   「うん まぁ 古い鳥籠から新しい鳥籠に 宿替えするだけやけど うち まだ 

         京都から出た事ないよ 東京って どんなとこやろな」

   もみじ うつむく

  小鶴    「姉さん・・・」

  もみじ   「東京に 鴨川みたいな 大きい川あるんかな? 東京に この高瀬川みたいな

         綺麗な川あるんかな?」

   もみじ 目に涙を溜め 水面を見つめる

  もみじ   「東京に 比叡山みたいな高いお山あるんかな? 東京に 大文字さんみたい

         な 真っかかな火がつくお山あるんかな? 東京に 清水さんみたいな 大きい

         お寺あるんかな・・・ うち うち・・・ 」

   もみじ しくしくと泣き出す

  小鶴    「姉さん? うち うち 行きます!」

  もみじ   「えっ?」

   もみじ 顔を上げる

  小鶴    「姉さんに 安心して東京に行ってもらうように うち 行きますわぁ」

  もみじ   「小鶴ちゃん・・・」

  小鶴    「うちが 死にかけてるの 助けてくれたんは 姉さんやし 姉さんが 辛い思い

         してんのに うち ばっかりが 我がままゆえへんもんな」

   小鶴 立ち上がる もみじも立ち上がる

  もみじ   「小鶴ちゃん・・・ ほんまにええの?」

   小鶴 うなずく

  もみじ   「おおきに・・・」

   もみじ 手で涙を拭いて にっこり微笑む

   小鶴 微笑む


○ 高瀬川 (夕から深夜へ)

  夕日で染まる水面に粉雪が落ちる 

  次第に暗くなりってネオンの灯りが揺れる水面に桜の花びらが落ちてゆく


○ 木屋町のバー (平成 深夜)

  カウンターに 美砂子 早紀 座っている 


  早紀    「へー あの写真の人 判ったん」

   早紀 カクテルを飲む

  美砂子   「うん」

   美砂子 カクテルを飲む


○ 回想 ちよの部屋(数時間前) 

  ちよ テレビの前のちゃぶ台の前に座っている 

  美砂子 久美 涙を溜めて 横に座っている


  久美    「おちよさんにから そんな話 初めて聞きましたわぁー あー どうしょ 涙が

         止まらへん」

   久美 手で 涙を拭く  

  美砂子   「これどうぞ」

   美砂子 久美にハンカチを渡す

  久美    「おおきに」

   久美 ハンカチを受け取る

  久美    「おちよさん? おちよさん?」

   久美 ちよに呼びかける

   ちよ スマホを握り締めてうつむいている

  美砂子   「ちよさん?」

   ちよ いびきをかいている

  久美    「いややわぁー 寝はったわぁー」

  美砂子   「きっと 昔のこと思い出して お疲れになったんでしょうね」

   ちよ 小さく笑い声を出す

  久美    「いや 笑ろたはるわぁー どんな夢 見たはるんやろね」


○ 木屋町のバー (深夜)

  カウンターに 美砂子 早紀 座っている


  早紀    「でも そんなん調べてどないすんのん?」

  美砂子   「シナリオ 書こうと思ってる」

  早紀    「シナリオ?」

   早紀 カクテルを飲む

  美砂子   「うん それが それが私のやりたかった事なんだもん」


○ 高瀬川 (深夜)

  桜の花びらがネオンの灯りが揺れる水面に落ちて行く 

  ギターの音が響く








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