とある村の酒場兼宿屋にて ②
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フィマリ村の夜は早いです。
険しい岩山に囲まれているからです。
そんな田舎の村でも夜に人が集まり賑やかになりだす場所が一つだけあります。
酒場だ。
今その酒場ではその日の昼に来た旅人が村人に囲まれています。
「いやぁーー、旅人さんが来てくれるとありがたい。」
「おうよ、これで安心して外で作業できるよ。助かるよ。」
等々の歓迎の言葉を浴びながら。
「人気者だなぁ、旅人さん。」
ケファロはそう言って旅人の前にミートパイを置きました。
「はいどうぞ、うちの一番人気のメニューだ。」
「旅人さんそれ頼んだのか?」
「うまいぞそれ、早く食べて見ろ。」
村人にせかされて旅人はゆっくりと手を動かし始めました。
やがて切り分けたそれをフォークで刺して村人の注目の中口にする。
途端、旅人がフォークを持ったその手が止まった。
そして十秒ほど口を動かし、
「なんだこれは。こんな美味しいものを食べたのは何年ぶりだ?いや、初めてかもしれないな。」
そう呟いた。
「あったりめぇだ、ここの飯は世界一だぞ!」
そう言う村人に対して店主は、
「いやそれは大げさだろう。旅人さんはずっと野宿していて、それでちゃんと飯を食ったのが久しぶりだからだろう。」
「そんなことはないと思うが。」
旅人が再び口を開きます。
「詳しくは言えないが、昔自分は王都にいた。そこで食べたやたら高いフルコースよりずっといいぞこれは。」
またしてもほめられる店主だったが、その顔は納得できないといった様子でありました。
「そういえば…。」
ケファロは話を変えます。
「旅人さんの名前は何だ?こっちも旅人さんって呼び続けるのも寂しいからな。」
「名前か.....。」
ケファロの質問に旅人はしばらく考え込みます。
「では、ライと読んでくれ。」
「そうか。ライさん、よろしくな。」
「「よろしく!ライさん!」」
村人達が口をそろえていう。
夜が更けていく。