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強かであれ。
雨音の奥でそう聞こえた気がした。
足下で倒れている男達、口は歪み、手足には泥に塗れた爪が生えている。
「ふふ」
泥にまみれたまま無様に地面に伏せているのを見ると、その姿に口のはしから生理的な笑みが漏れる。
冷たいはずの拳は仄かに暖かく、生ぬるい血がボトボトと雨に紛れて落ちていく。
寒い。
先程まで乗っていた馬車は車輪が壊れて横倒しになっていた。
家に帰らなくては、ここにいては行けない。
スマホで電話しよう。どこに入れたか。
あれ、すまほ?でんわ?なんだかわからない。
ドレスをまさぐる手をとめて、うざったい髪を結ぶために手を伸ばした。
しかし、あるべき長さは無く、髪は肩口でするりと手から落ちた。
「え」
呆然と立ち尽くす。さっきから何かがおかしい。
見慣れたはずの馬車やドレスに物凄い違和感を感じ、知らない単語が次々と頭の中に浮かぶ。
「・・・・・・っ」
頭に熱が集まり、ぐらりと、揺れた。
その時、視界の先に燃えるような赤い何かが見えた。
「あれは・・・」
私はその色が醸し出す温かさを求めてー
ーー手を、伸ばした。