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気づけば泥の中を這いつくばっていた。
雨が体に染みるたび、身体の内側から嫌悪感がせり上がってくる。
身体を庇うように体を縮めたが雨の雫からは逃れられない。
自慢の毛皮でさえ、水を吸い込んで体にへばりついて気持ち悪い。
俺が持っていたのは、時間と力だけだった。
生まれた時から変わらない。
俺がこの世界に生きて手に入れたものは一つもない。
嗚呼、だからこんな無様に死にゆくのか。
これが生きてきた俺の最後なのだろうか。
せめて、何か一つでも大切な物を持っていれば。
そうすれば。きっと。
瞼が異様に重く、泥に浸かった両腕は、泥の中を掻き毟ることすら出来ていない。
がたがたがたがた。
動けないはずの腕や足が震えていた。
その度に骨が軋むのが分かる。
今あるのは経験したことの無い事のない寒さと恐怖、そしてーー
ーー死への確信。
這いつくばった泥の中から、何かが手招きしているのを感じた。
微睡みが襲い、目の前の光景が不自然に遠のいていく。
その時、
「ーーーー!」
声が聞こえた。
何を言ったのかも分からない。
誰の声かも分からない。
けれど、声は確かに聞こえ、気がつけば俺は誰かの腕の中にいた。
柔らかい手で視界が拭われる。
目の前には、暗闇に溶けるような黒髪を持った少女が居た。
血が滾るような赤い瞳からは、なにかを懇願するようにぽろぽろと涙が零れている。
それを見た瞬間、
生まれて初めて
俺は