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第5話 ある警備員の交渉と決断

なかなか森を出ませんね、鴻上さん。

下手に誤魔化してもボロが出るだけ、だな。

ここはできるだけ正直にいくが吉、だろう。たぶん。


「すまないが、そのあたりの習慣もよく知らねぇんだよ。」


二人が怪訝な表情を浮かべる。だよなぁ。


「俺の仕事は人間相手の、あー、不法に土地に居座っている輩の身柄の確保なんだ。」


嘘は言ってない。ミュータントの類が棲息する重度汚染域での活動は別部署の仕事だしな。


「だから、怪物の討伐とその報酬だとか、魔法の石の確保だとか、そのあたりの事はさっぱりなんだ。」


アメリカ大陸では、民間軍事会社を母体とした『ハンター』とか呼ばれる連中がミュータントを退治したりサンプルを回収して医療関連の企業体に売却して利益を得ているらしい。

背景となる事情は大分違うが、このお嬢ちゃん達の言っている事はその手の話なのだろう。


「そういうことでしたか。ですが……そうなりますとコウガミ様はこの大陸の住人ではございませんね?どうしてこのアークス大陸に?」


金髪の少女……アミュールが尋ねてくる。

あー、そうか。

そういう事を生業としている奴は、大陸規模でもいないのか。

他の土地にはいるみたいな言い回しではあるが……。

しかし、アークス大陸、ね。地図が見たいぜ。


「正直わからん。魔法的なトラブル……事故かもしれないが、とにかく俺は一人でここに、この森に跳ばされて来たってことらしい。」


妙な声が語りかけてきた覚えがあるが、音声記録には残ってない。

精神感応的なモノか?

俺がここに来たことを含めて、もう魔法だろう魔法。

全くもって理不尽が止まらんな。アレもコレもソレも。

俺の言葉にアミュールは一応は納得してくれたようだ。

だが、赤髪の方……レティシアは改めて質問してくる。


「なぁ、コウガミさんよぉ。あんた……ホントに人間なんだな?悪魔の一族じゃねぇんだな?」


つまり、いるのか。悪魔の一族って連中が。


「あぁ、誓おう。俺は間違いなく人間だ。あー、ちょっと待ってくれな。今、顔を見せるから。」


大気中の有害物質はずっと検出されていない。

ウィルスの類いで『金剛』のセンサーやバイタルチェッカーをすり抜ける奴が存在するかもしれないが、いずれは外気に触れねばならなかったのだから、ここは賭けだ。

俺はフェイスガードのロックを外し、前面をスライドさせ顔面を露出させる。


……濃い匂いだ。草の、木々の匂いか。土の香りか。

生まれて初めて感じる、汚れなき自然の命の匂い。

すげえ。……なんて言うのかヤバいな。


「ほら、人間だろう?」


俺は29才。純日本人認定を受けており(雀の涙ほどだが、給与に補助金が出ていた)、ファッションサイバーも入れていない。

つまり、黒髪黒瞳の、鼻の低い顔のわけだ。


「東方の民族?……そういえばお名前の響きも。」


アミュールの発言からすると日本人みたいなの、いるのか。

話してる言葉は英語だし、ほんとどうなってやがる。

責任者出てこい。


「まぁ、俺の素性はすまんがこれ以上は今は話せない。で、この小鬼どもの討伐証明部位と魔法の石の話なんだが、お前さんたちと山分けでいいか?」


二人とも心外って顔してるな。

まぁ、倒したのは俺一人だ。成り行きとはいえ、俺は二人を助けた恩人って事になる。

なら小鬼どもから得られる益は俺の物であるし、さらに助けた謝礼を要求してかまわないはずだ。……多分な。


「それはいただけません。コウガミ様はわたくし達を助けてくださったのですから。」


「あぁ、あたしらは何一つ手出ししてねぇし。むしろ礼をしなきゃならねえ立場だぜ?」


うん、まあそういうわな。


「まずは聞いてくれ。俺はこの小鬼どもの解体経験が無い。討伐部位の回収だの、魔法の石の取り出しだのは自信が無い。まずはこれが一つ。」


いやマジでかんべん願いたい。裂いたり抉ったり、生き物の解体はキツイって。


「あとな、俺はギルフォールに行ったことが無い。向かうにしても明日以降にしたいんだ。だから、お前さん達に頼みたいんだよ。討伐部位と魔法の石の回収と、その換金をな。山分けってのはその為の報酬と考えてくれ。」


このまま二人が街に帰るのに同行するわけにはいかない。

やっておきたいことが幾つか有るのだ。

俺が出現?した場所に戻り、あらためて手がかりが無いか探す。

バックパックのジェネレーターからの『金剛』と『八咫烏』へのチャージを行う。また、日が落ちるまでの間に陽光発電を試す。ざっくりと考えてこれぐらいはすることがある。

街中は人の目が有る。

だから文明の異なる俺の装備を広げるのはなるべく避けたいところだ。

とはいえ、森の中は危険な動物と……魔物?が存在する。

夜営場所は、二人と同行して森を出たあたりにしておくかな。

携帯糧食は予備を含めれば六日は持つしな。


「この小鬼どもの討伐部位と魔法の石の回収。あとな、持っていた刀剣も回収した方がいいだろう。いくらにもならないかもしれないが、放置しておいて小鬼どもの仲間の手に戻るくらいなら、持っていった方がいいだろう。」


「わかった。でも山分けッつってもな、あたし達二人で5割。あんたが5割だ。これ以上は受け取れねぇ。」


「ではさっさと回収してしまいましょう。そうしたらわたくし達は森を出てギルフォールに向かいます。換金ができましたら、後日あらためて森で落ち合えばよろしいですか?」


まあそれでいいよな。


「あぁ、じゃあさっさと回収をすませようぜ。そうしたら、俺も森を出たところまで同行する。その場所で……そうだな、明後日に再会でいいか?時刻は今ぐらいで。」


同意を得たので、二人には回収に入ってもらう。

俺はフェイスガードを元に戻し、各種センサーによる周囲の警戒に入る。

小鬼どもの仲間が来るかもしれないし、これから行う作業の臭気に誘われて、何か他の生き物がやって来るかもしれないしな。


ナイフを取り出し、二人は小鬼の右の耳を切り落としていく。

ふむ。それが討伐部位ってやつか。

で、魔法の石とやらは……胸を切り開く、のか。

出血がほとんど無いからまだしも、だな。うん。

ん?心臓に神経みたいなもんで絡み付いてる……のか?

親指の先ぐらいの大きさだな。暗緑色の半透明。

楕円状で、表面はまるで研磨されているようだ。

生物の体内で生成されたとは思えんな、正直。

あー、ファンタジー感パネェ。


アミュールが耳と魔法の石をそれぞれ別の袋に収め、小鬼の持っていた剣も器用に細い紐で結んでいく。

幸い、作業が終わるまでに何かが接近してくる事はなかった。


「よし、じゃあ行こうぜ、お嬢さん達。」


先導する二人の後方で警戒。

『八咫烏』のパワーゲージはローで一発分。

正直なところ心許ないが、本来このあたりで危険な生物と遭遇する事は少ないらしいし、万一の際はアサルトライフルも有る。

……なるべくならば使いたくはないが。残弾的な意味で。


「な、なあ。コウガミさんよ。あんたの武器……小鬼を倒したアレ、どういうしろものなんだ?魔法を発動させたんだよな?」


歩きながらレティシアが尋ねてくる。

あー、どうすべ。


「魔法……では無いな、たぶん。俺も仕事で預かっているだけで、正直理屈はよくわからん。だが、音と風をぶつける武器、それだけは知っている。」


「音と風をぶつけるけど魔法じゃない?!なんだそりゃ。」


俺の返答に納得できないようだが、説明のしようがない。


「レティシア。戦う方達の手札を根掘り葉掘り聞くのはよろしくありませんよ?」


「あー、まー、そーだなー。悪かったなコウガミさんよ。」


アミュールのフォローがありがたい。

それからは小鬼の体から取り出した魔法の石が、なんだかレア物みたいな話で二人が盛り上がった。

5匹が連動する魔法を使っていたとかで、そのような場合は魔法の石の買い取り価格が跳ね上がるのだとか。


「そうですわねー。討伐部位が5匹ぶんで銀貨10枚。魔法の石が5匹一組のチーム扱いで、銀貨30枚。小剣が5本で……これはおそらく買い叩かれますが、それでも銀貨10枚は出してもらえるかと。」


すると俺に銀貨25枚か。それってどれくらいの価値なんだ?

っていうかレアメタルマネーの現金決済、か。

大昔の海賊が主役ののドラマとかあったな。

袋の中に金貨がジャラジャラってやつ。


「銀貨25枚……どれくらいの価値なんだ?」


素直に尋ねてみよう。


「えーと。二食付きのそこそこの宿屋なら8日は宿泊できるかと。」


そうか。この装備でギルフォールとやらに行くリスクは未知数だが、ひとまずの生活はなんとかなるかもな。

……この世界の食物が俺に食えるかどうかはまだわからんが。


幸いなことに危険な生物との遭遇は無く、俺達は一時間と歩かずに森の外へたどり着いた。

地平線まで続く草原。

空は蒼く澄みわたり、うっすらと白い雲が広がっていた。

俺の知る地球にはどこにも無い風景。


……感動するべき場面なのにな。不安が胸をよぎるばかりの俺には、ロマンってやつが根本的に欠けているのかもしれないな。


「よっしや!ここまで来れれば一安心だぜ。」


「日没までにはギルフォールに帰れますね。」


どうやら二人は街に帰れる喜びしか感じていないようだ。

そりゃそうか。

さて、ひとまずはお別れだな。


「じゃあ明後日にここらで待っている。後はよろしく頼むな。」


「はい。たいへんお世話になりました。では。」


「あんたなら大丈夫なんだろうけど、気をつけろよ。」


別れの言葉はかわした。

さて、それでは、と。


「現在地を暫定座標βと設定。マッピングしたデータ上に暫定座標αを表示。」


『金剛』のデータディスプレイ上に俺の出現地点を表示。

いったん現場に戻り、何か少しでも手がかりか、何かの痕跡が残っていないか、あらためて確認するとしよう。

正直期待はしてないが。


三時間弱の森の再散策。

その過程で、目についた果物を数個もいでいく。

リンゴに似ているな。

もちろん、本物のリンゴなんて手にしたことはありゃしないが。


暫定座標α。俺が現れた場所に戻ってこれた。

各種センサーの機能を調整しながら、何か得るものがないか注意する。

収穫、無し。

ん、仕方ない。

休憩するとしよう。

草が生い茂ってはいるが、スペースはまぁ確保できている。

俺はバックパックを下ろし、野営用の小型テントを展開する。

断熱性に優れたマットが広がり、その上に一人用のテントが立ち上がる。

充電用の多機能発電シートをマットの上に敷いてから、俺はテントの中に入った。


気休め程度の外気からの保護機能付きだ。

もっとも、この森……いや、世界の大気は異常なまでに清浄だが。


「大休憩モードに移行。テントの簡易センサーとのリンクは維持。接近する小型生物、昆虫の類いの群れに対して警戒。」


パワーアシストが切れ、途端に本来の荷重からなる負荷を感じるようになる。同時に各接合部が緩み、外せる状態に移行した『金剛』を、俺は慎重に脱いでいく。


さて、『金剛』と『八咫烏』にチャージしとかないとな。

マルチジェネレータのケーブルを接続し、俺は『金剛』と『八咫烏』に充電する。

よし、後は今後の消耗をどこまで賄えるか、だが……。


ん?なんだ?……おかしくねーか、これ。


テント外に敷いた多機能発電シートの発電量が、あり得ない数値を示していた。

野外標準の……650%?!

いやいや、無いだろ、それ。


確かに常に厚い雲に覆われている俺の知る空と、この異世界の青空は段違いだ。降り注ぐ陽光……日照量もはるかにこちらが大きいだろう。

自然環境が壊滅的な状態に陥っても人類が生存できているのは、エネルギー問題を事実上解決した各技術におけるブレイクスルーによるもので、その最先端たるギミックであれば、異世界においても電力の心配はいらないのではないか?と期待したのも確かだ。

だが、だからといってこの結果はおかしいだろ。

なんだ?太陽光変換以外に……どこからエネルギーを得ている?

『unknown』?

解析できないまま、発電と蓄電を果たすだけ、か。


……おかしいのは、俺の持ち込んだ装備か?それともこの世界なのか?


だが、何を目標とするにせよ、生きていく為の力は維持できそうだな。


何を目標とするか、か。帰還は、叶うのか……。

さて、レティシアとアミュールはコウガミさんを信じることができたでしょうか?

次回は再び彼女たちの視点の予定です。

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