第3話 ある警備員の戦闘と異文化コミュニケーション
ファンタジーといえばゴブリンですよね。
……絶対臭いと思うんだ。
お?
赤髪の方がなんか言ったな。えーと、英語か?
いや、言葉通じるのか。ありがたいが理不尽待った無しか。
〝ちくしょう。今度は悪魔か。〟
ん?悪魔?俺?何で?
あー、あれか?完全保護のプロテクトスーツだからか?
確かに真っ黒で顔も隠れてるから不気味かもしれんが……。
ここはまぁ、あれだな。後ろのファンタジー的な小人を撃退して、友好的な接触だな。
英語で会話が成立するようだし。
しかし、そうするとここは異世界って考えも怪しくなるな。
ワケわからん。
「俺は味方だ!援護する!」
そう英語で叫んで、走り出す。
こちらの言葉は理解してくれただろうか?
明らかに緊張した二人に、俺はもう一度叫ぶ。
「繰り返す!俺は味方だ!これより援護する!」
相互距離はだいぶ縮まった。衝撃銃『八咫烏』の有効射程内だ。
逃げる二人に一番近い個体に狙いをつける。
パワーレベルはロー。近距離での威力が『成人男性の本気パンチ』程度の最低出力だ。
現在の距離ではさらに効果は低くなるだろう。
だが、何をされるかわかっておらず、走り続けている奴の顔面に叩き込むなら充分すぎる。
俺はトリガーを引く。
爆発音にも似た轟音とともに、視認できない無形の衝撃波が小人の顔面に叩きつけられる。
「プギャッ!」
短い悲鳴をあげる小人。鼻がつぶれ、血を吹き出しながら転倒する。
全員が足を止める。
おいおい、無理もないだろうけどよ、追われてたあんたらまで止まるなや。
そう思いながらも俺はさらに距離を詰める。
あと四匹。
顔面に叩き込めれば、パワーレベルにはローで充分だ。
いきなり鼻を潰される苦痛に加えて、衝撃は目にも、気管にも届いたはずだ。
目を開けることもかなわず、呼吸も苦しかろう。
ふっ。『八咫烏』のマニュアルにはこうあるのだ。
『原則として、パワーレベルによらず対人での顔面に対しての射出は推奨しかねます。』と!
二匹目!
三匹目!
事態を把握する間など与えず、俺は続けて『八咫烏』を発射。
これで三匹が地に伏せてのたうつ事となった。
「ギィッ!」
残った二匹は、詳細はわからぬまでも、同胞が俺に顔面を攻撃されたという点だけは理解したのだろう。両腕で顔をかばうような構えをとり、こちらへ殺到する。
まぁ、そんなカバーなら構わず顔面を狙ってもよかったが、せっかくのお誘いだ。
がら空きボディー、ごっつぁんです!
俺は『八咫烏』のパワーレベルをミドルに上げ、迫る二匹のどてっぱらに続けて叩き込んだ。
パワーレベル、ミドル。『ボクシングのヘビー級ランカーが放つ本気ストレート』に相当する。
目に見えて陥没したみぞおち。悶絶して倒れる小人。
内臓潰れたかな?
さて、これにて無力化終了。っても、とどめを刺す必要が有るわけだが、その前に。
「お前さん達を追っていたのはこれで全部か?」
俺の問いに赤毛の女……っていうか少女、か。そっちが答える。
「あぁ。5匹で全部だ。」
よし。それならひとまずは安心か。
さて……と。
俺は腰に装着しているダガーナイフ『安来』を抜き、苦しみもがく小人達に近づく。
人間に近い構造なら、ここを狙えば……。
小人を押さえつけ、刃を突き入れる。いわゆる盆の窪、外から延髄と脳幹を狙える場所に。
サイズが人間の子供みたいだから、ちょっとだけ気分が悪いな。
よし。死亡確認。
次々と処置を済ませ、5匹全ての「排除」を完了する。
それでは話を聞かせてもらうかな。
「これで落ち着いて話すことができるかな。いろいろと聞きたいことがあるんだが。」
さて、何から聞いたものか。
まずは自己紹介から名前でも聞くか。
「俺は勇治・鴻上。多分だが……かなり遠くから来た。この辺りの事はほとんど知らないんだ。」
赤い髪の少女が、恐らくはまだ警戒しながらも答えてくれる。
「あたしはレイシャ。この先のへんぴな街、ギルフォールの冒険家さ。」
金髪の少女が続いて口を開く。
「私はアミュール。レイシャの幼馴染で、コンビを組んでギルフォールで冒険家をしています。」
冒険家?
するとこの森は冒険家が挑むような密林なのか?
いや、へんぴな街ギルフォールって言ってたから、そもそも国なり何なりの中枢からは遠いのだろうか。
っていうか、仮想空間のゲームって路線は無さそうだな。
もしこの二人がゲームで遊んでいるだけなら、俺の姿にいろいろ言ってくるだろう。
雰囲気壊してるとか、ゲーム間違えてないか、とか。
今のように応答しながらも警戒を解かないってのは、彼女達から見た俺は、理解しがたい格好をした奇妙な異邦人って事なのだろうから。
「冒険家?この森は冒険家が挑むような未踏の場所なのか?」
俺の質問に対して、レイシャはどこか自嘲するように答える。
「あたしらは駆け出しさ。森の奥まで入れる実力はねぇよ。」
アミュールはどこか恥ずかしげに言葉を継ぐ。
「二人で薬草採取の依頼を受けたんです。まさか、小鬼に森の入り口で出くわすとはおもっていませんでした。」
ふむ。森の奥は危険、と。あの小人……小鬼は森の入り口で遭遇する類いでは無い筈なのか。
「そいつは災難だったな。ギルフォールとやらはここから遠いのか?」
「いえ。今からでも日が落ちる前には帰りつけます。幸いなことに集めた薬草は無事ですし。」
アミュールが背負った背嚢を軽く叩く。
「あんた……ユウジのおかげで怪我も無いしな。」
レイシャはそう言って小さく笑う。
ふう。いろいろ考えなければならんことが山積みだが、徒歩で半日以内の距離に街が有るというのはまあまあ朗報だな。
訪れるにしても今すぐというわけにはいかないが。
「それで、あたしらギルフォールにもう帰るつもりだけど、ユウジ、あんたはどうするんだい?」
「そうだな……色々と先に確認しなければならないことが多いもんでな。今日は森の中で野営だな。この小鬼も処分しとかんといかんし。」
レイシャの問いに答え、軽く小鬼の亡骸を蹴る。
「討伐証明部位と魔法の石を回収なさるのでしたら手伝いますわ。」
魔法の……石?
アミュールの言葉に俺は戸惑う。
あー、あるのか魔法。
でもこんな猿みたいな小鬼からそんな物が取れるのか。
……常識みたいだが、尋ねるしか無いよなぁ。
なにやら女性陣の言葉づかいが微妙なのは、鴻上勇治にファンタジー系の知識が無いからですね。