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第1話 ある警備員の日常とその装備。

作者は横浜在住です。

『世界……変動……が……異質なる……』


金と銀の二重ふたえの螺旋。


『……に決めた。……に招待しよう!……から……新たな……』


真っ白な世界。

天も地もない無限の虚空を貫く螺旋の光条は、響き渡る声に合わせて輝きを変える。


『……の名にかけて!……冒険を!』


なされる宣言。

盟約は世界を超えて、轟き響く。





夢を見ていた気がする。

まぁ起きた瞬間に忘れる夢など気にしても始まらないか。


「現在時刻確認。およびメールチェック。」


俺の指示に管理システムが応答する。


「おはようございます。時刻は7時15分。就寝中の未確認メール等はございません。」


デフォルト設定の若い女の声を聞きながら、俺はベッドから降りる。出勤まで余裕は充分あるな。飯を食おう。

肌着を全て脱ぎ捨て、部屋の隅の洗浄ユニットに全て放り込む。

リビングを横断し、バスルームに入りながら管理システムに朝食の指示を出す。


「朝食の準備を頼む。……シュウマイ弁当とアイス麦茶。」


……確か、まだ有ったよな?シュウマイ弁当。


「了解いたしました。シウマイ弁当と麦茶・コールドをセットいたします。」


うん、管理システムの方が正しい発音なのは気にしない。

気にしない。


シャワーの設定はデフォルトだ。

消毒・殺菌作用のある洗浄剤入りのミストを浴びながら頭から足の先までを洗い清め、濯ぎのシャワーで流し、温風で乾かす。

贅沢に温水を使いまくると、定額上限などすぐにオーバーする。


日本人なら風呂はきちんと入らなきゃダメですよ!

そんな事を力説し、ライフラインサービスにオプション課金している職場の後輩の言葉を思い出す。

……本人は北米出身の白色人種であったが。


ふう、さっぱりした。

これで充分だろう。衛生的にも、経済的にも。

リビングに戻りクローゼットから肌着を取り出し、身につけてからキッチンに立つ。

調理ユニットの蓋を開け、シュウマイ弁当と麦茶のボトルを取り出す。

弁当はホカホカ。ボトルはキンキンに冷えている。

シュウマイ弁当は、今から200年以上前に人気を博していたヨコハマの名物弁当を、最新の技術で再現したという触れ込みの人気商品だ。

シュウマイに魚の煮付け、甘辛い筍。

胡麻をふった白米に梅干し。

どれもこれも天然素材など食した事もない俺には、どれほどの再現が成されているのかは判断できない。

だが、金の無いころに口にしていた合成ハンバーガーとは比べ物にならないって事ぐらいはわかる。

残さず平らげ、包みとボトルはダストシュートへ。

さて、髭をあたってトイレにいって……出勤だな。


部屋を出て廊下を数分歩き、タクシーのプラットホームに。

巨大な階層都市、『横浜駅』内部を迅速に移動するにはこいつが一番だ。縦横無尽に広がる専用の路線を走る、都市管理AIが制御する移動ユニット。

なまじ安くあげようとして他の移動手段を用いると、かなりの確率で時間を大きくとられることになる。

常に最短ルートをアップデートしている『駅タク』以外は、300年以上に渡って増改築を繰り返す『横浜駅』の内部構造に対応しきれていないのだから。


タクシーに乗り込み、座席に腰かける。


「俺の勤務先へ。」


生体認証のチェックが完了し、登録された社会保障サービス元である俺の勤務先の照合も済んだのだろう。

タクシーは音もなく走り出した。


「今朝の配信ニュース、一般からピックアップ。」


俺の要望に合わせて、立体映像が投射される。

ふむ、北海道エリアの再開発は旧ロシア軍くずれの妨害が激化。

関東エリアの各都市、人口減少の下げ止まりを都市管理AI群が宣言。

あぁ、恋愛推奨政策って奴か。

俺が10代の時に施行されていたなら今ごろは……。


「到着いたしました。運賃の引き落としをさせていただきます。……ありがとうございます。またの御利用をお待ちしております。」


到着と料金の支払い確認完了の声に我に帰る。

さて、お仕事お仕事。


到着したプラットホームから徒歩10分。

幾つかのメディカルチェック、セキュリティチェック用のゲートをくぐり抜け、たどり着いた我が勤務先。


『横浜駅第三警備課 再開発支援班 第二分室』


肥大化を続ける階層都市の、再開発を妨害する団体や犯罪者を拘束、場合によっては排除する武装警備員。

軍隊や警察すら都市管理機構の職員に取って替わったこの時代。

『駅』の増築を支援する戦う駅員さんだ。


「おはよーございまーす。」


分厚い扉が開く。挨拶をしながら入室。


「おはようございます、ユウジさん。」


受付嬢……として設置されている女性型端末アンドロイドが挨拶を返してくれる。

て、いうか、『彼女』しか返答してくれない。

ロビーには同僚が既に何名か出勤しているのだが、黙って会釈するぐらいで、挨拶の声はあがらない。

フレンドリーさが足りないよなぁ。

まぁ、いい。

仕事上の連携はとれている……はずだから、きっと、たぶん。


設置されたドリンクサーバーから麦茶を汲み、ロビーのソファーに腰かける。

全員そろったらブリーフィングだな。

今日も大過無く過ごせればいいが。


今日の出動予定は、再開発予定地である旧川崎駅前の暴徒排除だ。

すでに別部署による再三の説得、交渉の段階は過ぎている。

よって俺達、再開発支援班の出番と相成った。

市民登録をされている方達であれば、警告の上保護。

未登録者で、市民登録を望むのであれば身柄確保。

あくまで妨害を続ける未登録の暴徒であれば、可能な限り制圧。

困難であれば……『排除』となる。


まぁ俺達は警察や軍事を担う治安維持機構の人間ではないので、重装備による大規模戦闘は想定していない。

この時代においてなお、相対的に『日本は治安の良い国』なのだから。


メンバーが揃い、ブリーフィングルームで作戦内容、タイムスケジュールをあらためて確認する。

同席した法務部の人間が、しつこく人命重視を口にする。

人口が激減したこの時代。人間は貴重な資源だ。

暴徒……犯罪者であっても、生きている限りその価値はけして小さくは無い。この日本、特に『横浜』においては。


ブリーフィングを終え、装備課に移動。

支給された装備を身につける。


プロテクトスーツ『金剛』。対弾、対刃、対爆、対熱、対電まで想定した防護服だ。グローブ、ブーツ、フェイスガードまでを含み、大気中の危険物質や有毒ガスに対してのフィルターも完備。

低酸素下での長時間活動はオプションである酸素タンクが必要となるが、デフォルトでも5~10分の活動が可能。

パワーアシスト機能搭載。通常時は荷重軽減用の出力にとどまるが、短時間であれば移動や白兵戦闘時に筋力を増大して対応できる。


ヘルメットとフェイスガードにはマルチセンサーユニット。

IRビジョン、ナイトスコープ、集音センサー、大気中の有害物質の検出機等を組み込み、様々な情報を視界内に映し出す。


メディカルキット。鎮痛剤、生体同化式止血パッド、高機能抗生物質など、最新鋭の各種薬剤をコンパクトにまとめている。


携帯糧食。補水ゼリー、エネルギーバー、グルコースタブレットなど72時間分の食糧パッケージに加え、汚染された飲料水を浄化する浄化チューブをセット。


衝撃銃ショックガン『八咫烏』。衝撃波を撃ち出し、対象を無力化する基本的・・・に非殺傷の特殊銃。

射程は3~50メートル。威力は射程と設定したパワーレベルによって変動。弾数もパワーレベルによって3~10に変動。


対象の保護、拘束を前提とすることが多い俺達の業務において、この衝撃銃ショックガンがメインの武器となる。

最新の技術で製造された『八咫烏』は、過去に存在した同種の武器の欠点であるサイズの大型化、機構の脆弱性、屋内における周囲への影響などの問題を解決した名銃だ。

無論、ボディアーマーや戦闘用サイバーで防御を固めた相手には効果が薄い。実際、『金剛』を装着した俺達であれば、至近距離の最大出力であっても、1発であれば充分に耐えられるだろう。


折り畳み式アサルトライフル『火雷ほのみかづち』。

小さなクラッチバッグ大の形状からワンタッチで展開するアサルトライフル。

装弾数17+1、射程400メートル。スペックはけっして高くはないが、『八咫烏』では対応できない対象……『排除』しなければならない『敵』を仕留める為の命綱だ。

弾頭は対アーマー、対車両を想定したAP弾。

予備マガジンは二個携帯。

なお本体にはスコープは搭載されておらず、光学スコープ、レーザーサイトは別途取り付けるオプションとなる。


ダガーナイフ『安来』。伝統的な刀剣製造技術を応用し、近年素材工学の粋を重ねた両刃の短剣。

……研修において、『金剛』を貫く映像を見せられた時には衝撃を受けた。


スタングレネード『玉兎』。衝撃銃ショックガン『八咫烏』と同じメーカーが開発した音響衝撃手投げ弾。聴覚器官等に多大なダメージを与え無力化する非殺傷武器。

驚くべきことに、ジェネレーターからのチャージで再利用可能。

携帯数は二個。


特殊ポリマー製手錠『紅葛』。拘束した対象に過度に苦痛を与えない、柔らかくそれでいて強靭な拘束具。施錠・解錠は電子キーで行う。


以上が基本装備。

これに加えて、メンテナンス工具や野営用小型テント、予備糧食や追加メディカルキット、高性能マルチジェネレーターを組み込んだバックパックが、都市管理区域外の活動においては装備を提唱される。


……都市機構に徒歩でも二時間以内に帰還できる範囲での任務がほとんどである。

『横浜駅』を管理する企業体の製品テストと宣伝を兼ねている事は承知の上だが、理解はしているが、あらためて問いたい。

北米の荒野や南米の密林を踏破しようとしている特殊部隊と我々を勘違いしてやいませんか、と。


基本装備+バックパックを身に付け、『金剛』の動作確認。

パワーアシスト、OK。

バイタルチエック、異常無し。

各種センサー、切り替え、データ表示OK。


「さて、行きますか!」


ここからは警備専用の『車輌』で都市外苑まで移動。

そこから装甲ヴィークルで出動だ。

だが、装備課の扉を抜けた俺の視界は、白い光に塗りつぶされた。


「なっ?!何だ?」


声が、声が響く。


『多元世界の次元境界線が大きく変動している。』

『世界の有する魂の圧が不均衡。』

『このままでは境界線が破れ、異質なる世界が混じり合う。』


白い世界の中に見える、金と銀の二重ふたえの螺旋。


『鴻上勇治、この世界からは君に決めた。〝アースフィア〟に招待しよう!』

『科学を信じる世界から、魔術を信じる世界へ。』

『君達の命と魂の輝きは、世界の新たな均衡を産むだろう。』


真っ白な、ただ真っ白な世界。

天も地もない無限の虚空を貫く螺旋の光条は、男とも女ともつかぬ響き渡る声に合わせて、その輝きの強さを変える。


『多元世界の管理者の名にかけて!良き冒険を!』


なされる宣言。


その盟約は世界を超えて、轟き響く。

何故か、そんな風に思い浮かんだ。




そして、俺は森の中に立っていた。

生まれて初めて見る、青々と繁る森だった。


『アラームメッセージ。』

『現在位置不明。衛星とのリンク断絶。ネットワークとの接続不能。チームメンバーとの連絡途絶。』


『金剛』のシステムが表示する警告。

視界には木々と草花。

……先ほどの謎の空間と、声。



俺 は 今 ど こ に い る ん だ?


装備に関しては未来的にファンタジー入ってますね(笑)。

超科学ファンタジーで剣と魔法のファンタジーを生き抜けるか?

が一応のテーマですので。

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