勇者な村人D 8.66……話
熱が下がったーー!
ええ、熱が下がっただけで風邪が治ったとは一言も言ってません。
ただ……ヤベェ、マジヤベェから、しんどい、マジしんどいに変わったのでまあ、大丈夫だと思います。
いつも通りの投稿……とはいきませんが、出来るだけ一日二回投稿を頑張りたいです。
「ーーーえーと、 ここが村人達の相談所?まあ、村役場という施設です」
「はあ……ここで、村人達の管理を行い、情報収集、それから漏洩の有無を調べ、何かあった際には全員を密告者とし、いかなる処罰を与える施設ですね……恐ろしい」
「全然違いますよ?ただの憩いの場として使って頂いてます」
「ーーーで、ここが家畜小屋です。最近はオー……豚が好評でして……カサンソーセージとしてブランドも築いています」
「何か今、恐ろしげな……と、いうか違法食材の名前を聞いたような……?」
「気の所為です。それと、後でカサンソーセージを持って来させますのでご賞味あれ」
「何?共犯者にさせられるの?」
「そして、ここが最後……というか、俺の家ですね。中でロゥ……白狼族の少女とカサンソーセージが待っているはずです。先に、中に入っていて下さい」
「あの……」
「はい?」
「あ、ぶりっ子はやめて下さい……後、」
「………誰にでも言われるな……そんなに似合ってないかなぁ?……で、何?」
「私……上級魔族ですよ?」
「知ってる」
「一応……目的はこの村に……もしくは付近に、新たに誕生したであろう【勇者】を討伐……もしくは捕縛せよ……とのご命令を受けて来たのですが?」
「粗方知ってるが?で、何なのさ」
「いえ、殺すなら一思いにやって下さい!この後に毒殺するなら毒殺でもよし!今、貴方の腰に帯刀しているその剣で刺すもよし!私、焦らされるのが一番嫌いなのです、よぉっ!」
いうや否や、シンクに飛びかかる幻魔族のシルバー。
幻想的な銀の髪を振り乱し、口早に詠唱を唱える。
「我、求は力、対価は血、収束されし、刻ナリ!」
それは、シルバーにとって得意分野である《転移系》または《時空系》と呼ばれる時と空間……もっと言えば次元に干渉する魔法である。
上級魔族ともなれば、その威力は一人で一つの街を滅ぼせるほど……と言うのも、転移魔法で街ごと溶岩なり、氷河なり、深海なり、人のいないもしくは、人の住めない地域、場所に送れば良いのである。
しかし、今のシルバーにとってそれが出来ない理由が二つある。
一つは、何処へ行っても何者かの視線を感じるのだ。
ーーーあの、自身の魔法陣をまるでありの巣の如く踏み潰した老人と別れた後……
何故か好待遇の歓迎を受けていた。
だが、この村はどの施設へ行っても、例えそれが道端であろうと威圧感……もしくはそれに準ずるものを感じるのだ。
これは、魔王の居住する城の比ではない。
もっとこう……まるで肉食獣の群れの中に、一匹小鼠を入れたような……
そんな、捕食される側の立場に、不思議と立たされているような感じがするのだ。
例え、今ここで魔法陣を展開しても、誰かがまた踏み潰しにやって来てそして、何食わぬ顔で帰るのだろう。
と、言うのも何度か村の案内の最中に魔法陣を展開したのだ。
だが、その度に誰かが草むらから……或いは家の陰から……現れて、せっかく編んだ魔法陣を踏み潰して行くのだ。
幾らその場限りのものと言っても、自分の魔力を編み込み作った魔法陣。
果てには、フライパンを持った主婦がついつい忘れちゃってた☆みたいな顔をして踏み潰しに来たり、子供達が悪ふざけの延長のように踏み潰して行ったりもした。
流石にキレて……いや、呆れて……
『この村は魔法陣を……と言うか、他人が丹精込めて作ったものを踏み潰すよう教育されているのか?』
つい、こう聞いてしまっても問題はあるまい?
『…………ごめん』
ーーー流石に、この返答は予期していなかったが。
二つ目は、この少年……青年?の、実力が測りきれないからである。
この童顔の青年……珍しい名前と、珍しい黒髪黒目という以外特に特徴がないのだ。
そう、この……こと、戦闘力においては異質な村において、特徴が全くないのである。
村の何処を歩いても、異質で、痛いくらいのナニカを感じる。
それは、視線であったり、純粋な戦闘力であったり、その生物の持つ存在力であったり、凍えるような殺気であったりと、様々なのだが……
この青年からは、それが何も感じない。
ーーーいや、そもそも普通の村だとそれが普通なのだが。
この青年は、ステータス的に考えると恐らく村人Dくらいの強さしか持っていない。
だが、この村は普通ではない。
当然、この青年も普通であるはずが無い。
だがしかし、この上級魔族である自分が、他者のステータスを読み違えるか?
確かに、相手が圧倒的だったりすると読み違えるが……それも上方にだ。
決して、相手を……ましてや、こんな野獣だらけの村で一人。正真正銘の村人がいるなど……夢にも思うまい?
『なあ、シンクとやら。お前は……何だ?』
駄目だな、と思いながらもついつい聞いてしまった。
『俺ですか?俺は……ただの村人Dですよ。剣もろくに振れない、魔法も生活魔法しか使えない、ゴブリンには2対1だと必ず負ける……それが、俺です』
そう言った彼の横顔はなんだか……寂しそうで、辛そうで……かと思えば吹っ切れたような……そんな不思議な感情が入り混じっているように思えた。
ーーーだが、敵に感情移入してどうする!と、
ふと、村を回っていた際の思い出が脳にフラッシュバックするーーーが、それを振り払い目の前の青年……シンク、いや村人Dに肉薄する。
ーーー大規模な転移魔法は使えない。
幻覚魔法、幻影魔法は確かに、力の差があれば発動できるがーーーそれを素直にさせて貰えるような場所だとは到底、思えない。
ならば、接近戦。一撃で決める。
別に、魔王の依頼など言ってしまえば『超強い人物を倒してこい』それだけだ。
だが、この村を見て、知って、分かった。分かってしまった。
ーーー勇者とやらがどれ程の力を持っているのかは知らないが……
私には絶対無理だ、と。
ならばせめてーーーその村の一人でも冥土の土産に殺ってやろうじゃないか。
これは、別に魔王に対する不義理などではない。
自身のプライドをズタズタにしてくれた、この村へのせめてもの恩返し。
何故か時たま、それを認めるのも悪くないーーーと、思える自分がいたが、気の迷いだろう。
「はあぁっ!」
別次元から召喚した剣を、横薙ぎに振るう。
村人Dくらいのステータスしか持っていない彼は、ここで首と胴体がおさらばだろう。
この村を回っている時はそれほど悪くはなかった……
彼が嬉々として話すこの村は、それ程の魅力を兼ね備えていた。
だが、自分は魔族で、彼は……彼等は人類。
相反する者は、混ざってはいけない。
ーーーそして、シルバーが次の瞬間見たのは、首と胴が離れた村人ではなくーーー
ムカつくほどに晴れ晴れとした青空だった。
☆作中のちょっとしたネタバレ
シルバーさんがいきなり飛びかかったように見えたかもしれませんが、この前……村を歩き回っていた際に散々、挑発やら嫌がらせやらを受けていたので割と、我慢の限界が近かったのです。
シルバーさんは短気ではありません。
【生活魔法】
他の作品で下級魔法と呼ばれているものと、あまり変わらないものだと思っていただければ……
まあ、ライターくらいの火を灯す。や、コップ一杯分の水を出す。程度の魔法です。
本編で詳しい説明をまた是非。
【カサンソーセージ】
オー……ジューシーな豚肉を、ミノタウ……牛肉と6:4の割合で粗挽きにし、羊の腸にこれでもかと詰め込んだ一品です。
味は意外とくどくなく、むしろバジルにも似たハーブを使用しているので爽やかな後味。
力5%UP 俊敏4%UP 防御10%UPが見込まれます。
【魔法陣を踏み潰す】
これは、まず作中での魔法陣の扱いです。
作り方……発動の仕方ですが、恐らく他の作品と同じく自身の魔力……又は自然の魔力を編み込み、術者の何らかのプロセスを経て発動!と、相成ります。
魔法陣を介しての魔法は、基本的に大規模な転移魔法や、森全てを凍らしてしまうなど……まあ、威力が強いもしくは、規模が大きい際にのみ使われます。
で、その魔法陣なのですが、魔力を灯した脚、もしくは手で殴る、蹴るをすれば自身の持つ絶対的な魔力量に、明確な差が開いていた場合にのみ壊れます。
ついでにですが、自身の絶対的な魔力量は産まれた時に大体決まっていて、そこから修行して伸ばす……という流れなのですが、産まれた時の魔力量がこの世界においての基準値です。
修行して伸ばすという泥臭いやり方はあまり好まれません。
お貴族様や、勇者といった特別な人種が絶対的な魔力量が大きい面々です。後はエルフとか。
因みに、上に書いた者達は割と何でもできちゃうので、努力とかを嫌うという設定にしてあります。
では、何故カサン村の人達は上級魔族を軽く上回る魔力量を有していたのか……これは、作中でもう少し掻い摘んで書こうと思っています。
【シンクのステータス】
これも本編にていずれ。