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勇者のかわりに鈍器だけがどんどん成長する無双チート  作者: 狐谷まどか
第1章 成長しない勇者、大地に降り立つ
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第6話 すぐピンチになる女騎士


 目の前で剣を振り回した金髪の女騎士は、片手で手綱を器用に操って白馬を走らせた。

 どこからどう見ても女騎士は騎士然とした立ち居振る舞いだ。

 きっと正規の軍事訓練か何かを受けている立派な女騎士さまに違いない。勇太にはそうとしか見えなかったのだが、


「どうしてあの女騎士さまが苦戦するってわかるんだよ?」


 サボテンの影からボソリと勇太がクギバットに質問すると、さも当然という様に鈍器が笑って返事をするのである。


『何しろ俺は女神の祝福を受けた〈特別な鈍器〉だからな。まあ見ていろ、すぐにも弱音を吐く』


 クギバットの言葉に釈然としないものを感じながらも。

 茂みの陰で、勇太はいつでも助っ人に入れるようにクギバットを引き上げて構えた。

 溜め攻撃をやるためには、武器を体に引き付け、同時に相手も自分に引き付ける必要がある。

 一撃必殺のドカンと一発が使える代わりに、タイミングがとても難しい。


「おのれ汚らしいホブゴブリンめ、一撃必殺の剣技を見よ!」

「ウホッホカモンビッチチ!」


 大きく見栄をきって見せた女騎士が、すれ違いざまに巨漢のホブゴブリンに斬りかかる。

 しかし体格が圧倒的な巨大な猿人間相手では、白馬に乗った女騎士であっても視線がほとんど一緒というのが笑えない。


 巨大な猿人間はそれを見て大喝してみせる。

 すると女騎士の乗った白馬はそれに驚いてしまった様だ。

 当然、馬の速さに剣の一撃を乗せて攻撃しようとしていた女騎士は、その手元が狂ってしまったらしい。

「ああっ?!」

「ファッキンウェーイ」


 すれ違いざまの攻撃はあまり威力が載らず、あべこべにホブゴブリンの合わせた剣に弾き上げられる格好になってしまった。


『な、弱いだろ坊主?』

「だからどうしてそれがわかったんだよ?!」


 そこのところを教えてもらいたかった勇太ではあるけれど、それは今聞いている状況ではない。

 すぐにもコソコソとホブゴブリンの背後を伺おうと、勇太はサボテンの茂みから移動することにした。

 上手くあの女剣士と巨大な猿人間がどっぷり戦っている時がチャンスだ。


「この程度でわたしが屈すると思うか。死ね、死ね!」

「キッキドーン!」


 語彙力があまりないのだろうか。

 女騎士はその美貌にまるで似つかわしくない「死ね死ね」を連発しながら、何度も剣をしゃにむに振るっている。


「押してるじゃないか。いけるんじゃね?」


 言葉は汚いが、それでも女騎士も負けていない。手数の多さで押し返している様に見える。

 もしかするとホブゴブリンは巨漢というだけのデカブツで、実はそれほど恐ろしい存在では無いのかもしれないと勇太は思いはじめる。

 これなら女騎士が正面で引き付けている間に、俺が背後からレベル99鈍器で殴れば倒せるはず……頼むぜクギバットさん、などと勇太が思っていると、


「わあっ!」


 女騎士の剣が、今度はあっさりと巻き上げられてしまった。

 もしかすると馬の上からの攻撃は、馬を走らせていないとただの動きを著しく制約するのではないか。

 攻撃チャンスを伺っていた勇太はようやくその事に気付いた。


「だ、だがこれで勝ったと思うな!」


 負け惜しみを口にした女騎士は、腰から短剣を引き抜いたかと思うと、バァンと自分から馬を飛び降りた。

 どうやら勇太が思った様に、足を止めた馬上からの攻撃は不利だと悟ったようだが……


「だったら馬を走らせて攻撃した方がいいのに。なんで……」

『女のおつむがたりないからだな』


 鈍器にまで馬鹿にされた女騎士は、大地に飛び降りると短剣を脇に引き付けて突貫した。

 けれども相手の懐に飛び込む前にホブゴブリンが振るった横薙ぎ一閃が走り抜ける。


「ああああっ!」


 弱い確信。

 勇太はこれはもう見てられないと思って、駆けだそうとしたのだけれども。


『待て坊主、あれでいい』

「何がいいんだよ、誰もいない荒野で美人の女騎士さまが苦戦しているんだぞ?! 仮にも勇者なのに何もしなかったら……」


 何のためにこの世界に召喚されたのかわからない。

 勇太はいつの間にか当初の目的も忘れて鈍器無双をしていたけれど、今になって何しにこの世界にやって来たのかを思い出した。

 きっと眼の前のホブゴブリンは女神マリンカーの言っていた「未だ魔王の呪いによって魔王の残党」に違いない。

 今こそレベル99でカンストした鈍器で無双をする時じゃないのか。


『だから決定的瞬間を待つのだ坊主』


 ゲスい発言をしたクズバットさんに勇太は呆れた顔をした。

 そうこうしているうちに、激しい爆発音が聞こえる。

 もはや女騎士もこれまでかと思ったところ、当の女騎士が何かを叫んでいる姿が彼の視野に飛び込んで来たのだ。


「あっはっは! その程度の攻撃は、爆発反応式の胸甲が衝撃を吸収してくれたぞッ」


 ババンと仁王立ちをしている女騎士は、上半身が裸だった。

 攻撃が胸に当たった瞬間に、金髪女の防具がさく裂して、うまく攻撃を逸らしただと?!

 勇太は驚愕して、巨大な胸がばるんぼいん揺れるのを目撃した。


「グヌホハンラビッチチ!」

「まだまだ倒されるわけにはいかん!」


 駄目だ。もうおしまいだ。

 あんなことを言っているけど彼女は女騎士、最後には「くっ殺せ」と言う捨て台詞を口にする未来しか勇太には見えない。


「グホホホ、ゲベベ、ファッキソウル!」

「くっこの! まだ諦めんぞ、このっこのっ。ひゃん?!」


 よくわからない言葉を口にしながらホブゴブリンがのっしのっしと女騎士に近付いた。

 偉そうなことを言っていても、女騎士はやっぱり怖かったらしい。

 短剣をあわてて構えて見せたところで、それを巨大な猿人間がぶんと腕を振っただけで、弾き飛ばしたのである。


「ウェーイ!!!」

「な、何だ。ひっわたしの短剣が?!」


 完全に無防備になった女騎士を見下ろすホブゴブリン。

 見上ながら泣きそうな顔をして駄々っ子パンチを繰り出している女騎士。

 彼女は無駄な最後の抵抗をしていた。

 せめて彼女が時間稼ぎをしてくれているうちに、勇太は溜めの状態で抜き足差し足忍び足、ホブゴブリンの背後に回っていたのである。


「おおっ、何だかクギバットの柄の部分が震撼している様な感じがするぞ」

『言い忘れていたが、それが二段溜めの状態だ坊主。他にもレベルが上昇すると色々なスキルが手に入るんだがな……』

「そういう事はもっと早くに教えてくれよ?! けど、チャンスだ!!」


 さっそく勇太がバッターの構えでジリジリと近づいた後、思いっきりホブゴブリンの後ろから足を攻撃しようとしたところ、


『気持ちはわかるが、ちょっと待て……』

「止めるなよクギバット」

『コンボを、やるのだ。レベル上昇で覚えたスキルのひとつだ……』

「どうやったら出来るんだよそのコンボ」

 

 やればわかるとクギバットに言われて、しぶしぶ勇太はうなずいた。

 そしていよいよ女騎士に向かって下卑た笑いを上げているホブゴブリンを攻撃だ。


「いっけえええッ」


 溢れ出る鈍器の威力が、巨大な猿人間の右太ももにヒットする。

 バシンと激しい音と共に、ホブゴブリンは悶絶した。

 そうしながらも一撃ではへこたれない巨大な猿人間は、振り返りざまに剣を構えようとしたけれど、


「おら、もう一発!」


 勇太が振り抜いたクギバットを頭上で山を返してみせ、今度は真っ向からホブゴブリンに叩きつける。

 クギバットの攻撃は、ちょうど巨大な猿人間のアゴにめり込んだ。


「オギャアアアア!」


 断末魔の叫びを上げたホブゴブリンは、そうしてしばらくの間ビクンビクンと震えた後、立ち往生していたのである。

 足元には巨大な猿人間のお股から湧き出た汚い泉が存在した。


「やった、やってやったぜ!」


 念のためにクギバットの先端でホブゴブリンを突っついてみたところ、そのままドサリと大きな体が崩れたのだ。

 もしかすると俺は最強かも知れない。

 いや、正確には俺がではなくこの鈍器は最強なのかも知れない。

 勇太はこの世界に飛ばされてはじめて女神マリンカーに感謝しながら、ニコニコ顔を浮かべた。

 そのニコニコ顔のままで、大きな胸を両手で覆って手ブラしていた女騎士を見やる。

 ちょっと目のやり場に困るほど爆乳だったけれど、これも勇者の役得だ。


「これでもう大丈夫ですよお嬢さん」

「くっ殺せ……」

『坊主、その顔は犯罪者のものだぞ……』


 どうやら勇太の顔がエッチだったので、女騎士に拒絶反応を向けられてしまった。



「誤解だあああ?!」

2017.1.26改稿

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