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勇者のかわりに鈍器だけがどんどん成長する無双チート  作者: 狐谷まどか
第1章 成長しない勇者、大地に降り立つ
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第5話 ゴブリンで無双してみる


「ヒャッハー! クギバットは最高だぜっ」


 勇太は力強く鈍器を振り回した。

 相手はとりあえず勇太が休憩していたところを襲って来た、小さな猿人間たちだった。

 たぶんこいつらはきっとゴブリンだ。


「キキッキー。ウギャァ!」


 緑色の姿をした猿人間たちは、棒切れや骨を削った様な武器を持っていた。

 それをコッソリと構えて、サボテンの影で休んでいた勇太に近付いて襲って来たのだけれども。

 夕方が近くなり、周囲にあるのはサボテンと草玉という場所では猿人間の影法師が伸びていたのだ。


 その伸びた影を見て敵襲を察知した勇太は、運よくその事に気が付く事ができたのだ。


「どうしたお前らはその程度か? グギバットさまの攻撃でワンパンとか弱すぎだろ」


 今や勇太の持つクギバットは鈍器レベル99だ。

 ひと振りすれば面白い様に猿人間の体をグシャリと破壊できるので、今の勇太は攻撃さえ受けなければ最強なんじゃないかと勘違いしている節すらある。

 人間たちの生活空間を探してさまよっているうちに、いつしか鈍器のレベルがカンストしてしまったのだ!


「おらおら、張り合いがないぞお前たち!」


 ちなみに女神マリンカーから渡された十日分の非常食だったが、こうして襲ってくるゴブリンからあべこべに食料を略奪したために、まだまだ余裕があった。

 水筒に至っては、飲めば飲むほど水が補充される便利グッズだったのである。


「キキッキッキブー!」

「ウェイウェイ」


 逃げ惑うゴブリンたちは、何かの警戒ボイスを発しながら一斉に距離を置いて遠巻きにする。

 もはや万能感を手に入れて荒野の放浪者として馴染みつつあった勇太は、立て続けに最初の三体を倒したところで、こちらから反撃に転じようとする。


「お前たちが来ないなら、俺からいく……あっ待て?!」


 しかしゴブリンたちは勇太の言葉など待ってくれない。

 一目散に逃げ出した猿人間どもは、岩を飛び越えてその先にある坂をズザザと滑りながら遁走したのである。


「ここで逃がしたら、また油断しているところを襲われるかも知れねえ。逃がすかよ!」


 勇太は岩を飛び越えて追いかけようとする。

 その先にある坂を前にしてどこにゴブリンが逃げようとしたのか眼で追いかけたところ。


「で、デケェ猿人間のお出ましかよ。お肌の色は緑だし、こいつらのお仲間だよな?」


 ゴブリンたちは新たな仲間を呼び出したのだ。

 目の前には普通サイズのゴブリンとそっくりの姿をした、ただし体格だけは人間よりも大きいゴリラなみの猿人間がのっそりと表れたのである。

 先ほどまでは小さな猿人間を倒す事に熱中していたので、その存在にまるで気が付かなかったのだ。


「ど、どーも巨大な猿人間さん。お手柔らかに……」

「ウホッホファッキン!」


 獰猛な顔をした巨大なゴブリンは、勇太に一瞥をくれると咆哮を上げた。

 手にはゴブリンが持っている様なちゃちな武器ではなく、明らかに勇太が持っているクギバットよりも高価そうで、どちらが伝説級の武器(アーティファクト)なのか一見しただけではわからない長剣を持っているのだ。


「ファッキンウェイ!」


 知らない言葉で指示を飛ばした巨大な猿人間に怯えて、小さな猿人間たちが一斉に勇太へ襲いかかった。

 勇太は今や打撃力なら圧倒的なクギバットを持っているが、勇太自身がレベル0なので、攻撃がかすっただけでも死ぬ可能性がある。

 先ほどまでの万能感はどこかへ飛んでいき、今度は必死に勇太が逃げ回る番だった。


「ひいい、来るな。来ないで! お、おいクギバットさん。どうすればいい?!」


 質問は無視された。

 あれ以来、沈黙を続けているクギバットさんに、勇太は心の中で「チッ」と舌打ちしつつも必死で逃げる。


「隠れる場所は無いか、やり過ごせる場所。なんだよあのデカいゴブリンは。反則すぎだろ?!」


 今度の相手はアメフト選手かプロレスラーみたいな巨漢だ、戦ったら死ぬ。

 先ほどまでの万能感はどこへやら、勇太は死に物狂いでひたすら走った。

 息を切らし、サボテンに似た植物の狭間を移動しながら、そして植え込みの中に飛び込んで身をかがめた。


「キッキブー!」

「ウルル、ブッコロスキッキー!」


 そうして恐る恐る近づいてくるゴブリンの集団に怯えながら周辺の様子をうかがうと。

 視線の先に、勇太は白馬に跨った人間を発見したのである。


「この付近に、荒野で旅人を襲う不心得なホブゴブリンの盗賊一家がいるとは聞いていたが……」


 金髪の髪をした、透き通る様な白き肌の女性だった。

 ワンピースの上から甲鉄の胸当てと手甲脚絆を身に着けた、由緒正しき女騎士の装いだ。

 勇ましさはあるけれど、アクセントの様に金の右横髪を三つ編みにしているところは女子力レベルが0でないところを想像させる。何より美人さんだ。いいね!


「まさかこの様な場所で鉢合わせをするとはな!」


 馬上の女騎士は、そんな言葉を口にしながら長剣を鞘から引き抜いた。

 レベル0の勇太とは違う流麗な動きで、馬上で構えを改める女騎士に勇太は見とれてしまう。


「ここで会ったが百年目だ。ならばこのクリントウエストヒップが、伝家の宝剣で成敗してくれる。ゆくぞ!」


 この世界に来てはじめて出会った現地の住人だ。

 呆気に取られていた勇太だったが、我に返って頭を引っ込め見守る事にする。

 金髪の三つ編みを風になびかせて騎馬突撃をしてみせた女騎士は、勇太から逃れ様としていた遁走中のゴブリンの集団を、ただのすれ違い様の一撃で雑魚ゴブリンどもを蹴散らしてみたのである。


「す、すげえ。普通の武器を使っていても、ちゃんと本人がレベルアップすれば強くなれるんだな……」


 そんな当たり前の事を改めて口にした勇太である。

 あまりの猛々しさに、しばし女騎士を見とれてしまうのであった。


「さあ貴様の配下どもは逃げ出してしまった様だが、このわたしの冴えわたる剣技を見ても逃げ出さないとはいい覚悟だ」

「グルル、ウホホイホイチャンネー!」

「では改めて行くぞ、我が伝家の宝剣の錆びにしてくれるッ」


 けれども、


『坊主、溜めの準備をしておけ。あの女はまず間違いなく苦戦するからな……』

「えっ?」


 ここにきて口を利いたクギバットに驚いて聞き返した勇太だった。

2017.1.26改稿

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