第43話 ノーライフキングの秘宝
ダンジョンの経営者であるノーライフキングのフィリアが、精神体だけを切り離して脱走してしまった後。
後に残された勇太パーティーたちは、ボス部屋の隅々までを徹底して調査する事になった。
「通常、ダンジョンのボス部屋にはモンスターの秘宝か、それに類する貴重品が隠されている事があるのですよ」
「モンスターの秘宝やそれに類する貴重品?」
さっそく壁という壁を調べて隠し部屋の存在の有無を探っていたアーノルドとシルベスの背中を見ながら、司祭アビが不思議そうな顔をした勇太にそう説明してくれたのだ
。
ちなみに司祭アビは、フィリアの抜け殻になってしまった生鮮死体に癒しの魔法をかけて、腐食をさせないための維持をしているところだ。
こうする事によって、効率よくヒールレベルを上げる方法を発見した勇太パーティーなのである。
「そうなのですよう。例えばドラゴンの仲間は、剣や鎧と言った反射するものや、宝石みたいな光るものを集める習性があるそうです。巣作りの素材に」
「カラスみたいなやつだね……」
寝床の作成をするために貴金属や宝石を使うとは、ドラゴンの親戚とは贅沢病だなと勇太は思ったりした。
けれども他のモンスターやボス級の魔族の場合は巣作りのためではない。
「本来、魔族のダンジョン経営者が貴金属や貴重品をダンジョンに埋蔵しているのは別の理由があるぞイナギシよ」
「というと?」
その辺りはグランドキャットウォークの治安担当者だった元守衛官のクリントウエストヒップが詳しかった。
「以前、アビに聞いた事があっただろうが、魔族たちは魔王召喚を実施するために膨大な生贄を必要としてるからな。ダンジョンに冒険者たちを呼び寄せて、それらの魂を刈り取ってしまうのだ。ついでにモンスターが死ねば、それも召喚儀式に必要な魂の生贄とする事が出来る」
一石二鳥なのだ、あっはっは。
女騎士はそう言って大笑いをして見せた。大笑いをするたびに甲冑の上からでもわかる様にたおやかな胸がゆっさゆっさと暴力的に揺れ、その度に甲冑がカチャカチャと揺れた。
勇太とアビちゃんの視線はそこに釘付けとなり、アビちゃんはとても嫌そうな顔をしたのだ。
「だからきっとこのダンジョンにも、何かしらの秘宝・財宝の類が眠っている可能性があるというわけですわね。例えばこのボス部屋の中央にあるこの魔法陣は……」
毒が大好き魔法使いパンティーラは、ボス部屋の真ん中でゆったりとしたローブを折り曲げながらしゃがんでみせる。
言われてみれば埃をかぶっていたけれど、魔法陣なのか魔法文字なのか、何かの紋様が書き込まれている事に勇太も気が付いたのだ。
「なるほど、この埃をかぶっているそれが魔法陣の一部なのかな?」
「ええ、おそらくはそうですのよ。このパンティーラさまが言うのだから間違いありませんわ」
このノーライフキングの最深部かつ中心に配置された魔法陣が、何らかの法則で冒険者やモンスターたちの魂をかき集めて、何かしらのエネルギーに変換していたのである。
「詳しい事はこの場ではわかりませんけれども、転写して持ち帰り、調べてみるのがいいかも知れませんわねっ! それよりも秘宝のありかはどうなっていますの?」
羊皮紙をズタ袋から引っ張り出しながらパンティーラが振り返った。
これから魔法陣の図面を転載しようとしていらしいけれど、それより秘宝の事が気になるのかも知れない。
何かの魔法的な古代遺産でも期待しているのだろうかと勇太は想像した。
「ああ、秘宝の事なんだがな……」
「秘宝というか悲報になっちまいそうだが」
本来ならば女神像が安置されていたはずの場所あたりを熱心に調べていたふたりのヴェテラン冒険者が、揃って勇太たちに向き直った。
とても神妙な顔をしていて、申し訳なさそうな話をこれから切り出そうという雰囲気を醸し出していた。
「何だ貴様たち。わたしはもったいぶった言い方は好かんから、さっさと言うべき事を言うんだ。秘宝がどうした?」
「いや秘宝財宝の事ではなく、悲しいお知らせだよ」
女騎士が先を促すと、シルベスが勇太たちの方にやって来てマッピング中のダンジョン図面を見せてくれる。
「早く言え」
「まず普通のダンジョンだとボス部屋には隠し扉なんかがあってだな。大概はそこに何かの財宝などが隠され散るものなのだが、財宝が見当たらないんだよ」
「じゃあ別の部屋にあるのではないか?」
「それがあるにはあったんだがね部屋そのものは……」
シルベスのため息まじりの言葉がついて出た後、みんなの視線はアーノルドに向けられた。
「まあ見た方が早いと思うぜ勇者さん。こっちに来な」
アーノルドの言葉に顔を見合わせる勇者パーティーである。
「勇者さん、まずは拝見するのがよろしいですわ」
「まあそうだな。見ないことには事情がわからないだろう」
「大丈夫です勇者イナギシさま、怖いゴーストがいても、わたくしが浄化しますからねっ」
「う、ウン」
そうしてゾロゾロやって来た、かつての礼拝施設の台座があった裏側には……
「きったねえ部屋だな。しかも何もない……!」
そこには、どうやらフィリアが生活空間の場として利用していたと思しき小部屋が存在した。
木箱をいくつか並べて寝台代わりにしていたらしい。
ついでに使役する用の人骨戦士の素になる、お骨の入った壺がいくつか散乱していた。
それ以外は何もなかった。
「このダンジョンはハズレだな……」
女騎士が大きくため息交じりにそう言葉を漏らすと、またたわわなお胸がよく揺れたのである。
たぷんたぷん。




