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勇者のかわりに鈍器だけがどんどん成長する無双チート  作者: 狐谷まどか
第1章 成長しない勇者、大地に降り立つ
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第41話 ロリッチ対ゲス勇者 後


 女神像の大きさは身長三メートル超の、まるで巨人だ。

 いつだったか相手をしたオークやホブゴブリンよりも、さらに頭ひとつ大きいのではないか。


 威圧感という意味では猿人間の親戚みたいな彼らの方が恐ろしさがあったけれど、女神象は女神マリンカーを模した造形なので、また趣の違ったオーラめいたものがあるのだ。

 ゆえに司祭アビは躊躇した。


「わ、わたくしは女神さまに手を上げる事はできません、どうしましょう勇者イナギシさまっ」

「逆に考えるのだアビよ、女神さまの御神体を恐れ多くも勝手に動かしているゴーストどもを、どうにかする事こそが宗教者としての責務だと。そうではないか勇者よ?!」

「御神体じゃなくて模した像な……」


 戸惑っているアビちゃんに適切なアドバイスをする女騎士クリントウエストヒップである。

 白刃を引き抜いて「さあいくぞ!」と構えている隣で、勇太も意味があるのかどうかわからない突っ込みを一応入れておいた。


「そうですね。相手は女神さまの像、それを動かしているのはゴースト! となればヒップ、女神さまにお歯向かいするのはいけませんよっ」


 納得したはずのアビちゃんだが、剣を突き付けて女神像を攻撃しようとした女騎士を制止した。


「何故だ、どうして止める! あれを倒さねばわたしたちに勝利は無いのだぞっ」

「それでもいけませんっ。そうです、ゴーストを倒す事に集中しましょう。モノの本によれば、ゴーストは聖なる癒しの魔法を受けると、成仏してしまうそうです!」


 羽交い絞めにされて困惑した女騎士を、諭すようにアビちゃんが言った。

 だがそんな事はまったくお構いなしという風に、もうひとりの勇太パーティーの仲間、魔法使いのパンティーラが攻撃をかけようとしている。


 今度は俺がパンティーラさんに飛びつくタイミングだと、勇太が背後から動きを止めた。


「四の五の言わずに、女神像ごと破壊してしまえばいいのですわ! どうしておとめになるのですっ」

「ま、まあ待って。あんまり普段役に立たないアビちゃんの聖なる癒しの魔法を、使うチャンスなんですよ! 今ここでレベリングがてら、ヒールを連発してもらえば、アビちゃんのヒールレベルが上がるかもしれない!」


 まるでゲーム脳よろしく勇太がそんな提案をしたところ、女騎士も毒女も同時に「なるほど」と納得が言った様だ。

 ついでにダークエルフの司祭まで「そ、そうですね!」と気が付いた様だ。


 その事を意図して司祭アビが自分が攻撃すると提案したのかと思えば、そこには思い立っていなかったらしいのだ。


『坊主、なかなか悪知恵が回るな』

「何かすごく嫌な言い方なんですけど……』

『安心しろ坊主、いざとなれば女神像を破壊する事は俺には造作もない事だ。そろそろレベルもカンストするしな。ここで盛大にレベル稼ぎをしたかったが、今は褐色エルフちゃんのレベリングをするべきだろう』


 褐色エルフちゃんだけレベルが低いからな。くっくっく……

 クギバットさんが笑ったのを聞いて、確かにパーティーのバランスは大事だと勇太は納得した。


「勇者さんよ、俺たちはどうしたらいい?!」

「この場はアビちゃんに任せましょう」


 アーノルドの質問に叫んで勇太が言い返す。


「確かに、ゴーストを相手に俺たちの短剣では役に立たん。そもそもあの女神像相手にした場合、短剣で小さな傷をつけるので精いっぱいだ」


 短剣を構えたシルベスさんも同意した。

 けれども、見ているとふたりの探索者は丸太ん棒みたいな太い腕なので、むしろ短剣を使うより肉弾戦を女神像に挑んだ方がよほど効果があるのではないかと思ったぐらいだ。

 しかし勇太がそれを茶化して口にする事は無かった。


「そっちが動かないなら、こっちからいくわよ。行け、わが僕たちよ! 女神像によって女神姉妹教団の哀れな信徒どもを踏み潰してしまえッ」


 何故なら、ノーライフキングたるロリペドなフィリアちゃんがそう命じたからである。


 唐突に緩慢な動きから急速な機動で動き出した女神像が、シルベスとアーノルドの立っていた場所に大振りのパンチを繰り出した。


 勇太はあわてて背後に飛び退り、パンチーラさんは「いやン」とエッチっぽい悲鳴を上げた。

 よく見ると抱き着いている勇太の手が、熟れたパンティーラさんのお胸をモミモミしていたのだ。


「勇者さン、時間と場所をわきまえてくださらないことぉ?」

「いや違うんです、不可抗力です!」


 勇太は頬を染めたパンティーラに弁明した。

 今度は女騎士めがけて女神像がフックぎみのパンチを繰り出す。

 女騎士はそれを必死の形相で長剣によって受け止めた。ついでに必死の形相で抗議もする。


「き、貴様なにをピンチの時にやっているのだ! こういうのは順番が大事だ順番が!」

「クリントウエストヒップさん、前みて前に集中して。それから物事は順番が大事だから。今は目の前の敵!」

「ぬう、ヘイト! 今のうちにアビよヒールでゴーストを攻撃しろっ」

「了解です。女神様の癒しによって行き場を失った魂たちよ、あるべき場所へと旅立ってください!」


 必死で呪文めいたものを口に呟く司祭アビちゃんかわいい。

 勇太はちょっとそんな敬虔な宗教者として腕を組んで祈りを捧げるダークエルフちゃんを見て、感心しつつ愛らしいと思いつつである。

 がんばれ、がんばれ!


「馬鹿め、あんたたちは大馬鹿だ。勇者にスキあり!」


 その時である。

 完全に暴れる女神像にみんなの意識が集中してたところで、ちんちくりんの半透明美少女だった(過去形)リッチのフィリアちゃんが、勇太めがけて攻撃を仕掛けてきたのである。


『くっくっく、馬鹿は貴様だな。いけ坊主、岩盤シャワーだ!』


 突然、剣を振り回しながら勇太に飛びついてくるゴシック以上の少女の目前に、勇太はクギバットさんから指示されるままに金砕棒へと変化したそれを叩きつけた。


「きゃあ! 顔にぶっかけないでっ」


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