第39話 かくて勇者は勃ち上がった
勇太は金縛りにあっていた。
右に司祭アビ、左に魔法使いパンティーラと、ふたりの女性が勇太の腕をがっしりとホールドしていた状態で、その上には半透明の美少女がマウントポイジションを維持しているのである。
「まったく! 男という生き物は油断も好きもありはしないわね。こここっこんなに大きくして、あたしをどうするつもりなの?」
これでは「どうするつもり?」と聞かれたところで、勇太からどうにかする事などできるはずもないのである。
ただ勇太は鈍器BOYを突き上げてしまう以外に意思を示す事は出来なかったのである。
「ふうん? でも残念。あたしは今、幽体離脱中だからあたしに乱暴を働くなんて事は出来ないわよ。それに、あなたも金縛りの最中。つまりあなたは生殺し状態ってわけね。あっはっは、あーっはっはっは!」
勇太の腰の上で勝ち誇った半透明美少女はそう宣言したのである。
お、俺はいったい何をされてしまうんだ?! そんな恐怖に襲われていた勇太に向けて、ずいと半透明美少女がかわいらしい顔を近づけてきたのだった。
「ふふん。あなたも正体がわからない女に襲われて身も心も奪われてしまったのじゃ、うかばれないわよね。いいわ、自己紹介したげる。聞いて驚かないでちょうだいよね、あたしの名前はフィリア。ノーライフキングと世間さまに恐れられているリッチよ。このダンジョンを経営しているボスだと言えばわかるかしら?」
半透明美少女が人骨戦士たちに何事か命令を飛ばしている姿は、勇太も目撃していた。
むしろその姿を目撃したのは勇太だけであるから、他のパーティーメンバーは知らない。
「あなたが巷で噂になっている勇者よね? 近くの村々であたしの眷属が情報収集をしてきたんだから、誤魔化したって無駄なんだから」
勇太の鈍器BOYが首肯した。
確かに自分が勇者である事は間違いない。
ついでに他に七人の勇者が召喚されたのだが、そこまで懇切丁寧に教えるつもりはない。
だって彼は金縛りで動けないんだから!
「そう? やっぱりあなたが勇者で間違いないのね。ふふっ覚悟なさい。その体、このノーライフキングであるフィリアさまが頂戴してあげるわ」
「……ッく」
「あたしが持っているのはアンテッド限定のモンスターティマー認可証だけだろうって? チッチッチ、あなたはなにまわかってないわ。そしてあたしは天才なの。わかる?」
わかりません、と必死で勇太は訴えた。
何とか眼だけは自由に動くらしく、左右に視線を振ってNOと言いたかったのだが、勇太はそれが伝わったのだろうかと思った。
視界の端ではこの時間帯の火の番を任されている女騎士が、真新しい長剣の白刃を丁寧に布切れでふき取っている姿が見えるではないか。
助けてクリントウエストヒップさん! と訴えてみたが、テレパシーが使えるわけではないので勇太の念力は無駄に終わった。
「このアンテッド限定の認可証には穴があるのよ。ずばりそれはね、使役する対称が死んでいなくても、体の自由を奪われている時ならば、乗っとる事が可能なの」
つまりアンテッド限定とはなっているけれど、あなたの自由を奪った状態ならば乗っ取る事が出来るわけ。
「あたしって天才! あなたはあたしによって勇者でありながら、女神姉妹教団の信者たちに刃を向ける、あたしの忠実な下僕となる運命なんだわ。あっはっは、あーっはっはっは!」
フィリアと名乗った半透明美少女は、何がおかしいのか大きな声で笑いだしたではないか。
それでも勇太の左右にいるパーティーメンバーは気が付いていない様だし、ヴェテランの探索者ふたりも豪快なイビキや歯ぎしりをするばかりで、気にも留めていない様だ。
女騎士にいたっては「いい剣だ。気に入った」などと、見張り番であるにもかかわらず自分の世界に浸ったままでいる。
「そういうわけだから、その体をわたしによこしなさい」
「……んう
「まさか勇者がリッチのあたしに服従したと知れば、馬鹿な女神の眷属たちは大いにあわてるはず。抵抗しても無駄よ、あなたの意識をその体から抜き出してやるんだから……」
悪い顔を浮かべた半透明美少女は、そう言って勇太に近付けた顔をさらに接近させて舌なめずりする。
その目的はただひとつ。
勇太の唇を奪う事だった様だ。
半透明だから実態がないものなのかと思えば、そうでもないらしい。
勇太の自由を奪い使役するための何かしらの儀式については、すくなくても唇同士が接触する事も可能なのだ。
ぷるんと唇を唇でつまみあげられ、ちゅるんとその舌先を吸われた。
そのまま清楚でゴシックな服装(だが半透明)にあるまじき大胆さで儀式を行われ、童貞勇者の勇太はとても興奮した。
「すべてを奪われる最後の瞬間の思い出が、あたしの唇の感触だった事を感謝しなさい」
だがこんな形でファーストキスを奪われた勇太が、これだけで納得をするはずがないのだ。
『くっくっく、お嬢ちゃんが自由に出来るのはそこまでだな』
「だ、誰なの?! 勇者は儀式の最中で自由を奪われているはず。隠れてないで出て来なさい!」
『お嬢ちゃん、俺はずっと坊主の枕元にいるぜ? 逃げも隠れもしていない』
勇太が呆けた気分になっていた頃、クギバットさんが半透明美少女フィリアに話しかけていたのだ。
そして儀式が中断していたその瞬間に、勇太の体が自由になった。
いや違う、勇太もまた幽体離脱してしまったのである。
「おおっ、おれの体が半透明だ! お嬢さん、もっと続きをしたいです!」
「ちょ、何なのよあなた。あたしの言う事を聞きなさいっ、って言うか何で勝手に動き出すのよっ」
本来は勇太の自由を奪い完全に支配下に置くための儀式だったにもかかわらず、クギバットさんのナイスな邪魔のせいで、中断された。
そのせいで中途半端に肉体から精神を切り離していた勇太が、勝手に動き始めたのだ。
チャンスだね!
「お、俺さ。こんな体だしはじめてだけど、やさしくするから……」
「いやっ。こないで、こないでぇ?!」
童貞をその気にさせたノーライフキングを自称するリッチのフィリアは、迫る勇太に恐れをなして逃走を図るのであった。
「まって、半透明のかわいこちゃん! 俺のやり場のないキモチを受け止めてくれっ」
残念ながらここはノーライフキングの半透明美少女の住居である。
隠れる場所も道のりも何でもしっている彼女を追いかけて探す事は容易では無かった。
そして自分の本体から離れれば離れるほど、幽体離脱した勇太の体は思う様に動かなくなる。
「ちっ、逃がしたか……」
『よかったな坊主。あと少しでノーライフキングの眷属として、一生自由を奪われるところだったぞ』
「え、そうなのか?」
幽体離脱した疲れからか、意識が徐々に酩酊してく中で勇太はそんな返事を確かにしたはずだった。
その後、ふたたび自分の体に意識を取り戻した勇太は、そのまま寝入ってしまったのだが……
「おい、起きろ勇者よ。そろそろ貴様が見張り番をする時間だぞ。交代だ」
「……ッは?!」
目を覚ますと、勇太の下着の一部がカピカピになっていたのである。
「お、恐るべし半透明美少女。いやノーライフキングのフィリア。そ、その名前覚えておくぞ……」
勇太は復讐を誓ったが、あくびを垂れる女騎士は「何を言っているのだ貴様は?」と軽く流すだけであった。




