第23話 実にけしからん相撲一番
パーティーメンバーを人質に取るという外道の働きをした樹木モンスターは、ただ一撃で敗れ去ってしまった。
当たり所がよかったのか、強烈な胸への金属クギバット攻撃でダンジョンの壁まで吹き飛ばされ、そしてそこでふたつに折れ、ピクリとも動かなくなってしまったのだ。
「ふっ他愛ないな……」
「あんたが倒したわけじゃないだろうクリントウエストヒップさん?」
「い、いやこれはふたりの協力でだな」
そうしてあっさりと女騎士によって解体されてしまった。
さっそく持ち帰る必要部位を確認しようと勇太がしゃがみこんでそれを手伝おうとしたのだけれど、問題があった。
「このトレントの素材というのは、どの部位であっても買取をやってくれるそうだぞ勇者よ」
「そうなると持って帰るのが大変そうですね、ひとまず解体したものはロープで縛りつけて纏めようか。アビちゃん、ロープ取ってくれる?」
女騎士の解説によればトレントはこれ全身素材になるほど優秀なモンスターらしい。
しかし勇太がダークエルフのアビちゃんに声をかけてみたものの、どうやらおかしな反応をして、一向にロープを差し出してくれない。
「…………」
「アビちゃん?」
「ゆ、勇者イナギシさま……」
「どどっどうしたのアビちゃん?!」
こういう時にまったく気が利かないのが童貞だ。
彼女は先ほどまで解体されつつあるレゲエ木人トレントに人質に取られていたのだから、きっとまだ気が動転したままなのだ。
心のケアが必要だと今さらになって勇太は慌てたのだが、
「すっすいません勇者イナギシさま。わたくしは勇者さまのパートナーとしてこの身を捧げる決意をしていたのに、こんなレゲエ木人が体に触れる事を許してしまいました……」
「あれは事故だから、たまたまモンスターに触れられてしまっただけだから、気にしなくていいよ」
「気にしますよ! わたくしは修行中の聖職者です、いっ異性に体を触れさせる様な事があってはならないのです。それにこんな傷モノになってしまって今となっては……」
アビちゃんは熱心にしかしモジモジしながら力説した。
そうは言うけれども、寝ている時はいつもひとつの布団で川の字であるから今さらだ。
しかも寝相のあまりよくない司祭アビは、寝入った側から勇太にべったりと腕を回して抱き枕代わりにしているぐらいだった。
童貞の勇太にしてみればこれは嬉しい。
嬉しいのと同時に童貞に勇太にしてみれば、手を出す事も無くじっと女の子ふたりに囲まれて耐えなければならないのは地獄でもあった。
「だからわたくしは、もうお嫁にいけなくなってしまいました……」
シュンとして俯いて見せた司祭アビである。
ちゃんと一応は勇太に言われて用意していたロープを、切なげにギュっと握って見せるではないか。
「お、大げさだよ、大丈夫だから心配しなくてもアビちゃんはとても魅力的だし、必ずお嫁にいけるから」
あまりに思いつめた表情でロープを見ているものだから、勇太はまさかアビちゃんがそれで自殺でも図るのではないかと思ってしまった。すると、
「本当でしょうか? わたくしはもう傷モノです、それでも勇者イナギシさまはわたくしを受け入れて……」
「へ?」
「こんな傷モノの司祭ですし、聖なる癒しの魔法もすり傷ぐらいしか治す事が出来ませんけれども、それでもわたくしを、勇者イナギシさまがお嫁さんにしてくださるのですかっ?!」
上目遣いをした司祭アビは勇太の側に駆け寄ると、その手を掴んで大きな瞳をますます潤ませるのだ。
これが童貞を殺しにかかる仕草だった。
勇太はたまらず前かがみになり息子も歓喜!
しかし同時に不機嫌になるのは、またされている側の女騎士である。
「この話の流れから、どうしてそうなるのだ。アビよ、いいから早くロープをこっちに寄越してくれ。いつまでたってもトレントを縛る事が出来ないではないか」
「ひ、ヒップ。わたくしは今、人生の岐路に立っているのですよ?! 傷モノになったわたくしが売れ残ったら、ヒップはどうしてくれるのですかあッ」
「貴様がその程度で傷モノになったというのであれば、わたしなどはもう傷だらけだ。何しろ女騎士だからな! パーティーメンバーの盾役として傷のひとつやふたつはものの数ではない!」
ババンと立ち上がった女騎士は激しく豊満な胸を揺さぶって自己主張した。
すると司祭アビもロープを放り出して対抗する様に、ずずいと前進しながら胸を張って見せるではないか。
アビちゃんのお胸は大きさで女騎士に一歩及ばないが、その健康的な小麦色をしたぷりぷりのそれを女騎士に押し付けて、負けていませんよとおっぱい相撲がはじまった。
はっけよーい、のこった!
一方勇太はロープを拾うと、前かがみになりながらトレントを縛る作業に集中するのだった。
ここはダンジョンの中だ。
いつまでもこんな場所で馬鹿な騒ぎをしていると、またニンジンのモンスターや変な別のトレントの個体が現れるかもしれない。
油断をすると仲間を人質に取られたのは勇太の記憶に新しい。
だが本当は童貞には刺激が強すぎるおっぱい相撲を、観察し続けていると気が変になってしまうからだ。
見たけど見ては駄目。
とか言いながら、チラチラと見てしまうのはこれも男の性か。
「ふぬぬぬ、その程度の圧力ではわたしは屈しないっ」
「大きいだけが自慢の様ですが、あなたのそれは大地の引力に負けている様ですねっ」
「何を、熟れた果実は垂れてこそ食べ時なのだぞ! いやわたしのは垂れていない、アッパー系だ」
「アッパラパーの間違いではないですかヒップ?!」
意味の分からないことを言いながら、意味の分からない意地の張り合いをしているうちに、勇太の手によって解体されたトレントは縛り終わっていた。
黙々と作業をする事で、
『坊主、血が一か所に集まっているな……』
「言うなよクギバットさん、俺もお多感なお年頃なんだよ……」
互いに相棒と語り合う、勇者と伝説の鈍器の図である。
ところで縛り上げみると、このトレントの素材は結構な大きさになる。
ズタ袋に仕舞う事も出来ないので、どうやら帰りはこれを両手に抱いて運ばなければならない様だと勇太は思った。
「ゆ、勇者イナギシさま。聞いておられますか?! おっぱい、おっぱいです!」
「そうだぞ勇者、どっちの胸が好みか応えてもらおうか。この大きくも歴戦の傷だらけの胸と、少しばかり触られた程度で大騒ぎする褐色生娘の小胸と!」
「小胸じゃありません、見てください勇者イナギシさまっ。わたくしも十分に大きいはずです! ヒップ、あなたのが下品に大きすぎるだけですよ!!」
そんな事を言われても、童貞には困るんです!!
勇太は迫るおっぱいの圧力に気押されて、ダンジョンの壁に背中を預ける格好になった。
そこにふたりの女の子が手を突いてさらに迫って来る。
「と、とにかく続きはダンジョンを出てからね?! ほら、トレント素材もかさばるし、今回は下見だったからいったんダンジョンを出ようそうしよ。話はあとでしっかり聞くから! おっぱいより今はウォースパイトってことで!」
ウォースパイトとは戦争を軽蔑するという意味であるらしい。
おっぱい戦争反対、おっぱいは平和が一番だよね!




