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勇者のかわりに鈍器だけがどんどん成長する無双チート  作者: 狐谷まどか
第1章 成長しない勇者、大地に降り立つ
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第20話 勇者、闘技場に挑戦してみる


 冒険者ギルドで闘技場のクエストを受ける意思を伝えると、その場で受付のお姉さんから依頼人への紹介状を渡された。

 勇太たちはそれを持って依頼人が待つという場所に向かったのだが……


「こ、これが闘技場か! すごいな勇者、何階建てだ?!」


 女騎士は興奮気味に大きな大理石建築の闘技場を見上げていた。

 四角い巨大な箱といった雰囲気で、勇太が闘技場と聞いて最初に連想した古代ローマのコロッシアム的なものとはかけ離れたものだった。


「勇者イナギシさま、あちらに関係者入り口と書かれた札がありますよ」

「わかった、じゃあアビちゃんは紹介状を用意して。こら、クリントウエストヒップさん。いつまで呆けてるんですか?!」

「おおう、ビックリさせるんじゃない。すぐ行く……」


 モタついている女騎士を叩いて、勇太たちは関係者入り口から依頼人のところへ向う。

 そうして案内されたの闘技場内部にある出資者専用のVIPルームだった。


「勇者さまが闘技場に参戦されるのですか?! いやあこれは素晴らしい事ですな」


 依頼人の名前はピストロカルロスと言った。

 何でもこのラスガバチョの街で両替商をやっているそうで、闘技場のスポンサーとしても名前を連ねている富豪のひとりなのだとか。

 またピストロカルロスさん個人でも、競技参加選手を雇い入れて戦わせているのだとか。


「闘技場での戦いは個人戦と団体戦、冒険者どうしの戦いとモンスター相手の勝ち抜きがございましてな。今回はモンスター勝ち抜き戦の依頼をさせていただいたのですが。参加されるのは勇者さまのパーティーメンバー全員で?」

「いや、参加するのは俺だけだ」

「なるほど! 仲間の援護など必要がない、モンスターなどはひとりで倒して見せるというその豪胆さがさすが勇者さまといったところでしょうッ」


 ピストロカルロスさんは興奮気味に勇太パーティーを見回して大喜びだ。


「ま、まあ。自信はあるかな?」


 自信があるのはクギバットさんだけれどね、と勇者は言えない。


「さすがです、さすがですな! ではその様に契約書を作りましょう。わしと勇者さまと、冒険者ギルドの三通分ですな。おい、勇者さまに酒を持ちしなさい!」


 実際のところは女騎士が身ぐるみはがされて、先祖伝来だという長剣まで質に取られてしまったから参加したくても出来ないのだ。

 しかも司祭アビは最近ちょっぴり回復魔法のレベルが上がったけれど、彼女に出来るのは切り傷を二か所同時にかさぶたを被せるだけの実力だ。


「バーボンでよろしかったですかな? いやあこれは何戦勝ち抜き出来るか楽しみですな」


 今はまだ頼りに出来ない仲間たちと集団戦に出るよりは、自信満々のクギバットさんに全てを託して、個人戦に出るほかは選択肢がないのである。

 差し出されたコーンウィスキーを受け取りながら勇太は質問する。


「それでいつからこの闘技場に参加出来るんだ?」

「いつでも歓迎ですが、お急ぎでしたらさっそくにも準備させますぞ」


 なに? 予定が詰まっている? そこいらの出場予定者など待たせておけ!

 困った顔をしている使用人に罵声を浴びせて強引に予定をねじ込ませたピストロカルロスは、ニコニコ顔で勇太に向き直った。


「さっそく午後から参加する事が出来ますぞ!」


     ◆


「さあ、本日の挑戦者は何と勇者です!」


 闘技場は溢れんばかりの歓声に支配されていた。

 魔法による拡声器か何かを使って、司会者が大きな声を張り上げて勇太を紹介する。


「勇者イナギシ、武器は男らしく鈍器での挑戦。最初の対戦相手はレッサードラゴン、地べたを這いつくばるドラゴンの眷属です!!」


 装備はこのラスガバチョの防具屋で購入した真新しい革の鎧セットである。

 これまでのリアクティブプレートアーマーは、確かに防御力という点では非常に優れている。


「勇者イナギシさま。ご気分はいかがでしょうか」

「聖なる癒しの魔法の効果かな? とても落ち着いているよ。でも相手はドラゴンだろ? レッサーってどれぐらいレッサーなのかな」

「翼が退化していて飛ぶ事が出来ないドラゴンです。恐らく大人のレッサードラゴンという事はないかと……」


 ついでに致命的な攻撃を受けても、一度だけなら爆発四散して致命傷を無かったことに出来る優れものだけれども、これは思いの外、重い装備だった。

 成長し続け入るチート鈍器を頼みの綱にしている勇太にとっては、少々動きが鈍くなる。


「勇者、今からでも爆発反応胸甲に着替えなくても大丈夫か? 何ならわたしが防具やまでひとっ走りしてくるぞ」

「借金持ちが金がかかる提案をするんじゃないよ!」

「ああ、せめてわたしが持っていた胸甲が手元に残っていれば……」


 勇太は知らないうちに、女騎士は勝手に爆発反応胸甲を購入していたらしいことを、今知った。

 やりやがったなアンタ! 

 と文句を言ってやろうと思ったところで、観衆の声がひときわ大きくなる。


「勇者さま、ではお願いします!」


 係員の合図を受けて、仲間たちに見送られながら彼はクギバットを片手に溢れんばかりの歓声の中へと飛び込んでいく。

 千人以上は収容出来そうなその場所に、びっしりと客たちが収まっている。

 負ければ石が飛んできて、勝てば称賛の嵐。


「あ、あれがレッサードラゴンか……」


 闘技場の反対側から大きな檻が運び込まれてきた。

 中からはワニとサイを足して二で割った様なまがまがしいトカゲの親戚が出てくる。

 前情報一切なしでここに出場するのが闘技場のルールだとは聞かされていたが、世にも奇妙な生物を目の前にして勇太は恐ろしい気分になった。


「初戦の相手がドラゴンとか、ピストロカルロスさん何てモンスターをアテンドしてくれちゃってるんですか……」


 大きさはイリエワニぐらいのサイズだろう。

 少なくとも四メートルはあろうかという胴体に、太い尻尾が伸びている。

 ただしワニよりも太くてたくましい胴体だ。それが厚く硬そうな鱗に覆われているので、鈍器での攻撃がどこまで効果を及ぼすのか、計り知れなかった。

 勇太がそんな事を考えていると、


『坊主、すべてを俺に預けろ。軌道が見えるはずだ……』


 いつの間にか金砕棒姿にチェンジしていたクギバットさんは、勇太の理解できない事を口にした。

 意味が分からないと首をひねっていると、そうして言葉を畳みかける。


『考えるんじゃない、念じるんだ……』


 おう、と冷や汗を額に垂れ流しながら勇太が返事をした途端。

 金砕棒の柄が震撼した様な気がした。

 チャージ状態が発生している時と同じ感覚になった勇太は、そのまま言われた様に念じてみる。


 任せるぜ俺の相棒、さあどうしたらいい?


「それでは戦いを開始します。よろしいですね? はじめッ」


 司会の拡声器が吼えた瞬間に、目の前のレッサードラゴンが動き出した。

 大きな体をしているものだから、機動力は無いのかと思えばそうではない。直ぐにも巨体を震わせながら、飢えた野獣の様に勇太めがけて前進してくるではないか。

 まだクギバットさんの指示や「念じた結果」は体感できない。


「お、おいクギバット、どうすりゃいいんだよ……」


 このままではあっさりと餌食になってしまう。

 勇太は悲鳴を上げながらいったん避けるべく闘技場のコートの中を走って移動する。

 するとレッサードラゴンはすさまじい咆哮を上げて、勇太をビビらせた。

 たまらずチビりそうになったところで、今度は尻尾によるビンタだ。


「うおおおっ。かする、死ぬ!」


 こんな事になるのなら、爆発反応胸甲にしておければよかったと後悔した。

 だが次の瞬間、勇太が動くべき進路が示されているのだろうか、矢印の様なものが伸びているのがわかった。

 その矢印の上にカウンターの様に数字まで見えているではないか。


『落ち着け、坊主……』


 カウンターは今も減り続けている。


「もしかして、この矢印に合わせて俺は動けばいいのか?」

『理解が早いな、坊主』


 そういう事は早く言ってくれ!

 カウンターがゼロになった瞬間、恐ろしい速度で頭突きをしてこようとしているレッサードラゴンを避けるに指示に従った。

 左に回避、そしてそのタイミングで金砕棒を二段溜めの状態で思い切り振り降ろす!


「ギシャー!!!」


 硬い皮膚に覆われている事がわかる感触がグリップからも伝わって来る。

 けれどもそれより確かな破壊力が発生して、勇太の握る手には皮膚を貫通して柔らかい肉までダメージを与えた感覚がもたらされるのだ。


「攻撃が効いた?!」


 たまらず首を振って側にいる勇太を払いのけようとしたのだろうか、しかしレッサードラゴンは思う様に体を動かす事が出来ない。

 完全に足を引きずる様に動いているのを見た勇太は、すかさず追加の攻撃をする。

 チャージによる溜め攻撃だ。


「どりゃあああああぁ!」


 勇太は引き絞った金砕棒を、野球のフルスイングの要領でレッサードラゴンの顔面にめり込ませた。

 レッサードラゴンはあっさりと地面に倒れ込んだのである。


「……こ、これは。勇者イナギシ選手の勝利だーー!!」


 とどめの一撃で、クロコダイルバンビの顔が凹んだ。

 完全に頭蓋骨が粉砕された様に潰れていて、大きくえぐられたのだ。


「……お、俺がこれを。やったのか…?! すげえクギバットさんすげえ……!!」


 倒れてまだ四足をピクピク痙攣させているレッサードラゴンを見下ろしながら、勇太は心の中で驚いていた。

 よくよく見れば傷だらけのレッサードラゴンである。


「き、きっと並みいる冒険者たちの挑戦で弱っていたんだろう。うん」


 レッサーとは言えドラゴンをあまりにもアッサリと自分が倒してしまったので、勇太は信じられない気分だった。

 狂ったように場内が拍手喝さいに見舞われているようだが、同時に石も投げ込まれてきた。

 恐らくはモンスターの方に勝つと賭けた人間がいたのだろう。


「勇者イナギシ選手、なんと試合開始直後に、あっさりとレッサードラゴンを倒してしまいました!」


 飛んでくる石を避けながらも呆然としてる勇者のところに、パーティーメンバーが走り込んでくる。


「勇者イナギシさま、さすがです!」

「おお勇者よ、あの一撃はすごかったな。この次はミノタウロスが相手だそうだぞ、この調子でバンバンやってわたしの借金をチャラにしてくれ!!」


 仲間に囲まれたところで、勇太はようやく顔をほころばせた。

 素直に安堵と、困惑の入り混じったものだ


「ち、ちなみに今のレッサードラゴンちゃんを倒したら、いくらぐらいの報奨になるのかな?」

「ぎ、銀貨四枚です勇者イナギシさまっ」


 勇太は白眼を剥いて倒れた。

 女騎士のこさえた借金を全額闘技場で稼ぐためには、いったいあと何回勝ち抜かなければならないのか。



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