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勇者のかわりに鈍器だけがどんどん成長する無双チート  作者: 狐谷まどか
第1章 成長しない勇者、大地に降り立つ
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第17話 そろそろサイコロブッコロす? 後


「任せろ、騎士の剣とは大切な仲間を守るためにあるものだ。例え刺し違えてもサイクロプスをこの馬車列に近づける事は無いからなっ!」


 女騎士はキリリと表情を引き締めると、馬上からそう宣言してみせた。

 頼もしい限りの仲間の言葉に勇太も一瞬だけ感動しかけたが、頼みの盾役である女騎士がやられるような相手では、自分たちが助かる眼がないという事だ。


「サイコロプスのヤツ、寂しそうにこっちを観察しているぜ」


 数百メートルの距離からでも筋肉隆々なのがわかる。これはホブゴブリンよりも巨体なんじゃないかと勇太は戦慄した。

 よくよく考えて見れば巨人の仲間なのだから当然だ。

 接近を許してしまえば、巨人があの腕を振り回しただけで馬車は大損害だ。


「ホッホさんに迷惑をかけてはいけないからな。クリントウエストヒップさん、馬車から離れて戦うぞ」

「そんな事はわかっている。アビ、いくぞ!」

「了解ですヒップ、わたくしの回復魔法がありますから、存分に擦り傷を作ってくださいねっ」


 司祭アビの回復魔法はあまり期待できないので、ここは慎重にかつ連携をしっかりと取りながら戦おうと勇太と女騎士は顔を見合わせる。


 いかり肩に毛むくじゃらのタテガミをはやし、禿げあがった頭は凹凸の鱗の様になっている。

 キモい確信。キモい上に強そう確信。

 手には勇太が持っている金砕棒みたいな武器を持っているじゃないか。

 ただしサイズは倍の大きさだ。


「ゆ、勇者イナギシさま。あの鈍器で攻撃を受けた場合、わたくしの回復魔法では間に合わないかもしれません」


 俺もそんな気がするよ、と勇太は思った。

 すると自分たちを鼓舞する様に女騎士が口を開く。


「だが一回だけならこの爆発反応胸甲があるので安心だぞ貴様たち。みんなお揃いで購入しておいてよかったな!」

「そ、そうでしたっ。仮に爆発反応胸甲が破壊されても、マイクロビキニアーマーがまだ残っています!」


 複合装甲でバッチリです!

 などと司祭アビは褐色のお肌を上気させながら戦意を高めている様だったけれども、勇太パーティーたちが近づくのを見て、いよいよサイクロプスも動き出した。

 はじめはのしのしと、やがては駆け出して大きく巨大なこん棒を振り上げたのだ。


「逝くぞ! 死なばもろともっ」


 加速する女騎士は馬上からすれ違いざまの一撃を見舞う。

 長剣を両手持ちに握った女騎士は、それを振り抜かれた巨大なこん棒に打ち合わせてジャリンと激しい音を奏でさせた。すると、


『今だ坊主、足を狙え……』

「マジかよ?!」


 クギバットさんからの指令が飛び出した。

 駆けだしていた勇太は、接近するにつれて三メートルはあろうかというサイクロプスに圧倒されて尻込みしていたのだが、チャンスはチャンスだ。

 女騎士と打ちあった直後に振り返った独ツ眼巨人の背後に走り込みながら、勇太は思いっきりそのふくらはぎに金砕棒の一撃を叩き込んだのである。


「グホッホゴリマッチョ?!」


 ダメージが通った感触がグリップから伝わって来たけれど、そう簡単にサイクロプスが倒れるはずも無かった。

 やはりチャージなしの通常攻撃では火力が足りないらしい。

 攻撃のターゲットが勇太に向かい、怒り狂ったサイクロプスは大きくこん棒を振り上げるのだった。


「金砕棒かと思ったけど、削り出した大木に骨を巻き付けている武器だこれ?!」

「勇者イナギシさま、危ないっ!」


 恐ろしい勢いで叩きつけられた瞬間に、悲鳴を上げながら勇太は転がり避難した。


「貴様の相手はこっちだ馬鹿め、ヘイト!」


 女騎士は少し離れた位置から馬を走らせて勢いを付けると、憎悪を自分に向けさせながら再度の攻撃だ。

 今度は速度が付いたところから、サイクロプスめがけて馬から飛びつく様に剣を振るうではないか。

 華麗に宙を舞った女騎士が、ふたたび振り返ったサイクロプスの肩口にザックリと斬りつける。


「やったか?!」

「やってねえ、離れろ!!」


 女騎士は興奮して着地したが、サイクロプスは肩口の傷を片手で抑えながら、それでももう片方の手で巨大なこん棒を水平に薙いだのである。

 勇太の合図は残念ながら一歩遅かった。

 片手で十分な威力が無かったにも関わらず、その一撃は爆発反応胸甲の耐久力的には限界突破ダメージだった。


「ぐわぁ! やられたあ」


 ただの一撃で女騎士の鎧は爆散した。

 爆発した瞬間にアーマープレートの破片が周辺に炸裂して、それはサイクロプスにも、ついでに勇太と司祭アビにも襲いかかって来た。

 それだけで終わればよかったのだが、勇太とアビちゃんの爆発反応胸甲までが誘爆したのである。


「あだだだ、痛でぇ?!」

「ひ、ヒールを! きゃあ!!」


 女騎士と司祭アビにはマイクロビキニアーマーがあったが、勇太は鎧が爆散すれば全裸である。

 破片で悲鳴を上げてのたうち回るしかない。


「くっ、だがまだわたしの剣も心も折れてはいないぞっ」

「キョウリュウカゾクッ!!」

「お前なんか死ね、死ねっ!!」


 脱いでいるよりも恥ずかしい格好の女騎士は、まだまだ戦意喪失はしておらず、ぶんぶん剣を振り回してサイクロプスに攻めかかるのだ。

 そのスキにようやくヒールの連続で回復した勇太は、チャージを開始するのだった。


『坊主、今度も同じ場所を狙え……』

「だけどさっきは効かなかったぞ?!」

『振り返ったところを、男は黙って股間に一撃だ……』


 なるほどわかったと勇太はうなずいて、勇太は金砕棒を二段チャージした。

 じっくりと待っている間は無いのだけれど、焦らずに引き付けて、そしてふくらはぎに強烈な一撃をイメージする。


「くっ殺せ! もはやこれまでだ騎士に二言は無いっ」


 どうやら追い詰められて絶体絶命のピンチになった女騎士の声が聞こえた。

 じりじりと近づいたところで溜め攻撃を勇太は見舞う。


「おらこっちだよッ」

「ンギャートルズデスネ?!」

「もういっちょ!」


 痛みに顔をしかめながらこちらを振り返るサイクロプスを見上げつつ、勇太は振り抜いた金砕棒を頭上に構えなおした。


『……今だ坊主、やれ!』


 言われるまでも無く勇太は頭上の金砕棒を振り下ろした。

 その先端は吸い込まれる様にサイクロプスの股間を叩き潰したのである。


     ◆


「激しい戦いでしたが、勇者イナギシさまの活躍によって悪は滅ぼされました」


 両手を組んだ褐色エルフの司祭アビは、股間を抑えながら死んでいる首なしサイクロプスに祈りをささげた。

 ちなみに首は討伐証明の部位なので、女騎士がギコギコと剣で斬り落としてしまった。

 勇太はほとんど放心状態でそんな彼女たちパーティーメンバーを眺めながら、大地にへこたり込んだのである。


「ゆ、勇者さま。お水をどうぞ」

「おうホッホさん、ありがとうございます……」

「あれほどの大きな巨人を、たったの三人でお倒しになられたとは。全裸でなければ英雄と後々称えられることになってでしょう!」


 行商人のホッホおじさんに気遣われて水筒を受け取った勇太は、ゲンナリした顔で称賛の言葉を口にした騒がしい彼を見やった。

 全裸は余計だ全裸は、と思ったところでその元凶である女騎士が、ニコニコしながらやって来るのを目撃した。


「おいホッホ、塩はあるか塩は」

「塩ですか?」

「サイクロプスの首は討伐の証明部位だからな。塩漬け保存して持ち帰って村の連中に自慢するのだ」


 ばるんと爆乳を激しく揺さぶって腰に手を当てた女騎士はそう言い放った。

 自分は大物のモンスターを倒して上機嫌な様だけれど、その側で健康的な褐色お肌を抱きしめているアビちゃんは不満のご様子。


「なあクリントウエストヒップさんよ。俺たちもう爆発反応胸甲を着るのはやめにしたからな?」

「何故だ、リアクティブプレートアーマーかっこいいだろ?!」

「誰のせいで連鎖爆発したと思ってんだよ! 危険極まりないからやめだやめっ」


 ラスガバチョの街に到着した隊商を護衛する勇太パーティーは、街の防具屋で普通の鎧を購入した。



 名前: クリントウエストヒップ ヒト族 21歳 独身

 職業: 女騎士(グランドキャットウォーク村の守衛官) レベル35

 武器: 伝家の長剣 (切れ味B)

 装備: 爆発反応式胸甲 マイクロビキニアーマー白(下着兼用) ポンチョ

     腐りかけたサイクロプスの首

 技能: 鑑定スキル ヘイトスキル

 状態: 勇者イナギシPT ふつう



 名前: アビ ダークエルフ族 16歳 独身

 職業: 司祭(グランドキャットウォーク村の神官) レベル7

 武器: 護身の短剣(切れ味D)

 装備: ふつうの胸甲 マイクロビキニアーマー赤(下着兼用) 法衣

     聖なる経典 

 技能: 聖なる癒しの魔法(ヒールレベル2) チャーム お説教

 状態: 勇者イナギシPT 結婚願望あり

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