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勇者のかわりに鈍器だけがどんどん成長する無双チート  作者: 狐谷まどか
第1章 成長しない勇者、大地に降り立つ
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第12話 勇者、紙装甲と自覚する


 果樹園の周辺にある防風林から姿を現したのは、六体の人狼だった。

 見るからに筋骨隆々の体をしていて、その上に狼の顔がポッカリと乗っかっているのだ。


『坊主、連中のチームプレイに注意しろ……』


 服装は荒野で生活する野良ゴブリンに比べれば遥かに文化的である。

 剣を持っているし、弓矢や槍を装備している者もいる。


「狼は群れで生活する動物というからな。狩も相手を適度に追い詰めながら、自滅するのを待って襲いかかるなんて聞いた事があるぜ……」

「人狼どもは姑息で狡猾だ! 隙を見せると酷い目にあわされるぞ!」


 じわりじわりと俺たちを取り囲もうとしている人狼の群れに向かって、女騎士は叫んだ。

 そうしておきながら一歩前に踏み出して、何とか司祭アビだけでも助けようと庇う様な格好を取る。

 勇太たちのパーティーと人狼の群れは三対六で圧倒的に敵が有利だ。

 先ほどまでのインプとはわけがちがって、威嚇する様に女騎士が剣を振って見せれば、一定の距離を確保する様に飛び退る。


「ど、どうすればいいクギバットさん」

『攻撃が当たりさえすれば、一撃必中で倒す事ができるぞ……』

「つまり?」

『敵の攻撃を回避しろ……』


 そんな当たり前のことをおおおお!

 勇太がそう叫んだ瞬間に、戦いがはじまった。

 剣や槍を手にした人狼たちのうち、ひときわ体格の優れた二人が前に躍り出て女騎士の動きを牽制しようとする。


「二対一でもこのわたしが後れを取ると思ったか! 死ね、死ねッ」

「ワンワンボーイ!」


 さすが女騎士は対人戦闘の心得があるのか、大柄なふたりの人狼相手でも一歩も後れを取らなかった。

 問題はその間をすり抜けて残りの四体が全て勇太と司祭アビの方に移動してきた事だ。

 彼らの狙いは大柄の人狼が女騎士を抑えている間に、残りのメンバーから倒す算段だった様だ。


「ワンブッコロッキー!」

「アビちゃん下がって」

「で、でもっ」


 何語かはわからないが、勇太が司祭アビを庇う様な姿勢を見せると、四体の人狼は立て続けに勇太めがけて攻撃を仕掛けてくるのである。


『……避けろ坊主!』

「ヒイッ」


 完全に相手は勇太を殺しにかかっている。

 しかもゴブリンやインプなどと違って組織的にチームプレイを意図しての連携攻撃だ。

 無理な攻撃をするというよりも、勇太がヘマをして自分から隙を露呈するのを待つ様に、牽制の攻撃を繰り返している。


「ビビってたら攻撃できねぇ。どうする?!」


 一度だけなら致命傷を受けても爆発反応式胸甲が守ってくれるのだから、強気に行くのもありかも知れない。

 そう思った勇太は、思い切り力いっぱいのフルスイングで人狼の集団にクギバット攻撃を仕掛けたのだが……

 当然の様に素人の攻撃は空振りに終わってしまった。

 そこを人狼たちに狙われる。


「勇者さま危ない!!」

「ほげええ! 痛い、腕をやられたぁ」


 振り返れば、背後から鋭い胴薙ぎの一閃が駆け走っているのを勇太は目撃する。

 咄嗟に飛び退ったものの、その剣先から完全に逃れる事はできずに、腕を掠め斬られてしまったのだ。

 掠り傷だろうが、死ぬほど痛いものは痛い。


「ヒール! ヒール! ヒールぅ!!」


 クギバットを放り出すわけにもいかず、顔をしかめながら司祭アビを庇いつつ、取り囲む人狼たちと相対したところ。

 あまり効力がない聖なる癒しの魔法を司祭アビが連発して、止血だけは成功するのだ。


「絶体絶命だぜクギバットさん、どうすればいい?!」

『落ち着け、チャンスはあるぞ坊主……』

「待ってろ勇者、今助けに行くぞ!」


 大柄な人狼を相手にしていた女騎士が、ふたりの人狼を斬り伏せたのだろう。

 勇太を取り囲む人狼の一翼を切り崩すべく、つむじ風の様に女騎士が駆け込んでくるのが見えた。

 人狼たちもそれに驚いて、口々に悲鳴を飛ばしながら逃走モードに入るのである。


「ワンワンダッソウ!」

「逃がすか死ね、死ねええッ」


 女騎士の乱入で混乱に陥った人狼たちの隙を付いて、今度こそ勇太にもチャンスが訪れる!


『今だ坊主、溜め攻撃で確実に一倒せ……!』

「うおおおおおおッ!」


 思いっきりのフルスイングを勇太が振り回したところ、人狼二体をまとめて打ち倒す事ができたのである。


     ◆


 勇太は恐怖していた。

 実際のところ、攻撃だけであればどんどんレベルの上がる鈍器を持ってさえいれば圧倒的なパワーがある。

 だが問題は勇太本人が生身の人間で一切レベルも上昇する余地がないので、紙装甲も同然なのだった。

 それは爆発反応式胸甲を装備していても、根本的に解決した事にはならないと思い知った。

 しかも先ヒドは、爆発反応式胸甲を装備していない腕をやられてしまったのだから。


「たかが掠り傷ひとつでこの騒ぎとは、いささか情けないぞ勇者」

「……うう、面目ない。レベルは上がらなくても体力ぐらいはしっかり付けて、反射神経を磨いた方がいいのかな」

「その方が少しでも長生きできるぞ勇者。リアクティブアーマープレートが破壊された後の事を考えればな」

「うん……」


 勇太は司祭アビに何度も聖なる癒しの魔法をしてもらった腕の傷口を撫でながら、ションボリとした。

 攻撃を受ければ一巻の終わりなのだから、せめて回避力だけは身に付けなければならないと改めて心に誓う。


「そ、それよりも勇者。貴様の鈍器の様子がおかしいぞ?」


 女騎士に言われて勇太が自分のぶら下げているクギバットを見やったところ、何だかファンファンと虹色に輝くオーラを発しているではないか。


「ぎょ、クギバットさんどうしたんだ?!」

『…………』

「おい何とか言えよクギバット。さっきまで喋ってたろ?」


 返事がない、ただのクギバットの様だ。

 勇太は数度話しかけてみたが、揺さぶろうが振り回そうが何の反応も示してくれないのでガッカリした。


「何をひとりでブツブツ言ってるんだ」

「クギバットが口を利いてくれないんだ。こいつ肝心な時に無視を決め込むからな……」

「武器が口を利くわけがないだろう。いや、一応は出来の悪い勇者でも、勇者の持つ祝福された武器だからな。そういう事もあるかもしれん」


 妙な感心顔の女騎士の事は無視する様にして、何か言いたげにしている司祭アビの方を勇太は向いた。


「何かのステータス異常が発生しているかもしれません。先ほどの戦闘では思った以上にインプを倒したので、あるいは人狼の血に呪いでもかかっていたのか……」

「なるほど、それなら考えられるか。まずは確かめてみよう」

「はい、そうなさいませ勇者イナギシさま」

「ステータスオープン!」



 名前: 稲岸勇太 (勇者イナギシ)

 職業: 鈍器の勇者 レベルなし

 固有武器: レベル155鈍器 (成長加速のギフト付与) 

       ジョブチェンジが可能なレベルに到達しました。

 装備: リアクティブプレートアーマー(爆発反応胸甲)

     庶民の服、庶民のズボン、異世界の手ぬぐい

     虫ジュース

 固有技能: なし

 クエスト: グランドキャットウォーク村の果樹園を荒らすインプを十匹退治せよ。

       鈍器がレベルカンストしましたね。このままだと効率が悪いので、さっさとジョブチェンジしましょう。



「ジョブチェンジが可能なレベルに到達しました。こう書かれてる……」

「勇者イナギシさまがですか?」

「いや、武器が……」


 勇太は手に持ったクギバットを持ち上げしげしげと見やった。

 わずか数度の戦闘で、ジョブチェンジが可能なレベルまでいったんカンストしたという事か……

 彼にしか見えない石板の形をしたステータスウィンドウには、クギバットに成長加速のギフト付与と注釈が確かに書かれている。それにしてもレベルキャップ解放してから、あっというまのカンストである。


「クギバットってジョブだったのか……」

「さすが勇者イナギシさまです!」

「いや、さすがなのは女神の祝福を受けた鈍器の方で、勇者はレベル0だぞ?」


 うっとりした表情で勇太を称賛する司祭アビだが、その隣の女騎士は白けた顔をして突っ込みを入れた。


 それにしても、どんどんレベルアップしすぎだろ!

 勇太は心の中でそう叫んだ。

2017.1.27改稿

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