第10話 一度だけ致命傷を回避できる鎧
勇太たちのパーティーはひとつの掲示板を見上げていた。
せっかく冒険者ギルドに来たのだから、どの様なクエストがあるのか女騎士と司祭アビが教えてくれるのだ。
「まず初心者向けで受けられるクエストは、採取依頼なんてものがあるが、これは勇者向きのクエストではないな」
「そうですねえ、薬草採取では世直しが出来ません。世のためひとのため、勇者さまには魔族やモンスターたちと戦って、正々堂々これを射ち滅ぼしていただく必要があります」
女騎士と司祭アビが、互いに掲示板と睨めっこをしながら何やら勇太パーティー向けのクエストを探しはじめた。
お飾りかも知れないがパーティーリーダーという事になっている勇太は、文字が読めないので置いてけぼりの気分である。
「しかし、そうなるとこの辺りの討伐依頼か、あるいは護衛任務の依頼を受ける必要があるな。治安維持の関係もある、ここはひとつ討伐以来系を推したいところだ」
村の守衛官という役職を担っている女騎士クリントウエストヒップである。
さすがにこの界隈の治安状況に詳しいらしく、蚕棚の様にところせましと並べられた掲示板の一角を差して、彼女がそう言ったのだ。
「領外から流入する野良ゴブリンやインプはどうしようもない連中だからな。それに最近は人狼どもがうるさくてかなわん。連中を討伐するいい機会だ」
そこで新たなインプというフレーズに勇太が反応する。
「インプって、小さい悪魔というか妖精というか、そういうんだろ?」
「はい。インプは羽根の生えた悪い妖精ですね」
「じゃあ人狼は、さしずめヒト型の狼ってところだろうか。集団で人間に悪さをすとか?」
「さすが勇者イナギシさまは博識ですね」
「いやあそうかなあ? デュフフ」
元いた世界でMMORPGなどを経験した事がある勇太にしてみれば、インプや人狼は定番のモンスターなので彼の常識的に知っていた。
だからそれだけで簡単に褒められてしまうと困惑をしたが、人間は褒められて悪い気はしない生き物だ。
「世界の常識を褒められて浮かれているのではない」
「お、おう。そ、それじゃどのクエストを受けるんだ?」
「この村の外れにある果樹園で、インプどもがリンゴの木を狙って悪さをしているという案件がある。さしずめわたしたちは寄せ集めのパーティーだから、仲間の連携を確かめる意味でもこの辺りのモノが妥当だろう」
「じゃあそれにしましょうか、勇者イナギシさま。今のうちに任務の申込をしておきましょう」
張り付けられた掲示板のクエスト依頼書から、番号の振られた金属片を取った女騎士である。
どうやらそれをもって受付に向かえばクエストの申込が完了というわけだ。
◆
先ほどのキャパッチ族の猫面の猿人間にパーティーでのクエスト申請を済ませると、一行はその足で冒険者ギルドを出て目抜き通りへとやって来た。
冒険に出ると簡単に言っても、その前に済ませておくべき事はいくらでもある。
防具を購入しり旅具を一式整えたり、あるいは非常食なども必要だろう。
「魔王の復活を阻止し、この世界に恒久平和をもたらすのが勇者さまのお役目とは申されましても、現実問題としてわたくしたちのパーティーは出来たばかりです」
「そうだな、まずは先ほど話し合った通り爆発反応式胸甲を購入しようか」
女騎士は爆散する防具に並々ならぬこだわりがあるらしい。
グランドキャットウォークの村にひとつしかないという武具防具店にやって来た勇太たちは、さっそく店内に並んだ商品を物色しはじめた。
下町の金物屋といった感じの店内は、壁の棚に所狭しと甲冑が並べられ、中央のいくつかの棚に剣やら槍やらが並べられていた。
「防具はこちらだ。勇者は武器を持っているからいらないな」
『当然だ、浮気は許さん……』
「ではわたくしが護身用の短剣を購入しようかと……」
女騎士と司祭アビちゃんが、ここでも勇太を先導する様に店内を案内する。
アビが手ごろなサイズの短剣を選んでいるところで、勇太は隣に立って質問した。
「アビちゃんはパーティーでどんな役割をするんだ? クリントウエストヒップさんは女騎士だから盾役なんだろうけど」
「わたくしの専門は聖なる癒しの魔法です。勇者イナギシさまが負ったどんな擦り傷も、たちどころに癒して差し上げますよ」
ニッコリ微笑み小首を傾けて見せる褐色エルフ最高だぜ。
しかし勇太は「擦り傷しか直せないんだね」とは心の中で思ってしまった。もしかすると褐色長耳の司祭は、それほどレベルが高くないのかも知れない。
「勇者、こっちに来てくれ。この一角がリアクティブ式の胸甲が並んでいるところだ。どれでも好きなデザインを選んでくれ」
「どうしてもその、爆散する鎧じゃなきゃ駄目なのか?」
そうやって勇者が質問したところ、何を当たり前の質問をしてくるんだと女騎士が首を傾げた。
「爆発反応胸甲は最高だぞ?! もし鎧に致命的な攻撃を受けても、一回だけなら爆発して衝撃を吹き飛ばしてくれるからな」
「なるほどそれなら安心だ。だがあんたは騎士だから、鎧が爆散した後は全裸で戦う事になるじゃないか」
「むむっ、それもその通りだな……」
今度は勇太が呆れた顔をする番だ。
女騎士は大きな胸を抱き寄せる様にして考え込んでいる。ポンチョの下は未だに肌着もないままなので、隆起するふたつの山の形がクッキリ浮かび上がった。
いいね!
「下に予備の防具をするのはどうですかね。例えばこれみたいな、最小限だけは守れる防具があるじゃないですか」
勇太は店内の隅に吊られていたマイクロビキニみたいな鎧を差してそう言った。
ほんの思いつきだ。
マイクロビキニアーマーでいったい何が守れるのかわからないが、戦闘中に女騎士が全裸で戦うよりはマシかもしれない。
「なるほど貴様、賢いな!」
女騎士が腕組みを解くとばるんぼよんと豊かな胸が暴れた。
そうして手をポンと叩くと納得の表情でマイクロビキニアーマーを手にするのである。
「ふむ、属性ごとに色が違うのか、この白いものは防刃アーマーだな。よしこれにしよう」
「あーっ、わたくしも一緒に購入しましょう。下着を兼ねた防具というのがいいですねえ。わたしは何種類か色違いを揃えようと思います」
「わたしもそうするか。勇者は買わないのか?」
流れで自分自身も進められるとは思っていなかった勇太は困惑した。
男は隣のブーメンランパンツだったのである。
「いや、やめておく。普通のでいいよ……」
◆
「装備も大事ですが、戦いの前に体調は万全にしておかなければいけません」
「そうだな、腹が減っては治安維持もままならない」
「冒険者ギルドの依頼は明日から実行する事にしましょう。まずはわたしたちの親睦を深める事が肝要ですからね、お食事に行きましょう!」
無事に装備と旅荷を揃える事が出来た勇太の一行は、この村に唯一しかないという料理店へとやって来た。 宿屋が経営する酒場はいくつか存在しているらしいが、ここはレストランとして料理のみを専門としている本格派のお店らしい。
「勇者イナギシさま、今日一日お疲れ様でした。召喚されたばかりだというのに、バタバタとしてしまいましたが、これで明日から世界平和のために戦えます」
「うん、まだ不慣れで釈然としないものがるけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ、わたくしの召喚の儀式に応えてこの世界に来てくださった勇者イナギシさまのお役に立てると思うと、とても光栄です!」
異世界食に舌鼓を打ちながら、褐色エルフの微笑を眺めつつ酒杯を傾ける。
うまい!
けれども司祭アビが勇太の太鼓持ちをするのが辟易としてきたのだろう、女騎士は鼻を鳴らしてキツいバーボンを酒杯からひと息に飲み干すのだった。
「フン、せいぜいわたしやアビの足を引っ張らない事だな……」
耳ざとくその言葉に気付いた勇太は、こっそりと腹いせに女騎士のステータスを確認してやろうと思った。
女神によれば確か自分だけでなく、周辺の相手もステータスチェックができたはずだ。
それだけ大口を叩くのだから、さぞレベルが高いんだろう。
「ステータスオープン」
「どうした勇者?」
「い、いえ。何でもないです……」
勇太が確認した女騎士のステータスによればクリントウエストヒップのレベルは34だった。
この世界の人間がどれくらいの平均レベルかわからない。
試しに隣のアビにもステータス確認をしてみると、レベル7という数字が確認できた。
確かゴブリン相手に無双してたもんなと勇太は思った。
ホブゴブリン相手の時はかなり分が悪かったが、意外に強いのかもしれない?!
名前: クリントウエストヒップ ヒト族 21歳 独身
職業: 女騎士(グランドキャットウォーク村の守衛官) レベル34
武器: 伝家の長剣 (切れ味B)
装備: 爆発反応式胸甲 マイクロビキニアーマー白(下着兼用) ポンチョ
守衛官バッヂ
技能: 鑑定スキル ヘイトスキル
状態: 勇者イナギシPT ふつう
名前: アビ ダークエルフ族 16歳 独身
職業: 司祭(グランドキャットウォーク村の神官) レベル7
武器: 護身の短剣(切れ味D)
装備: 爆発反応式胸甲 マイクロビキニアーマー紫(下着兼用) 法衣
聖なる経典
技能: 聖なる癒しの魔法(ヒールレベル1) チャーム お説教
状態: 勇者イナギシPT 結婚願望あり
2017.1.26改稿




