第1話 順位
俺たちは部屋で、持ち運ばれた朝食を食べていた。
元の世界の朝食と似ていて、パンや卵のようなものがメインだった。
どれもこれも美味い。
素材がいいのか、シェフの腕がいいのか、それは知らない。
まあここが王城であれば、飯が美味いのも当然か。
国王の口に入るのだから。
「あの…なんかすいません」
少女は急に謝ってきた。
確かに、朝食を食べ始めてから全く会話がない。
しかし謝らなくてもいいではないか。
「名前…ないんだっけ?」
「…はい」
「ないっていうのは、覚えてないってこと?」
「……それも分かりません。そもそも私は誰なんでしょうね」
そんな顔されても困る。
なんともまあ変な境遇にある少女を引き取ってしまったようだ。
「…戦えるの?」
「いえ…冒険はしたことがなくて…戦闘もあまり得意ではありません」
「じゃあなんだったらできるの?」
「そ、それは…」
「あーわりぃ」
そんな悲しい顔をされるとこちらも謝りたくなる。
良い子なんだろうけど、お供としてはどうなんだろうか。
国王は厳選な試験で選ばれたって言ってたけど…。
「お供の…試験みたいなのは受けた?」
「はい。…こんな私でも、力になりたくて…ダメ元で受けてみました。手応えは全くなかったのに…なぜか合格してしまって……私よりすごい人が落ちたりして…」
試験監督の見る目がなかったのか…何かの手違いか…。
いや、何か秘めたるものがあるという可能性だってあるさ。
まだ出会って朝食しか食ってないんだ。
決めつけるのは早い。
「ごめんなさい。私みたいな人で……」
「まあまあ、そんなに落ち込むなって」
「なんなら今から国王に言って―――――――」
そのとき、突然視界に何かが表示された。
ビビッてパンを落としてしまったではないか。
その表示は、どうやら少女の視界にも出ているようだ。
『現在順位6位 0ポイント』
眼前に表示されたその文字は、やがて小さくなって、視界の上の方に移動した。
現在順位…?
「守様、これは…?」
「んー、たぶん勇者内での順位じゃないかな。俺って一応、勇者ナンバー6みたいだし」
ポイントを獲得すると、順位が上がるのかもしれない。
たぶん魔物を倒したり、レベルアップしたりするとポイントがもらえるとか…そういうことだろう。
そのとき、突然表示内容が切り替わった。
『現在順位7位 0ポイント』
順位が一つ下がったのだ。
つまり誰かがポイントを得て、1位になったということか。
「はやっ!」
「これって…既に誰かが魔物を狩り始めているということでしょうか?」
「んー、たぶんそうだろ。もう動き始めてるやつがいるんだな…」
確か勇者の数は30人で、5つの国から6人ずつ勇者が召喚されているはずだ。
だとすると今ポイントを取ったのは、別の国の勇者の可能性もある。
こことは勇者への待遇が違うことも考えられる。
「どうしましょう。早めに…ポイントを取った方がいいのでしょうか?」
「焦る必要はないと思うけどな。別に俺、至福の財に興味ねえし」
「そうですけど…私、本で読んだことがあるんです」
少女は俯き気味に言った。
「こういうことが何年も前にあって、そのとき、順位の低いチームにはペナルティが与えられるって…」
「ペナルティ?」
「はい。強い魔物が突然現れたり、突然病気に掛かったり…とにかく、そのペアが不利になるような状況に陥るとか…」
なぜだ?何のためにそんなことをするのだろう。
世界を救って欲しくて俺たちを召喚したのに、不利な状況に陥れる必要がどこにあるのだ?
「なんか、裏がありそうだな」
「はい……あっ、順位が…!」
言われてみてみると、順位は11位にまで落ちていた。
まだ半分以上だが、ぼさっとしていると一気に最下位になってしまいそうだ。
「その本の話は本当か?」
「信憑性は高いと思います…」
「戦いはもう始まってるってわけね…」
朝食を終え、城の外に出ると、そこは城下町だった。
人々でにぎわっている。
とても、30人も勇者が必要な状況には見えない…。
本当に世界を救う必要あるのか?
「お前、武器は持ってるのか?」
「あ、一応鉄の剣は持っています。守様は?」
「俺は持ってないけど、金がないから買えない。とりあえず魔物を倒してみよう」
「私が…ですか?」
「うーん、まあとりあえずそういうことだな」
不安なのか。
安心しろ、俺の方が何倍も不安だから。
城下町を出ると、そこは草原だった。
草原には人の姿がちらほらあったが、勇者のような者の姿はなかった。
すでに此処を離れている可能性もある。
すると、俺たちの元へ魔物が寄ってきた。
これは…スライムだ。
生で見る日が来るとは…。
「このくらいだったらいけるだろ?」
「が、頑張ります」
少女はスライムに剣を振り下ろした。
スライムは可愛らしい音を立てて、動かなくなり、ドロドロになった。
すると、視界にEXP1とPT1が表示された。
そして、順位が11位から10位に上がった。
「順位が上がった。やっぱり魔物を倒すとポイントが加算されるんだ。EXPはたぶん経験値で…これを貰うとレベルが上がるんだろう」
「な、なるほど」
続けて少女はスライムを倒していく。
少し続けていると8ポイントまで溜まり、順位は4位まで上がっていた。
そして、二人ともレベルは2になった。
「てか、お前もレベル1なんだな」
「はい…初めてです。レベル上がったの」
ステータスを確認してみると、攻撃が+1、防御が+2になっていた。
この辺はゲームと一緒だな。
「…守様は戦わないんですか?」
「そうだよな~俺も戦わなきゃまずいよな~」
とりあえずスキル欄を開いてみるが、特に何もない。
続いて魔法欄を見てみると、何やらいろいろ表示されていた。
<魔法>
バリ ヒール
バリ…ヒール…?
「バリ!」
とりあえず唱えてみたが、何も起こらない。
なんだこれ、どういうことだ?
バリの説明欄を見てみる。
<バリ>
対象の攻撃力を少しだけ上げる。
続いてヒール。
<ヒール>
対象の傷を少しだけ治す。
え?最強の護衛ってこういうことなの?