第0話 No.6
ここはどこだろう。
周りには…知らない奴が5人いる。
比較的若い男女が多い。
とにかく、どこだかわからない場所に俺は今いる。
「どうやら成功したようですね」
目の前には、メガネをかけた男がいた。
薄い紫色の髪で、見た目は秘書のような、優しそうな感じだ。
にこやかにこちらを見ている。
ふと目をやる場所を変えると、王様のような姿があった。
続いてあたりを見回す。
たぶんここは、城かどこかの謁見の間だろう。
「私はここラトランティカ王国の国王、ラトランティカ=アヴァン8世だ」
見た目のわりに渋くてはっきりとした口調をしている。
長い白髪が特徴的だ。
「あの…私たちは一体?」
俺と同じ状況にいる女が尋ねた。
国王は一つ咳払いをして見せた。
なんてわざとらしいんだ。
「あなた方は勇者です。今日から勇者となって、世界を救っていただきます」
ん?
国王の話をまとめるとこうだ。
最近、魔王が復活したらしい。
そこで神託に従い、異世界から勇者を30人召喚したようだ。
この時点で突っ込みどころがあるが、まあそれはいいだろう。
5つの国がそれぞれ6人ずつ勇者を召喚することになっているらしい。
魔王の復活により、今後この世界には8つの魔波が訪れることになっているようだ。
まあ要は、8回、魔物が大量に出現する時期があるということだろう。
魔波はいつ訪れるか分からないらしい。
8回の波の後、どうなるのかはまだ分からないらしい。
とにかく、俺たち勇者の役目は、8回の波を乗り切ること。
「俺たちにメリットがないと思うですよ」
一人が口を開いた。
その通りだな、利害が一致していないではないか。
これではタダ働きもいいところだ。
裁判でも起こしてやろうか。
「8回の波を超えた時点で、功績の高い者には、至福の財を与えることを約束しましょう」
なるほど、金か。
悪くはない、だが命懸けとなると考えようだな。
「それならいいだろう」
「ちょっと頑張ってみようかしら」
「割と楽しそうですよね」
「金のためなら…」
「正直ちょっと楽しみ」
おいおい、こいつらまじか。
なぜか至福の財の一言で、マインドコントロールされてしまったようだ。
俺は正直あまり乗り気じゃ…
「全員、引き受けてくれるようですな」
いや、俺まだ何も言ってないんですけど。
そ、そんな…察しろよみたいな顔しなくてもいいじゃないか。
こっちだって色々事情が……分かったやればいいんだろ。
まあ8回の波なんて意外とあっという間だろうし、勇者だから大丈夫だろう。
「では、旅のお供を選んでいただきます」
旅のお供…!?
「旅のお供はこちらの世界の者ですので、ご安心ください。何かわからないことがあれば教えてくれるでしょう」
そう言って、国王は側近に命じて正方形のボックスを取り出させた。
コンビニで引くクジみたいだな。
こういうところに金をかけないあたり、割と有能かな?
側近がボックスを持って近寄ってくる。
「ここに120枚の番号が書かれたカードが入っています。厳選な試験によって選ばれた120名のお供たちを、ランダムで選出することになります」
適性とか、そういうのはあんまり考えないのだな。
順番にボックスの中からくじを引いていく。
俺は順番的に最後だ。
まあ120枚も入っていれば、順番なんて関係ないか。
引くと、「11」の数字が書かれていた。
11番か…ん~ラッキーナンバーでも何でもないが、まあぞろ目だから良しとしよう。
「では明日、選ばれたお供をお連れしますので、今日は部屋で休まれてください」
「ちょっと待ってくれ」
一人が口を開いた。
ちょび髭を生やした…30代くらいの男だ。
「俺たちは勇者だと言ったが、何を基準に勇者と言っているんだ?」
言われてみれば確かにそうだ。
特段、勇者っぽい格好をしているわけでもないし、漲ってくるような感じもない。
「視界の右上のアイコンに意識を向けてみてください」
右上のアイコン…確かに、視界の右上に四角い何かがあった。
そこに意識を向けると、視界に何かが表示された。
名前:フクハラ マモル
Lv:1
攻撃:2
防御:25
素早:7
職業:勇者(No.6)
称号:最強の護衛
<魔法>
<スキル>
おっ、これはステータスという奴だろうか。
職業は勇者…称号は……最強の護衛?
護衛…?俺は護衛なのか?
なんだこの手応えのない称号は…。
ちょっと不安になって、他のやつらのステータスを横目で見ようとするが、うまいこと見えない。
「勇者様には唯一無二の称号とそれに見合ったスキルや魔法が与えられます」
「なるほど」
唯一無二の称号ねぇ~。
まあ唯一無二なら、いいか。
その日は個室で一日を過ごした。
城の外に出ることは許可されなかったが、部屋の中は十分に楽しめた。
ベッドもフカフカだった。
テレビはこの世界にはない。
食事に関していえば、元の世界とは比べ物にならないくらい美味かった。
そしてその日は、早めに寝た。
翌朝、俺は起きた。
洗面所で顔を洗い、髪形を整えた。
この辺は元の世界とさして変わらない。
朝食はどうすればいいんだろう。
そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされた。
「旅のお供をお連れしました」
「あ、どうぞ」
扉が開くと、そこには一人の少女と、ノック時に声を出したであろう男が立っていた。
身長は160に満たないくらい…年齢は高校生になりたてといった感じか?
これが…俺のお供?
男はすぐにその場から離れ、俺と少女の二人きりとなった。
「あ、あの…俺のお供…?」
「は、はい。よろしくお願いします」
苦笑いを浮かべて深々と頭を下げた。
いや、悪くはないのよ?
顔も抜群にかわいいし、スタイルもそれなりに良い。
キャラメル色の髪だって似合っている。
けどなんだろう、ちょっと頼りない。
「俺は勇者…の、福原守だ」
「お供させていただきます…えっと…名前は…ありません…」
ふぁっ!?
「名前、ないの?」
「は、はい。色々と…じ、事情がありまして…」
んー、なんだろう
とっても不安になってきたゾ。