第一村人発見
「へぇ~別の世界から来たんですかぁ!すごいですね!」
初めてこの世界に来て、出会った女の子は興味津々で俺の話に食いつく。
「そうなんだけど、自分でも信じられなくて…。ってか信じてくれるんですか?」
「ええ!もちろん!」
まさかそんな簡単に信じてくれるなんて、俺でもまだ疑っているというのに。
もしかして俺の登場の仕方ってこっちの世界では超格好良くて、超神秘的とか?
「あ~、もちろん信じるさ、あんな変な登場の仕方、おかしな格好。最初はとんだ変態だと思ったが中々の好青年だったしのう」
老人が笑いながら言う。どうやら普通に変態だと思われたらしい。それもそうか。
そして今の俺の服装はさっき服が破れてしまったので。代えで持ってきた、上着が青いジャージ。下がジーンズ。まったくもってこのファンタジーな世界に似つかわしくない服装だ。
「ところでこの馬車、どこ向かってるんですか…?って、あ、お二人の名前も聞いていいですか?」
俺は山賊を追い払った礼として老人と女の子の馬車に一緒に乗せてもらっている。老人は前で運転し、俺と女の子は馬車の荷台に腰を掛けている。
「私はタナレンって言います!」
「タナレンちゃん…」
タナレン、見た目はかわいくて、髪はセミロングで色は栗毛で、村にいる一番かわいい女の子って感じだ。
「ワシはノタロンじゃ。これからワシらの村に帰ろうとしとる。」
「ノタロンちゃん…」
「いや、そこでちゃん付けはおかしいじゃろ」
冷静に突っ込まれた。異世界住人のツッコミ一発目もらいました。
「どうぞ、私たちの村でゆっくりしていってください!」
タナレンは笑顔で俺に話しかけてくれる。めっちゃかわいい。よかった。人間のいる異世界に来て。
「あ、ありがとうございます。あ、俺の名前はサイトウ シンって言います」
「ほぉ~変わった名じゃな」
「あはは…、まぁこことは違う世界から来ましたんで…」
「シンさんの世界はどんなところなんですか?」
タナレンは目をキラキラさせながら俺に尋ねる
ん~なんと言おうか。おそらくこの世界に車はなさそうだし、テレビとかも…。というか電気があるのかすらこの雰囲気だと怪しいかも…。昔の中世ヨーロッパくらいの文明かな?
「そうですね…ええと…」
「お、ワシらの村が見えてきたぞ」
ノタロンが指を差す方向を見ると、ログハウスのような家が立ち並び、一つの集落のようになっているのが目に入った。
ほんとうに俺は異世界に来たのか。これを見たら信じざるを得ない。RPGで出てくる最初の村のような風景だ。
「す、すごい…」
「えへへ」
俺が感心して呟くとタナレンは嬉しそうな顔をする。かわいい。
馬車が村に近づいていくと共に俺は辺りの風景を観察する。村の周りには少しの林や草原があり、少し奥になると森や山が見える。
村の入り口を見ると馬車を待っていたであろう村人達が手を振っている。
「お~。無事だったか~。いや~良かった良かった」
村に着くと村人の一人がノタロンに話しかける。なんかこういう村の出迎えもRPGに出てきそう。
「まあの、途中、山賊に襲われたがなんとかなったわい」
その言葉に村人はえらく驚いた様子だ。この世界で山賊に襲われるのはどのくらいの事件なんだろうか。民度的なのも気になるな。
「な!山賊に襲われた!?どうやって切り抜けた!?山賊を退治したのか?」
「ああ、退治したよ、そこにいる青年がな」
ノタロンは俺に指を差す。俺は少しだけお辞儀するが、村人は俺の方を見て唖然とする。
「そ、それはすごいな…この方は傭兵か何かか?」
「まぁ、色々あってな、とりあえず荷物も降ろしたいし、話はまた後だ。ほれ、タナレン、シンにこの村を案内してやれ、荷物の整理はワシがしとくから」
「うん!」
タナレンは俺の手を引きながら馬車を降りる。タナレンの手はおれより少し小さく、柔らかい。ずっと繋いでいてほしい。
タナレンに連れられ、村の中央に行く
「ここが私たちの村、アスロン村です!」
タナレンは両手を広げ、嬉しそうな顔をする。彼女がこの村を好きだということを十分に伝わってくる。こんなかわいい村娘、オラ初めてだ。
「そしてここが鍛冶屋で、ミフカーさんが職人で頑張ってます!」
「へぇ~」
俺はタナレンに案内され、村にあるお店や出来事、この村の名所なども教えてくれた。ここの村の名所は「黄色の広場」と言われている所で、名前のとおり、黄色い花が沢山咲いている花畑があった。
とてもキレイで、ここで素敵な彼女と手作りお弁当を食べたいと感じた。彼女いないけど。
また、この花を街などで売って、村の収入を得ていたりしているそうだ。
村の案内が一通り終わると、タナレンは俺を小さい野原に連れて行き、座るよう促す。
「シンさんの世界はどんな所なんですか?」
ああ、そういえばまだ途中だったか。途中ってほど話てもないけど。
「そうですね、俺の世界は━」
俺は自分の世界である、地球の文明や社会、日常生活のことについて沢山話した。
飛行機という空飛ぶ乗り物があったり、車という馬より速い乗り物、テレビ、ゲーム、スマホ、パソコン…
俺がこれが地球の文明力だ!と思えるようなモノを片っ端から自慢も織り交ぜ、タナレンに説明していく。
タナレンはその都度、目をキラキラしながらうんうんと頷き俺の話を聞いてくれる。なんか地球の文明が自分のことのように誇らしく思えてくる。
「すごいです!そんな世界があるなんて!」
「それほどでも…」
「ところでシンさんはそこでどんな生活を過ごされてきたんですか?」
タナレンのその純粋な問いに俺は少し言葉が詰まった。俺は高校3年間、野球部だった。体力には自身があるほうだ。
しかし俺にはセンスがなく、万年補欠だった。ただ仲間はそんな俺にも対等な立場で接してくれた。
だけど俺にはそれが逆に辛く、自分が惨めに思えていた。結局俺は3年生の途中で部活をやめ、部活の仲間達が俺を見る目も、前とは違うようになっていた。
そして俺は自分自身を嫌いになった。今回のアメリカに旅行に行ったのだって、自分探しの旅と称して現実から目を背けたかっただけだからなのかもしれない。
「シンさん…?」
タナレンの声で我に返った。しかし次にでる言葉が浮かばない。
「あ、そ、そうだなぁ…ええと…」
言葉が出ない、しばらく嫌な沈黙が流れる
「私は、この村が好きなんです。」
察してくれたようにタナレンは話し出す。
「この空気、家、村の人たち、草、木、花、すべてが一つになってこの村があるんです。私はこの村を大切にしていきたいんです。」
「そうなんだね…」
タナレンは立ち上がり、俺の前に来る
「私はこの村のためならなんでもします!だからシンさんも嫌なことがあっても逃げずに頑張ってください!」
うおお、ストレートに来たな。そして勘が鋭い。でもこう強い意志を持った人を間近でみると勇気が湧いてくる気がする。
「あ、ありがとね。」
俺も立ち上がる。そしてポケットに手を入れるとスマホがあることに気づいた
「あ、ほら、これとかさっき言ったスマホだよ」
俺はポケットからスマホを取り出し、タナレンに見せるとタナレンは不思議そうな顔で慎重にスマホを眺める
「こ、これが例の…」
タナレンの純粋でかわいい反応にさっきまでの暗い考えが一気に吹き飛ぶ。
今はこの時を楽しもう。
俺の悪戯心がくすぐられ、タナレンの驚く反応が見たくなってきた。
いきなり画面つけたらどんな反応するかな、やってみよう。
俺はまじまじとスマホの暗い画面を見ているタナレンの前で画面を起動させ、背景画像を見せる
「きゃあ!絵が突然!」
タナレンはとても驚いてスマホから顔を離す。この反応。最高!
「すごいでしょ?」
「ほ、本当にすごいです…これは…!」
おめでとうスマホ、今の君はスマホ史上、最高の驚き方をされているよ
俺はさらに画面をスライドさせ、画面が指に反応させ動くことを紹介する
「ほら、こうやって指を動かしたら画面が…」
「すごい!すごい!すごいです!魔法よりすごい!ほんっっとーにすごいです!」
タナレンは拍手しながらスマホの画面を見つめている。かわいいなぁ。よかったあ、スマホ持って来て。
「ほーれほーれ」
俺がタナレンの前でスマホを操作して、タナレンの反応をみて面白がっていると、
「ターナお姉ちゃん何してるのー?」
声のするほうに振り返ると子供達が数人、集まっていた。村の子供達だろうか
そして一人の男の子が俺の方を見て首を傾げる
「このお兄ちゃんだれー?」
「このお兄ちゃんはねぇ、とてもすごくて天才なのよ!!」
タナレンはテンション高く子供達に答える。いやはや恥ずかしいな、そんなこと言ってもらえて。すごくて天才なのはスマホなんだけどね…
「あっ…」
そういえば俺の荷物の中にはアメリカの子供達に喜んでもらえるように色々な遊び道具持って来てたんだ!
この子達もきっと喜ぶはず!どれどれリュックの中身を漁ってみよう
「ん?」
リュックから出てきた最初の遊び道具は硬式の野球ボールだった。。
くそ、せっかく忘れかけてきたところだったのに。
俺は苛立ちを感じながら野球ボールを遠くに飛ばす。ボールは高く飛び、村の家の屋根に落ちる。
「あ…」
「あー!いけないんだー!」
や、やばい!来て早々村に迷惑を掛けちゃった!印象最悪だ!どうにかして…
「まぁまぁ、ボールは後で取りに行けばいいし、ね?」
タナレンが騒いでいる子供をおさめる。ありがとうタナレン
「き、気を取り直して!これをみろ!」
俺はリュックから車のラジコンを取り出し、子供達に見せる
子供達は目を丸くさせ、ラジコンに興味津々の様子だ。この感覚、クセになりそう。
「すげー!なにこれ!?」
「お兄ちゃんこれで何するの!?」
いいねーいいリアクションだ。君たち本当に驚かし甲斐があるよ。
さっそくこのラジコンを子供達の前で動かしてみよう
ブィーン!
車のラジコンを子供達の周りでくるくる走り回すと、ラジコンを目で追いながら大はしゃぎしている子や、追いかけようとラジコンの後ろで走り回ってる子など反応は上々だ。
「兄ちゃんすげー!」
「魔法使い!?お兄ちゃんサイキョーだね!」
「ふふ、まだあるぜ…見よ!」
俺はリュックから花火やら違う種類のラジコンやら人形などを取り出し、女の子達にはタナレンにヘアスプレーを渡し、ヘアスタイルを変えたり、人形で遊ばせたり、俺は男の子供達とラジコンや花火で遊んだり、
汗をかいた子供達にいいニオイの制汗スプレーを浴びせ盛り上がったりと楽しい時間をすごしていた。
「それで、お前らはリゲロを見て獲物があるにも関わらず逃げてきたのか…?」
森の中にある山賊の砦、山賊長ボッゴは獲物をみすみす逃がしてしまった山賊二人を正座させ、その行いを問いただしていた。
山賊二人はビクビクさせながら言葉にならない声でボッゴの話に頷いている
ボッゴは座っている椅子からゆっくりと立ち上がり、山賊二人を睨む
「で?お前ら、俺ら山賊で腑抜けがいた場合どうなるか知ってるよな?」
「は、はい…」
山賊の一人は潔く頷き、目を瞑る
もう一人の山賊は納得いかない顔をする
「し、しかし親分、あの状況なら…」
そう山賊の一人が声を荒げようとするとボッゴはそれを静止する
「落ち着け、無理もない、いきなり目の前にそんなやつが現れたら誰だって逃げるさ…」
「そ、そうなんです!」
ボッゴは山賊の一人の後ろに回り。肩に手を置く
「怖かったんだろ…?まだお前は若い、死にたくないのは無理もないさ…」
「そうなんです、仕方なかった…!」
ボッゴは顔を山賊の一人に近づける
「だがな…」
ボッゴは瞬時に腕で山賊の一人の首を挟み、勢いよく首を絞める
「山賊がっ!」
グッ
「あぐ!」
山賊の一人は必死にボッゴの腕を解こうとするがビクともしていない。隣ではもう一人の山賊が唖然とその光景を見ているだけだ。
「リゲロのフリしたっ!」
グッ
「人間にっ!」
グッ
「ビビッてっ!」
グ
首を絞められている山賊の意識は既にない。顔は変色している。
「獲物も捕らえずっ!」
グッ
「逃げただとっ!?」
グッ
ボキッ
鈍い音が鳴る。その音がどこから鳴るか、周りにいた山賊たちは既に知っていた。
ボッゴが手を離すと首を絞められた山賊は糸の切れた操り人形のように地面に倒れる。
ボッゴは立ち上がり、武器棚から戦斧を取り出すと、周りの山賊たちも次々と武器を取り出す。
一人正座している山賊は周りをキョロキョロさせながらボッゴに問う
「あ、あのどこに…?」
「俺たちボッゴ山賊団は変装した変態野郎如きに逃げ出した腰抜け山賊だと村の奴らに思われているだろうな」
「す、すいません…」
数十人いる山賊達は久々の戦闘からか不敵な笑みを浮かべている者、熱り立つ者など、皆、息巻いている。
山賊達の準備を確認したボッゴは山賊達を引き連れ、砦の門を開ける。
ボッゴは逃げた山賊を睥睨し、呟いた。
「案内しろ、その村を潰すぞ」