異世界
高校3年生の俺、斉藤 シン は、無事、志望していた大学にも合格し、高校生として最後の春休みを
アメリカに在住している叔父さんの元にぷちホームステイさせてもらっていた。
そんな中で俺は、叔父さんとその知り合いの陽気なアメリカ人のおっさんとで、おっさんの車で森の中に行き、
鹿の狩りに同行させてもらった。
「すげぇ、本物の銃だ…」
「かっこいいだろ?スティングライフルってんだ、俺の相棒だ。遠くまで飛ぶし、弾も沢山撃てて最高だぜ」
かっけぇ、やっぱ生で見ると迫力が違うな…。にしてもアメリカに来てそうそう鹿狩りって
アメリカっぽいなぁ、ん? アメリカっぽいか?
「ところで、シン、お前凄い荷物だなそれ」
叔父さんがおれのリュックの多きさを見て驚く。まあ無理もない、このあとおっさんの家に行って
ホームパーティをするからだ。子供達も多く来るらしく、俺は日本から持ってきた
お菓子やら花火やらラジコンやら…とにかく色々持ってきた。
「まぁ、この後行くパーティで子供達を喜ばせようと思ってさ」
「おお、そいつは感激だ。日本のお菓子は大好物…」
おっさんはそう言い掛けると、素早く銃を構える。構えた先を見ると草を食べている一匹の鹿が目に入った
「あ、鹿だ」
俺がそう呟くとおっさんは口に人差し指を当て、静かにするように促す。
そして一呼吸するとおっさんは銃の引き金を引く
ドン!
俺は銃の発砲音に少し体をびくついてしまう。結構迫力あるな、
こんなのを映画とかではバンバン撃つのか…
「よっしゃ!」
おっさんはガッツポーズをしている。銃の発砲音に気を取られてしまったが鹿のほうを見ると
先ほどまで草を食べていた鹿は地面に倒れていた。
なんかこういうのリアルで見ると悲しい気持ちになっちゃうかも…
「おい、ちょっと持っててくれ!」
おっさんが俺に背負っているリュックと銃を渡す
「えっ!あっ!ちょっ!」
いきなり銃を渡すとか正気か!結構重いし!しかもおっさんのリュックも超重い!
「引き金には絶対触るなよぉ~」
おっさんはニヤニヤしながら俺に忠告してくる。振りか?
しかし一発で鹿を仕留めるって凄いな、しかも着いて早々にいきなり…
「あのおっさんて何者?」
俺は叔父さんに聞く
「俺はCIAだ!これは秘密だぞ!」
おっさんに聞こえてしまったのかおっさん自身が答える
「えっ!?」
CCCC、CIA!?まじかよ!
「ああ、表は普通の会社員、しかし裏ではCIAと言い張る普通の会社員さ…」
叔父さんが呟く、ま…まじかよCIAかよあのおっさん…表は普通の会社員で、
裏ではCIAと言い張る普通の会社員… … ん? 裏ではCIAと言い張る普通の会社員…?
「ってただの会社員じゃねぇか!」
「ガハハハ!その通り!」
「お前も騙されやすいなぁ~」
叔父さんとおっさんにまんまとしてやられた。これがアメリカンジョークという奴か。ファ○ク!
「にしても結構デカイんじゃないか?その鹿」
叔父さんとおっさんは鹿の元にいく、俺も行こうとするが、
俺が背負ってるリュックと、おっさんのリュックと銃とで二人より遅れてしまう、
だってすごく重いんだもん…
「はぁ」
俺は下を向いてため息をつき、叔父さん達のところに向かおうと前を見る
「えっ?」
突然辺りが真っ暗になっていることに気づいた。おかしい、なんだこれ。一体なにが起こってるんだ?
さっきまで森にいたはずだ。しかし目の前に広がるは暗闇だけ。夢…?鹿狩りは夢で
今、夜中に起きて寝室が暗いだけか?
いや、それはありえない。なぜなら俺の手にはおっさんから預かったライフルとリュックがあるし、
背中にはパーティのために色々詰め込んだ俺のリュックがある、つまりここは…
「異空間…?」
いやいやありえない、そんなことがあるならNASAが公表してたりするはずだし、
第一俺がそんなことに巻き込まれるはずもない。いや、現に謎の現象に巻き込まれているわけだが。
グン
「うお!?」
暗闇の中で何かに体ごと引き込まれる感覚がになる。引力的な何かが俺を引き込む感じ。
しかもこれだんだんスピード上がってきてねぇか!?
どんどん引き込まれる速度が上がっていく、目も開けられない速度になった瞬間、閉じた目から
微かに光を感じた。すこしだけ目をこじ開けると暗闇の向こうから光が漏れ出しているのに気づいた。
よ、良かった。これはなにか金縛りとかの幻覚だったのかな?
周りが光包まれるのを感じる。引き込まれる感覚もなくなり、目も開けられるようになったので
目を開けてみる
「え…?」
そこは神殿のような場所だった。しかし人の痕跡は薄れ、壁などにはコケやツルが張っている。
ブロック状の岩が積まれてできた壁、床で、ゲームとかである森の中にある神殿のような風貌だ。
さっきまでいた森とは大分違う場所になってる。しかも叔父さんとおっさんはいない。
ええと、これは…おっさんの壮大なアメリカンジョークだよな…?
いやぁ~やっぱり外人のやることはスケールがでけえなぁ~。
映画とかでもCG凄いけど実写でここまでやってくれるなんてマジで…
「なわけねえだろ!」
一人でボケて一人でノリツッコミ。大丈夫だ。まだ慌てる時間じゃあない。
とりあえず、この場所から抜け出さないと。ふと前を見ると台座にゴブレットが置かれていた
近づいてみる。台座にはよく分からない文字が書かれており、ゴブレットの中には水…?
のようなモノが満たされている。
「ゴクリ…」
そういえば喉が渇いてきたな…。こんな重い荷物持って疲れたし、
このゴブレットに入ってる水でも飲むか…
喉がカラカラの俺はゴブレットを手に取り、中に入っている水を飲む。
「ぷはぁ~!」
めっちゃ美味い。こんなおいしい水初めてだ。いや~最近のお水はすごいねぇ~。
とりあえずゴブレットを台座に戻すか。
コトン
ん…あれ…?なんで俺…今、当たり前のように水を飲んだんだ…?ってか水か…?
いや、味はなかったし水なんだろうけど…にしても知らない場所で普通飲むか…?
でもさっきはなぜか異様に喉が渇いてて…
ああ、もう過ぎた事だ。俺は平気で知らない場所に置かれた水を飲んじまう不潔野郎ってことにしておこう。
「フフ…」
ん?なにか笑い声が…聞こえた気が…?気のせいか…?
辺りを見回すが何もない。ただの幻聴か…。無理もないよな。よく考えたら俺、今知らないところにいきなりいるんだもんな… …あ…、そうだった!そういえばここどこだよ!あと叔父さん達どこだよ!!すっかり忘れてた!
ピカッ!
あたりが光りに包まれる
「うわっ!?今度はなんだ!?」
気がつくと俺は落ちていた。空から地上に掛けて
「うおおおおおお!?」
初めてのスカイダイビング、背中にあるのはパラシュートではなく、ただの重いリュックサック。
やったぜ、世界初じゃね?こんなことになってるの。スカイダイビング自殺って命名しとくね!
って、くそ!どうなってんだよ!スカイダイビング自殺じゃねえよ!なんで今度は天高くから落ちてんだよ!
地上を見ると広大な森が広がっていた。遠くをみると大きな城が見えた。
森はあきらかにさっきまでいたアメリカの森とは違っているのが分かった。
つまりここもまた俺の知らない土地ってわけだ。
背中のリュックのフックがはずれ、中から死神のお面が飛び出す。子供達を驚かせようと持ってきたパーティーグッズだ。
「死にたくなああああああい!」
ちくしょおおお!こんな意味不明な死に方なんてしたくねぇよ!どうすりゃいいんだよ!地面まであと少しだぞ!
ポワン
なっ!急に体が軽くなった?しかもなんかポワポワゆっくり降下していってる?このまま地面まで行けば助かるぞ!にしてもこの感じはなんなんだ?まるでシャボン玉に乗ってるような感覚だ…。乗ったことねえけど。
おっ!地面に着地するぞ!
そう思った瞬間軽くなった感覚がなくなり、地面から高さ3Mほどの高さから落下する
「最後までじゃないのねぇ!」
しかし3Mくらいの高さなら受身を取れば…
ファサ…
顔になにかが覆い被さり、周りが真っ暗になった。次はなんだよ、ってかこれじゃあ上手く受身取れねえじゃねえか!
ドゴ!
痛い、なにかが顔に覆いかぶさったせいでやっぱり受身とれなかった。しかも視界は最悪で何も見えない。それどころかこれ、なんか坂道を転がっていってねえか?
「はやく積荷を渡しやがれ!」
「あとそこの娘もな!」
山賊二人が積荷を運んでいる馬車を止め、乗っている老人と女の子を脅している
「ま、孫だけは…!」
老人は孫である女の子を庇い、必死に訴えかける。
しかし山賊たちは刃物を老人に向けながら笑う
「ギャハハハ!むしろ積荷よりあんたのそのカワイイ孫と楽しみたいぜ!」
「お、お願いします!助けてください…!」
女の子が山賊達に涙ながらに嘆願するが山賊たちはただ笑うだけだ。
一人の山賊が老人の首に刃物を近づける。
「もう、殺しちゃって積荷も娘もさっさと頂いちゃおうぜ」
「そうだな」
その言葉を聞いた瞬間、老人と若い娘は震慄する。
「じゃあなじいさん。あの世で孫の運命を見守っててくれや」
山賊が老人の首目掛けて刃物を突き刺そうとするその瞬間、後ろにある小さい高台から何かが聞こえ、
その音が近づいてくることに山賊は気づく
「うおおおおおおおお!」
あきらかに聞こえるそれに山賊たちは後ろに振り向く。
ドササーッ!
小さい高台から死神のお面を被った上半身裸の男が転がりながら勢いよく現れる。
死神の仮面を被ったその男は上手く受身をとり、ゆっくりと立ち上がり、山賊たちのほうを見る
その光景に老人達はおろか、山賊たちも唖然とする。
しばらく沈黙がながれ、山賊たちは略奪行為も忘れ、その死神のお面を被った男を見る。
痛つつ…上手く着地できたはいいが、転がりまくって服が破れて半裸になっちゃった…。
しかも顔に何か覆いかぶさったままだし、ってこれたぶん、さっきリュックから飛んでった
俺の死神のお面だよな…。傍から見たら俺、半裸でお面被って相当の変態じゃねえか。
さっさとこのお面剥いで… …ってやべえ転がりすぎて気持ち悪くなってきた。吐きそう…
すこしでも動いたら吐きそうだ…。やべぇ…この体制を維持…き、きもちわりぃ…
しばらく老人、女の子、山賊たちと死神のお面のシンとの睨み合いが続く。
山賊たちは慎重に、ゆっくりと体制を整えながら死神のお面を被ったシンとの沈黙のやりとりが行われている。
と勘違いしているだけでシンはただ吐き気を我慢してジッとしているだけである。
「ど、どうする…?こ、こいつ…?」
「し、しらねぇよ…!ってかこいつ何モンなんだよ…?」
山賊たちは小声で作戦を立てている。
するとシンの体は小刻みに震えだし、その様子に山賊たちは怯える
「な、なにをする気だ…?」
「や、やべえって…あ、ありゃ本物のルゲロ(死神)だ!」
ああ、もうだめだ。吐くわ。吐いちゃうわ。知らない土地で吐いちゃうけど許してね、母なる大地。
今の姿はどうみても変態だけど中身はめっちゃ紳士ですから。ほんともう…
「うげぇええ!」
突然吐き出したその姿に山賊たちは戦慄し、その場から一目散に逃げ去る
「ぎゃああああ!」
「逃げろぉおおお!」
山賊たちがいなくなった事に本来、老人達は安堵するところだが、今はそれどころではない。
なぜなら目の前にゲロを突然はいた死神がいるからだ。
老人は孫である女の子を庇いながら震える
「はぁはぁ…これで気持ち悪さは収まった…ってマスク着けたまま吐いたから顔にゲロかかりまくったわ!」
俺は怒りながらマスクを剥ぎ、地面にぶん投げると目の前に老人と女の子がいた。
あのー、つまり、これって完全に俺はこの二人からゲロを吐いた変態だと思われてるよね?
やばくない?弁解の余地なくない?半裸だし、なんかお面被ってたし、しかもゲロ吐いてたの見られたし
いや、こういうときは堂々と行くのが肝心なんだ。そうだ、日常会話風に切り出そう
「いや~どうも~。今日は良い天気で…ウォロロロロロ!」
また吐いちゃった。