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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第3部

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第八章 《悪竜》と《妖星》のダンス⑤

『……ほほう。随分と強気に出たの。コウタ』



 リノは《水妖星》の中で「ふふっ」と笑った。

 それから、処刑刀を構える《ディノス》をまじまじと見やる。

 神話の中の最強の怪物、《悪竜》を彷彿させる黒き竜装の鎧機兵。

 確かにその鎧装は見事なモノだが、彼女の操る《水妖星》と《ディノス》では性能差が歴然だった。正直なところ比較にさえもならない。

 それでもなお『最強』を謳うとは、あの少年は思いのほか負けず嫌いのようだ。



(じゃが、それぐらいの覇気がなくてはの)



 リノは操縦棍をグッと握りしめて、双眸を細めた。

 負けず嫌いは大いに結構。彼女の望みを叶えるためにも、彼にはそれぐらい勝利には貪欲になってもらわなくては困る。


 しかし、時には敗北も必要なのも事実だ。

 一度折れた骨は、より強く再生するとも聞く。

 だからこそ、あえてここで彼を叩いておくのも必然なことかもしれない。



(これもわらわのコウタを鍛えるためか)



 そう決断し、リノは愛機をゆらりゆらりと空中で漂わせた。

 まるで巨大なサメが獲物を見定めるように《水妖星》は《ディノス》を睨み据える。

 そしてその怪物の主人たるリノはふふんと鼻を鳴らし、



『その見かけ倒しの機体で、よく言ったものじゃ』



 と、少しばかり辛辣に挑発する。

 コウタをより発奮させ、全力を引きだすためだ。

 だが、《ディノス》から返ってきたのは予想外の言葉――いや、声だった。



『見かけ倒しとは言ってくれますね。ニセネコ女』


『……なに?』



 リノは眉根を寄せた。

 返ってきたのは明らかに女の声。聞き覚えのない声だった。

 が、困惑するのも束の間で、



(……もう一人乗っておったのか)



 リノは即座にそう悟ると同時に、ぶすっと頬を膨らませた。

 二種類の声。それが意味することはコウタが今、あの狭い機体の中で女と二人乗りしていることだった。正直あまり面白くない。



『お主は何者じゃ? わらわのコウタ(・・・・・・・)の傍で何をしておる?』



 そして不機嫌ながらも、情報を引き出そうとするリノ。

 対し、《ディノス》に乗る少女――メルティアはムッとした声で返した。

 言うに事欠き、コウタを所有物呼ばわりか。



『私ですか? 数時間前ほどに少しだけ会ったでしょう』


『……会ったとな?』



 リノは《水妖星》の中で眉をしかめた。

 そして記憶を探る……必要もなく思い出す。



『ああ、なるほど。あの時のギンネコ娘か』



 高台の公園にいた紫銀の髪の少女。コウタとやけに親密そうにしていたので記憶に強く残っている。が、リノにとってはそれだけの女だ。



『ふん。見た所、お主は戦士ではなかろう。こんな場所で何をしておるのじゃ?』



 と、リノが尋ねる。

 すると、メルティアはおもむろに口を開き、



『私はどこにいても私の勝手でしょう。いえ、違いますね』



 そこで一拍置くと、メルティアはぎゅうと両腕に力を込めて、コウタの背中に自分の身体を寄せる。背中で押し潰される柔らかな双丘に、少年が激しく動揺するのはこの際、完全に無視して、



『私は常にコウタの傍に居るんです』



 と、臆することなく宣言する。

 その台詞に、リノの額に青筋が浮かんだ。

 自分がどれほど望んでも中々出来ないことを、堂々と告げてくるか。

 メルティアはさらに畳みかけた。



『あなたこそ《九妖星》の一人が私のコウタ(・・・・・)に近付いて何をする気なのですか』


『………ほほう』



 質問には答えず、リノは紫色の瞳をすうっと細めた。

 その上、『私のコウタ』と来たか。

 リノは冷たい殺意めいたものを抱いた。どうやら初見であのギンネコ娘を『敵』と見なしたのは、我ながら慧眼だったようだ。

 そして《ディノス》と《水妖星》の間に沈黙が降りる。



『あ、あのさ、二人とも』



 と、そこでずっと沈黙――実際は二人の迫力に圧されて一言も出せなかった――していたコウタが初めて口を開いた。



『良く分からないけど、少し落ち着いてさ――』


『コウタ。早速あのニセネコ女をぶちのめしましょう』


『コウタ。すまぬが、そのギンネコ娘ごとぶちのめさせてもらうからの』



 しかし、コウタの声は二人の少女に一切届かなかった。

 二人揃って途轍もなく殺気立っている。メルティアなどコウタの腹筋にしがみつき、爪を立てているぐらいだ。



『え、えっと……』



 困惑するコウタだが、もう二人とも何も語らない。

 特にリノの方は、完全に戦闘モードに移行している。

 もはや言葉は不要といった緊迫した気配を放っていた。少しは説得しようと考えていたのだが、呑気に構えている内にその機会さえも失ったようだ。

 二人の少女の有無を言わせない圧力に、コウタは小さく嘆息した。


 結局、戦うしか道がないということか。



(けど、それなら……)



 コウタは表情を引き締め、《水妖星》を見据えた。

 かの《九妖星》の一機。戦闘方法こそ異質だが、恐らくこの機体のポテンシャルは、あの《金妖星》にも劣らないだろう。

 ならば、《ディノス》も切り札を以て挑むしかなかった。



「それじゃあメル。いよいよだよ」


「……はい。存分に」



 と、メルティアが静かな声で応える。

 同時に、すっと処刑刀の切っ先を下ろした。

 その様子を見やり、リノが訝しげに眉根を寄せた。



『何じゃ? コウタよ。戦意喪失かの?』



 と、尋ねる菫色の髪の少女に、



『いや、違うよ。ああ、そうだリノ』



 コウタはふっと少し口角を崩して答える。



『君は一つ勘違いしているよ。ラゴウ=ホオヅキがボクにくれた二つ名。まあ、酷く悪役っぽいあの名前だけど、それは別にボクにだけ送られた訳じゃない。むしろ、この《ディノ=バロウス》の姿に対して送られたモノなんだよ』


『……なんじゃと?』



 リノはますます眉根を寄せた。

 確かに眼前の竜装の鎧機兵には目を惹くような美しさはある。

 しかし、それだけであのラゴウが二つ名を贈るとは考えられなかった。

 実力を伴わない見かけだけの存在など、あの男が一番嫌うモノだ。



『どういうことじゃ? コウタよ』



 リノは少年に素直に問うた。

 すると、コウタは《ディノス》の中で苦笑を浮かべて――。



『まあ、要するに、こういうことなんだけど』



 そしてそう告げた途端、


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!


 いきなり《ディノス》が雄たけびを上げた。

 大きく目を瞠るリノ。が、数秒もしない内に彼女の表情は驚愕に変わった。



『な、なんじゃとッ!?』



 突然、《ディノス》の黒い鎧の隙間から赤い炎が噴き出したのだ。

 燃え盛る炎は、瞬く間に竜装の機体のほぼ全身を覆った。

 赤い炎は月下の渓谷を煌々と照らす。

 その姿は、まるで黒い鎧を纏った炎の魔人のようだ。



『な、なんじゃこれは……』



 流石にリノも動揺を隠せなかった。

 一瞬何かの異常かと考えたが、炎に包まれた機体は、悠然と処刑刀を横に薙いで戦意を見せている。その佇まいに一切の異常はない。

 だが、それだけでは情報不足だ。続けて、リノは《万天図》を起動し――そこに記された恒力値に息を呑んだ。



(こ、恒力値が、七万二千ジンじゃと!?)



 思わず我が目を疑う。いきなり十倍以上に出力が跳ね上がったのだ。

 もはや言葉もなかった。

 そして赤い炎を撒き散らし、悪竜の騎士はズシンと地を踏みしめる。


 ――『海』に漂う《水妖星》と、『炎』に覆われた《ディノ=バロウス》。


 ある意味よく似た能力を持つ機体同士は対峙した。



『さあ、今度こそ』



 訪れたわずかな沈黙の後。

 真の姿と成った《ディノ=バロウス》の中で、コウタは目を細めて告げる。



『真っ向勝負といこうか。《水妖星》リノ=エヴァンシード』

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