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悪竜の騎士とゴーレム姫【第16部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第3部

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第七章 救出作戦②

「……ひっく。コウタのばかあ……」



 少女の泣き声が部屋に響く。

 そこは魔窟館の四階。メルティアの寝室だ。

 天蓋付きの大きな丸いベッドの端では、部屋の主人たるメルティアが枕を抱きかかえた状態で、帰宅してからずっと嗚咽を上げていた。周囲には心配そうな様子のアイリと、零号を筆頭にした数機のゴーレム達がいる。



「あ、あんまりです……」



 ぐすん、とメルティアが鼻を鳴らす。

 まさかあんな光景を見せられるとは想定もしていなかった。



「……コウタのばかあ……」



 メルティアは横に倒れると、ぼふんと枕に顔をツッコみ、再び少年に文句を言った。が、すぐに不機嫌顔で頭を上げる。瞳を覆ってしまうと、嫌でも脳裏にあのシーンばかりが再現されるからだ。



「…………うぅ」



 メルティアは再び上半身を上げると、ギュッと枕を掴んで呻く。

 そして数時間前の公園で出会った女の子を思い浮かべる。

 いきなり現れ、コウタを呼び捨てにし、キスまでしていった女。


 一体あの女は何者だったのだろうか。

 クラスでは見たことはない。初めて見る女だった。コウタの様子を見る限り、あの女を知っているようだった。どこであんな女と出会ったのだろうか。


 メルティアは、むうと頬を膨らませた。

 そんな嫉妬混じりの疑問が、ずっと頭から離れない。



「…………ううぅ、コウタぁ」



 ベッドの端に座ったまま、再び枕に顔を埋めるメルティア。

 と、その時だった。

 不意にコンコンと寝室のドアがノックされたのだ。

 メルティア、そしてアイリとゴーレム達も視線をドアに向けた。

 こんな時間に誰だろうか? コウタは恐らく今日は来ない。ならば可能性としては執事長のラックスか、それとも父であるアベルだろうか?


 と、悩んでいる内にアイリがドアに向かった。



「……私が開けるね」



 そう言って少女はドアを開ける。

 そして軽く目を瞠った。



「……コウタ?」


「あ、うん。こんばんは、アイリ」



 と挨拶して、笑みを見せる来客はコウタだった。

 彼を門前払いしてから、まだ一時間も経っていない。まさかこんなにも早く再び訪れてくるとは思ってもいなかった。



「……どうしたの?」



 と、アイリが尋ねると、コウタは真剣な表情を浮かべた。

 それから意を決したように言葉を放つ。



「実はメルに用があるんだ。少しいいかな?」


「…………」



 アイリはコウタを見上げて、じいっと少年を観察した。

 彼の顔はとても真剣だった。一時間前も真剣ではあったが、その時とは少し違う。何と言うか、覚悟のような意志が加わったような感じだ。


 アイリは少し考えてから「……いいよ」と了承した。



「ありがとう、アイリ」



 コウタは少女に礼を言うと寝室に入った。

 そして少年は真直ぐベッドの端に座る部屋の主人の元へ向かう。

 対するメルティアは、その状況に目を丸くした。



「コ、コウタ……?」



 メルティアは困惑した表情を見せる。アイリが、あっさりコウタを通したことにも驚いたが、コウタの顔つきが普段と大分違っていたからだ。

 眉根を寄せるメルティア。

 と、そうしている内に、コウタは彼女の前に立った。



「………メル」



 少年が彼女の名を呼ぶ。

 続けて、すっと右手をメルティアの肩に当てる。

 コウタの体は何故か緊張しており、少しだけ震えていた。



「え、コ、コウタ……?」



 メルティアはいきなりのことに少し動揺する。

 一方、コウタは手で彼女の肩に触れたまま、ちらちらとアイリとゴーレム達、そしてメルティア本人を見て目を泳がせていたが、



「……よ、よし」



 小さくそう呟くと、覚悟を決めた。

 それから一度だけ大きく息を吐きだすと、メルティアの肩をしっかりと両手で掴み、ゆっくりと顔を近付ける。



「え、え?」



 メルティアは困惑した。そして温かい感触が彼女の額に触れた。

 当人であるメルティアは大きく目を見開き、アイリとゴーレム達は「……おお」「……コウタガヤッタ!」と驚きの声を上げている。



「……あ……」



 一瞬遅れてメルティアは、自分の額に『キス』をされたことを理解した。

 カアアアァと頬が熱くなる。全身が一気に硬直した。

 鼓動が激しく高鳴っている。



「……今日は本当にごめん、メル」



 そう言って、コウタはメルティアの頬から手を離した。

 彼女の顔はすでに真っ赤だった。



「一応、約束だからね。そ、その、し、親愛の証だよ」



 と、コウタは気恥ずかしげに笑う。それから少年はそそくさと立ち上がると、額を両手で押さえて未だ呆然とするメルティアをよそに、「そ、それじゃあボク用事があるから!」と言って寝室から早足で去って行った。


 メルティアはもちろん、アイリやゴーレム達も困惑していた。

 が、しばらくして、まずアイリがクスリと笑った。



「……良かったね、メルティア」



 小さなメイドは、トコトコとメルティアの元まで近付いて言う。



「……まさか、コウタがこんな力技をするなんて思わなかった」



 演劇などでは浮気のばれた男が、激怒する女の唇を強引に奪って黙らせるという定番のシーンがあるが、今回の行為はそれに近かった。まあ、根本的には何一つ解決していないのだが、結局相手の男が好きならば、案外それで誤魔化せる場合もある。


 あの奥手なコウタにしては不自然なぐらい大胆な手段ではあるが、ともあれ、これでメルティアの機嫌は一気に改善するだろう。


 アイリはホッとした表情を浮かべるが、メルティアの様子は少しおかしかった。

 最初は顔を真っ赤にしていたが、時間が経つにつれて青ざめていくのだ。



「……どうしたのメルティア?」



 流石に訝しんだアイリが声をかけると、そこでようやくメルティアは硬直状態から完全に再起動した。

 そして慌ててベッドから立ち上がると、



「零号! 零号はいますか!」



 最も頼りにしている最古のゴーレムの名を呼ぶ。

 すると、部屋にいた零号が手を上げ、



「……ココニイル。メルサマ」



 と、自分の存在をアピールする。メルティアは緊張した面持ちで金の冠を掲げるゴーレム隊の隊長機を見やると、



「急ぎ全機を集めて下さい!」


「……メ、メルティア?」



 いきなりそんな指示を出すメルティアに、アイリは眉根を寄せた。

 それには構わず、メルティアは言葉を続ける。



「コウタがこんなことをするなんて、只事ではありません!」



 メルティアは正確にコウタの心情を見抜いていた。

 コウタ自身は約束を果たしたつもりなのかもしれないが、伊達に幼馴染をしている訳ではない。彼が何かを覚悟していることなど一目瞭然だった。


 簡潔に言ってしまえば、やり残したことを(・・・・・・・・果たさなけれ(・・・・・・)ばならない(・・・・・・)と思うほどの事件が彼の身に起きているのだ。だからこそコウタはこの部屋に来た。


 しかし、あれではまるで今生の別れのキスである。

 された方としては心配で堪ったものではない。

 メルティアは切迫した声で零号とゴーレム達に命令を下す。



「零号! すぐにコウタの後を追います! ゴーレム隊に出陣を!」

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