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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第15部

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エピローグ

 翡翠の宝珠の異界。

 リーゼと共にそこへと訪れたコウタは、早速彼女を寝室の一つに運んだ。

 リーゼは変わらず額に玉のような汗をかいている。

 コウタは彼女をベッドの上に横たわらせた。


「……ん、あ」


 リーゼが辛そうに吐息を零す。

 ずっと息は荒いままだった。


「……リーゼ」


 コウタは汗を一度ハンカチで拭うが、すぐに滲んでくる。

 リーゼは胸元を握りしめて「……熱い……」と呻いた。

 コウタは少し躊躇いつつも、


「……ごめん。リーゼ」


 彼女の胸元を少し開いた。

 白い肌が露になるが、そこにも汗は滲んでいた。

 コウタは「ごめん」と告げつつ、リーゼの汗を拭う。

 それから、修練場に向かった。

 そこには熱冷まし系の薬もある。

 ここでは戦闘訓練もしていたので薬の類は揃えていた。

 薬を確保すると、次は浴場に向かった。

 浴場には清潔なタオルも、冷えた水もある。

 ここのことはよく知っているので、タオルはすぐに見つかった。

 数枚のタオルを片手に、桶に水を入れて運んでいく。

 リーゼの元に戻ると、ベッドの傍にあった丸テーブルの上に桶を置いた。

 テーブルの上には、水差しとコップもあることに気付く。


「この発熱は副反応って話だったっけ」


 だったら、熱冷ましを使っても問題ないはずだ。

 それにリーゼの発熱はかなり高くなっていた。

 脱水状態も気になるが、一度、体温を下げなければ危ないかもしれない。


「よし」


 コウタは熱冷ましの錠剤を取り出した。次いでコップに水を注ぐと、椅子に座ってベッドの上の彼女の上半身を軽く起こした。


「リーゼ。これを含んで」


 そう告げて、彼女の唇の間に錠剤を当てるが、呑み込んでくれない。

 呑む体力がないのではなく、苦悶でそれどころではない状態のようだ。


(どうしよう……)


 コウタは眉根を寄せた。

 熱冷ましは服用した方がいい。

 コウタは、じっとリーゼの顔を見つめた。

 特にその桜色の唇を――。


(……ええい)


 コウタはブンブンとかぶりを振った。

 情けない。

 今はリーゼの危機なのだ。

 邪念や雑念は一切捨てないと。

 それが出来ないのなれば、最初からリッカに託せばよかったのだ。


「ごめん、リーゼ」


 今日において何度目か分からない謝罪を告げる。

 そして、コウタは錠剤と共に水を自分の口の中に含んだ。

 それからリーゼを強く抱き上げて、唇同士を重ねた。

 リーゼは抵抗するように身じろぎしたが、ここは強引に抱き寄せる。

 錠剤が彼女の口の中に移り、それが水によって押し流される。


 ――ごくんっと。

 リーゼの喉が動いた。


 唇を離すと、リーゼは苦しそうに息を吐き出した。


「……ごめんよ。リーゼ」


 コウタは、彼女の額の汗を手で拭った。

 思い返せば、彼女はいつも辛い目に遭っている。

 アティス王国では危うく命を奪われるところだった。

 それに加えて今回の一件だ。


 ――どうしてリーゼばかりが……。

 正直、コウタとしては、はらわたが煮えくり返る想いだった。

 本当は、このまま強く抱きしめていたい気持ちだが、それでは彼女を苦しめるだけだ。


 コウタは、リーゼをベッドの上で横にする。

 それからタオルを水で絞り、彼女の汗を拭う。


 リーゼはずっとうなされていた。

 けれど、そうやって一時間ほど経った時。

 リーゼの汗も大分引いて、呼吸も落ち着き始めていた。

 そろそろ安定してきたようだ。

 少し穏やかになったリーゼの寝顔に目をやりつつ、コウタはホッとする。

 コウタは立ち上がり、桶に手をやった。

 水も大分温くなっている。新しいのに変え時だろう。


(よいしょ)


 桶を持って歩き出したその時だった。

 ――ザン、と。

 不意に、背後から音が聞こえた。

 コウタが訝し気に振り返ると、


「え?」


 目を丸くする。

 そこには黒い斧剣が床に突き刺さっていたのだ。

 ――断界の剣(ワールドリッパ―)である。


「え? なんで?」


 どうしてこの剣がこんな場所にあるのか。


(あ、そういえば)


 目まぐるしいほどの状況の変化から、リッカに納剣するのを後回しにしていた。

 長剣の状態で、潰された馬車の近くに突き立てていたはずだ。

 それが、どうしてこの異界にあるのか。

 もちろん、コウタは持ち込んだ覚えはない。


(いや、確かこの剣って転移能力があったけど……)


 それはコウタが喚んだ場合のみだ。

 これまで剣が勝手に転移してきたことはなかった。


 ――いや、厳密に言えば一度だけあったか。

 あれは断界の剣(ワールドリッパ―)が、まだ焔魔の大太刀だった頃だ。

 コウタの危機を察して、剣が自ら転移してきたのである。


(あの時は本当に危険だった。けど、どうして今なんだ?)


 眉根を寄せるコウタ。

 すると、


「……え?」


 ガシャンと、コウタは思わず桶を落とした。水が床に広がっていく。

 断界の剣(ワールドリッパ―)が勝手に宙に浮かび、コウタの前で止まったのである。


 ――疾く早く握れ。

 まるでそう催促しているようだった。


 そこに至って、コウタは顔色を変えた。

 すぐさま断界の剣(ワールドリッパ―)をその手に掴む。


(そういうことなのか……)


 断界の剣(ワールドリッパ―)が自ら動く時は、コウタに相当な危機が迫っている時だけだ。

 ならば、今ここに危機が迫っているということだった。


(どこかに敵がいるのか!)


 コウタは周囲を警戒する。

 だが、何かの気配はない。

 まだ近くに敵が来ている訳ではなさそうだ。


「――リーゼ!」


 ともあれ、何よりも優先すべきは彼女の安全の確保だ。

 コウタはリーゼを見やり、「え?」と目を見開いた。

 いつの間にか、彼女はベッドから降りて立ち上がっていた。

 深く俯き、フラフラと前に進んでいく。


 ふわり、と。

 コウタがかつて贈った赤いリボンが解けて床に落ちる。

 同時に、束ねていた黄金にも似た彼女の蜂蜜色の髪が解けた。


「……リ、リーゼ?」


 立ち上がれるほどに回復したことには安堵するが、明らかに様子がおかしい。

 コウタの声も聞こえていないようだ。


「…………」


 リーゼは無言のまま進んでいくと、壁に飾ってあった長剣を手に取った。

 剣を抜き、鞘を無造作に捨てた。

 流石にコウタも表情を険しくする。


「……リーゼ」


 断界の剣(ワールドリッパ―)を強く握りしめて、コウタは彼女の名を呼んだ。

 すると、


「…………」


 彼女は、やはり無言でゆっくりと振り返った。

 その表情にコウタはゾッとする。

 何の感情もない顔だった。

 だが、その瞳は徐々に恐怖に染まっていく。

 ガチガチと歯を震わせて、リーゼは顔に片手を当てた。

 コウタは駆け寄りたかったが、本能が告げていた。

 いま彼女に近づいてはいけないと。

 そして、


「――――――――――――――――――――――ッッ!」


 声にならない悲鳴を上げて。

 少女は、ギロリとコウタを睨み据えた。

 重心を低くして長剣を構えた。

 その姿は剣士のようであり、獣のようでもあった。


 かくして。

 悪竜の花嫁が一人。

 煌めく怪物が全力全霊で牙を剥くのだった。



 第15部〈了〉


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


読者のみなさま。

本作を第15部まで読んでいただき、誠にありがとうございます!


一旦完結設定にしてしばらくは更新が止まりますが、第15部以降も基本的に別作品と執筆のローテーションを組んで続けたいと考えております。


もし、感想やブクマ、『★』評価で応援していただけると、とても嬉しいです! 

もちろん、レビューも大歓迎です!

大喜びします! 大いに執筆の励みになります!

今後とも本作にお付き合いしていただけるよう頑張っていきますので、これからもよろしくお願いいたします!m(__)m



最後にお知らせを。

新作投稿しております!

もしよろしければ、こちらも読んで頂けると嬉しいです!


エレメント=エンゲージ ー精霊王の寵姫たち―

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