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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第15部

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第二章 花嫁の決意③

 一時間後。ムラサメ邸の一室にて。

 エリーズ国の騎士学校の制服に着替えた少年は黙々と手を動かしていた。


 黒髪で黒い瞳の十六歳の少年。

 コウタ=ヒラサカである。


 彼は出立のための荷物を確認していた。

 と言っても、元々拉致されてこの里に来たコウタの私物などほとんどない。

 確認はすぐに終わって、コウタは手持ち無沙汰になった。

 途端、コウタは深々と溜息をついた。


「……ム。ドウシタ。コウタ」


 と、そこに声を掛ける者が現れる。

 紫色の鎧にヘルムの上に乗った金の冠。

 幼児並みに小さな騎士。自律型鎧機兵(ゴーレム)である零号だ。

 がしゅん、がしゅんと近づいて来る零号の隣には、同型だが目も冴えるような蒼色のゴーレム――コウタお手製の悪竜のお面を付けたサザンXの姿もあった。


「……ナンデ、タメイキ?」


 サザンXが小首を傾げて尋ねてくる。

 コウタは二機に目をやった。


「……いや、自分に少しうんざりして……」


「……リッカモ、嫁二、シタコトカ?」


 と、零号がずばり突いてくる。

 コウタは胸を抑えて「うぐっ!」と呻いた。


「……コレデ、コウタノヨメハ、八ニン二、ナッタナ」


 と、指を両手で八本立ててサザンXも言う。

 コウタはさらに呻いた。ただ、すでに「あれ?」と眉をひそめて、


「メルにリノ。リーゼにエル。アヤちゃんにジェシカさん。そしてリッカ。七人だよ。ボクの好きな人は」


「……アイリヲ、カウント、シテナイゾ」


 零号がそう指摘すると、


「いや、アイリも大切だけど、あの子はボクにとっては妹だよ」


 コウタはそう告げる。これは紛れもなくコウタの本心だった。


「……フクチョウガ、イチバン、タナン」


 と、サザンXが気の毒そうに呟いた。


「……トモアレダ」


 零号は言う。


「……ソコハモウ、覚悟ヲ決メロ。誰モ離シタクハナイノダロウ?」


「……うん」


 零号の問いかけに、コウタは少し躊躇しつつも頷く。


「そこは自分でも覚悟しているよ。あの世界で何度も考えた結果だし」


 なにせ、あの二年間の過酷な精神修行の果てに至った結論である。

 何気にリッカと過ごすことで八ヶ月間も上乗せされていた。

 それも踏まえて改めて自覚する。

 きっと、この結論はもう変わらないと。


「嫌われるかもしれないけど、皆には本心を告げようと思ってる」


 実際に、エルとリッカには本心をすでに告げている。

 彼女たちはコウタのロクでもない強欲を受け入れてくれていた。

 アヤメに関しては本人の方から提案していた。

 まだ面と向かって話していないが、リノとジェシカも受け入れてくれると思う。

 問題は、メルティアとリーゼだった。


「ううゥ……」


 コウタは頭を抱えた。


「メルもリーゼも大切なんだ。けど、二人は公爵家の令嬢なんだよ?」


「……ソレヲイウノナラ、エルハ、オウゾクダ」


「うぐっ」


 サザンXのツッコミに呻くコウタ。


「い、いや、そうだけど、メルとリーゼは凄く身近っていうか、特にメルはボクの幼馴染で恩人のご当主さまの一人娘なんだし……」


「……ソレヲ気ニスルナラ」


 零号は肩を竦めて告げる。


「……コウタガ、大成スレバイイ。コウシャク令嬢モ、異国ノヒメモ、嫁二シテモ、ダレモガ納得スルヨウニ」


「……ウム。ソレガイイ」


 サザンXも頷く。


「……コウタ、オウニナレ。『クラインオウコク』ヲ、サイケンシテ、オウ二ナルノダ」


「ボクの村を勝手に王国にしないでよ!?」


 愕然とした様子でコウタは叫ぶ。


「兄さんなら出来そうだけど、ボクにはとても無理だよ……」


「……コウタハ、才ハアルガ、自信ガナイ」


 零号が厳しいことを言う。


「……シカシ、奪ウト、キメタノナラ、テッテイシテ、強欲ヲ貫ケ。躊躇ハ、相手ヲ不安二サセルダケダ。何ヨリ失礼ダ」


「……………」


 コウタは無言だった。


「……ワガ御子ヨ」


 零号は破壊の魔竜として告げる。


「……アマスコトナク喰ライツクセ。贄ナル花嫁タチガ、コウタニ、スベテヲ望マレテ、幸セダト思ウヨウニ」


「……やっぱり零号って邪悪寄りな気がする」


 コウタはそう呟きながらも、


「けど、努力はするよ。彼女たちがボクを受けれてくれるように。彼女たちの家族も納得できるように」


 と、決意を告げる。

 すると、その時だった。


「……コウタ? もう起きてるかい?」


 そんな声が部屋の外から掛けられた。

 知っている少年の声だ。


「あ。うん。起きているよ。入っていいよ」


 コウタはそう告げた。

「うん。じゃあ入るよ」と答えて入ってきたのは真紅の髪の少年だった。

 年の頃はコウタと同じ。皇国騎士団の黒い騎士服を纏う人物。

 コウタの友人であるアルフレッド=ハウルだ。


「おはよう。アルフ」


「うん。おはよう。コウタ」


 二人は挨拶を交わす。

 それからアルフレッドは室内を見渡した。


「コウタも出立の準備が出来てるみたいだね。けど」


 そこで眉根を寄せる。


「ここにもジェイクはいないんだ?」


「ジェイク?」


 コウタはもう一人の巨漢の友人、ジェイクの顔を思い浮かべる。


「いや来てないよ。ジェイクがどうしたの?」


「いや、僕とジェイクは同室なんだけど、ジェイクは朝一で出立の準備をした後、最後に少し散策してくるって言って出て行ったまま、まだ戻ってきてないんだ」


「へえ~」


 そこでコウタはピンとくる。


「あ。もしかして」


「うん。そうかもね」


 コウタの勘に気付き、アルフレッドも苦笑を零す。

 そして、


「「きっとソルバさんに会いに行ったんだ」」


 二人は声を揃えて言った。


「二人って最近、結構いい雰囲気だったからね」


「うん。確かにね」


 アルフレッドの感想にコウタも同意する。

 痛い失恋を経験したジェイクだが、そろそろ新しい恋を初めてもいい頃だ。

 そして、あの二人はとてもよく似合っていると思う。

 二人で初々しく手を繋いでるところも見たことがあるし、ジェイクが彼女に愛称で呼ばれていることも知っていた。


「けど、この旅が終わると」


 アルフレッドは腕を組んで神妙な顔を見せた。


「しばらくソルバさんとも会えなくなるからね」


「うん。そうだね」


 フランは皇国。ジェイクはエリーズ国に帰国することになる。

 会う機会はほとんどなくなることだろう。

 きっとジェイクも寂しさを感じているに違いない。


「少し離れてしまうけど、二人の仲が上手く行くといいね」


「うん。そうだね」


 コウタたちは朗らかに笑った。


(まあ、まだ少しシャルロットさんのことを引きずっているみたいだけど)


 だが、それも時間が解決してくれるはずだ。

 そして、穏やかなソルバさんならジェイクに相応しいと感じていた。


(本当に上手くいったらいいな)


 もしかしたら文通の約束でもしにいったのかも。

 そんなことを思うコウタだった。



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