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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第14部

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第八章 緋はまた昇る①

(……さて)


 冷たい汗を流しつつ、ダイアンは小さく息をつく。


(どうしたもんかね。この大ピンチはよ)


 堂々と殺害予告した一方で、ダイアンは懸命に思考を巡らせていた。

 目前には、黒い斧剣を構える《悪竜》のような禍々しい鎧機兵。


 ――あの怪物と対峙する。

 出来れば、この事態だけは避けたかった。


(少しは精神を乱せたか?)


 ホランの話をしたことも。

 お姫さんの話を振ったことも。

 すべては、あの怪物小僧の精神を乱すためだった。

 精神が乱れれば、怪物であっても隙が生まれるかもしれない。

 それを期待してのことだった。


(どこまで期待できるかは分かんねえが……)


 ダイアンは双眸を細める。


(一度ぐらいは試してみっか)


 ダイアンの異能。時間停止。

 これは初見殺しの異能だ。

 確かに扱いにくい能力だが、初見で見抜ける者などいない。


(まずは死角に移動する。そっから……)


 不意打ちする。

 あわよくば殺せるかもしれない。

 いや、少なくとも機体の足でも損傷させれば逃走しやすくなる。

 そう考えた時だった。


 ――ぞわり、と。


(―――ッ!?)


 唐突に、悪寒を感じた。

 ダイアンは考える間も惜しんで時間停止を使用した。

 すると、


「――はあぁッ!?」


 愕然と目を瞠る。

 愛機の右肩。

 そこの寸前の位置に黒い刀身が止まっていたのである。

 肩口から胴体を両断する太刀筋である。

 ダイアンは青ざめた。

 一体いつ間合いを詰めたのか。

 悪竜の騎士は眼前にいた。

 それもすでに剣を振り終えている。


「う、うそだろッ!」


 ともあれ、ダイアンは慌てて愛機を後退させた。

 どうにか剣の間合いから外れたところで時間が動き出す。


 ――ザンッ!

 大気を切り裂いて、黒い剣が振り下ろされた。


『……かわしたか』


 悪竜の騎士が《ガガリア》を見据えて言う。


『動きが見えなかった。《雷歩》? いや、音がしなかったからオトハ義姉さんが得意だった《天架》を使った高速移動か……』


 そんなことを呟く。

 ダイアンは息を呑みつつ、


 ――ぞわり。

 再び悪寒が奔った。


 自分の生存本能に従い、再び時間を停める。

 すると、今度は胴体に触れる直前で刀身が止まっていた。

 流れるような歩法からの胴薙ぎだった。

 瞬きする時間も惜しんでいれば、間違いなく上下で両断されていた。


「う、うお!?」


 ダイアンは再び後方に跳躍した。

 直後、時間が動く。

 黒い剣は大気を水平に薙いだ。


『これもかわすか』


 驚く様子もなく、悪竜の騎士が言う。


『やっぱり上級騎士だけあって相応の実力はあるのか。それだけの力量があるのに、そんな外道に堕ちるなんて本当に残念だ』


 と、独白した。

 怪物からの賞賛。

 しかし、ダイアンは蒼白になっていた。


(な、なんだよ、こいつ……)


 喉を大きく鳴らした。

 この怪物小僧も異能持ちか。

 思わずそう考えたくなるのだが、それは恐らく違う。


 異能などではない。

 ただただ、ひたすらに速いのである。

 初動すらも勘に頼らなければ感知できないほどに。

 その剣は圧倒的に速かった。


 ダイアンもこれまで武力で生計を立ててきた人間だ。

 だからこそ分かる。

 それは、まさしく極致の剣だった。


(こいつ、まだ十代なんだろ!?)


 たかだか十数年の修練で辿り着ける境地ではない。


 分かりやすい。

 あまりにもシンプルで分かりやすい。


 こいつの前では、異能など小細工に過ぎないのだ。


 ――途方もなく速く。

 ――途方もなく巧く。

 ――途方もなく強い。


 こいつは、そんな真正の怪物だった。


(絶対に勝てねえッ!)


 ダイアンの戦士としての経験則が全力でそう叫んでいた。

 ――逃げろ! 逃げろ! 逃げろおおッ!

 生存本能もそう叫ぶ!


 しかし、悪竜の騎士は容赦をしない。

 完全に殺す気で黒い斧剣を振るう。

 直前に挑発したことが、完全に徒になったようだ。

 破壊の竜の逆鱗に触れてしまったらしい。


「ひ、ひいィィ!」


 ダイアンは、少しでも悪寒を感じたら時間を停めた。

 その都度、ゾッとする。

 どれも直撃寸前で剣が止まっているのである。

 中には刃が装甲の半ばにまで喰い込んだ時もあった。

 装甲の一部を削り落としてでも無理やりに脱出した。ノコギリ状の凶器も、結局のところ一度もまともに振るうこともなく切断された。

 攻撃に転じることも許されない。

 もはや、回避するだけで手一杯だった。

 時間停止を使わなければ、即座に両断される状況である。

 まるで砲撃の嵐の中に、生身で放り出されたような気分だった。


「ひィ、ひッ、ひィッ」


 ダイアンは大量の汗をかいていた。

 異能の負担で、滝のように鼻血も出している。


「こ、これ以上、付き合ってられるかあああッ!」


 ダイアンは時間停止を使って逃亡を図った。

 連続使用の負荷で、すでに一秒も持続しなくなった時間停止だが、それでも間合いの外へと出れた。


(もう逃げるしかねえッ!)


 そう判断するが、

 ――ぞわり。

 再び悪寒がする。ダイアンは反射的に時間を停めた。

 だが、直後、走っていた《ガガリア》が前のめりに倒れ込んだ。


「な、なに!?」


 ダイアンがギョッとして、愛機の損傷を見ると、両足が切断されていた。

 悪竜の騎士の刀身が長く伸びて両足を断ち切ったのだ。


「そんだけ強くて何でもありか! てめえはよッ!」


 あまりの不条理にダイアンが叫ぶ。

 そうして時間が動き出した。


「く、くそッ!」


 ダイアンは、どうにか愛機を仰向けにひっくり返した。

 しかし、両足を切断されては、これ以上、逃亡することも出来ない。


 ――ズシン、ズシン……。

 悪竜の騎士は黒い斧剣を携えて、ゆっくりと近づいてくる。


『ま、待て!』


《ガガリア》は片手を突き出した。


『俺の負けだ! 降伏する!』


 そう叫ぶ。

 しかし、悪竜の騎士の足取りは止まらない。

 切っ先には未だ殺意が宿っていた。


『降伏するって言ってんだよ! 無抵抗だぞ! お前は騎士なんだろ!』


『…………』


 ダイアンがそう叫ぶが、悪竜の騎士は何も答えない。

 前へと進み、倒れて腰をつく《ガガリア》の前で黒い斧剣を掲げた。

 そして、


『……お前は危険だ。法で裁ける存在でもなくなった』


 そう告げる。


『お、おい! 待てよ!』


 ダイアンが叫ぶ。

 だが、悪竜の騎士の剣は、そんな声ごと《ガガリア》を両断した――。






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