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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第13部

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第二章 近づく者たち②

 朝は誰にでも訪れる。

 それは、惰眠を貪る彼女にとってもだ。


 広い馬車内に置かれた寝袋の一つ。

 そこから飛び出して、ネコのように丸くなって眠る少女。

 年の頃は十六歳。紫銀色の髪に、愛らしいネコミミ。白いブラウスに覆われた豊かな胸は寝息で上下している。


 ――メルティア=アシュレイ。

 エリーズ国の四大公爵家。アシュレイ家のご令嬢。

 言わずと知れた、コウタの溺愛するお姫さまである。


 朝の弱い彼女は、未だ熟睡していた。


「…………」


 それを見降ろす少女がいた。

 年の頃はメルティアと同じほど。

 美麗な顔立ちに、緩やかに波打つ長い菫色の髪。その上には、メルティアとよく似たネコ耳がある。ただ、こちらは癖毛であるが。首には蒼いチョーカー。小柄ながらも抜群なスタイルの上には少し大きめのワンピース型の蒼いドレスを纏っている。


 ――リノ=エヴァンシード。

 彼女もある意味、コウタのお姫さまだった。


「…………」


 お姫さまが、お姫さまを見下ろしている。

 そして、


「いい加減、起きんか!」


 しゃがんでメルティアの頬を引っ張った。

 惰眠を貪るギンネコ娘に、本当は腹でも蹴っ飛ばしてやろうかと思ったが、この娘を傷つけると間違いなくコウタに叱られ、下手をすれば嫌われてしまう。

 だから、これでも優しく起こしてやったのだ。


「……ふえ?」


 すると、メルティアはうっすらと目を開けた。

 頭を少し起こし、金色の眼差しでリノを見つめる。と、


「……? ごはんですか?」


「目覚めて最初に出てくる台詞がそれなのかの……」


 腰に手を当て、リノは嘆息した。


「コウタは、どれだけお主を甘やかしておるのじゃ」


「コウタ?」


 メルティアは未だ寝ぼけ眼だったが、


「コウタ! コウタはどこですか!」


 流石に行方不明中の幼馴染の名前を聞いて一気に覚醒した。

 上半身を起こして座り、キョロキョロと忙しく周囲に目をやるが、残念ながらどこにもコウタの姿はない。

 この馬車内にいるのは、自分と、目の前で立つニセネコ女だけだった。

 メルティアは、リノにジト目を向けた。


「寝起きにあなたの顔とは最悪です」


「それはお互い様じゃ」


 リノもジト目を返した。


「起こしてやっただけでもありがたいと思え」


 パカン、とメルティアの頭を叩く。

 普段なら「コウタぁ、コウタぁ」と泣きつくところだが、ここに彼はいないため、メルティアは「ムム」とリノを睨みつけるだけだった。


「やれやれじゃな」


 リノは両手を腰に当てて嘆息した。

 そして用件を告げる。


「ともあれ、お主の待望の食事が出来ておるぞ。さっさと外に出るぞ」




 メルティアたち一行は現在、焔魔堂の森の入り口付近にいた。

 少し広い場所にまで馬車で進み、そこで野営を行ったのだ。

 夜にこれ以上進むのは危険だと判断した結果だった。

 アルフレッドやジェイクは広場にテントを張り、メルティアたち女性陣は、馬車内で休息をとることにした。

 そうして大きな騒動もなく朝を迎えたのである。


「あ。目が覚めたようですね。メルティア」


 リノと共に馬車から降りて来たメルティアに、そう声を掛ける者がいた。

 歳の頃は二人と同じ。

 先端がカールした蜂蜜色の長い髪を、頭頂部にて紅いリボンで結んだ少女。

 美貌においてはメルティアやリノにも劣らない。ただ、エリーズ国の騎士学校の制服を纏うその肢体は、胸部においてのみ二人よりかなり控えめだった。


 ――リーゼ=レイハート。

 エリーズ国の四大公爵家。レイハート家のご令嬢。

 才色兼備で知られる少女である。


 今も彼女はその才を発揮し、シチューを用意しているところだった。


「おはようございます。リーゼ」


 メルティアが挨拶をする。

 それから、周囲を見渡した。

 そこには焚火を使って鍋をかき混ぜるリーゼと、もう一人の女性の姿があった。

 人数分の食器を用意する女性だ。

 アノースログ学園の制服を纏う彼女もまたメルティアと同年代なのだが、女性としては高身長であり、温和な表情と大人びたスタイルもあって少し年上に見える。大腿部辺りまで伸ばした水色のとても長い髪が印象的な少女だ。

 彼女もメルティアの姿に気付き、


「おはようございます。メルティアさん」


 と、微笑んできた。本当に優しそうな女性だ。

 どうせならニセネコ女などでなく、彼女に起こして欲しかった思う。


「……おはようございます。フラン」


 と、新しい友人でもあるフラン=ソルバに挨拶するメルティア。

 他にも目をやると馬たちに餌をやる御者の男性――ハウル家の従者――の姿があったが、それ以外に人物の姿は見当たらない。


「オルバンさんや、アンジュたちはどうしました?」


 他の同行者のことを尋ねる。と、


「オルバンやアルフレッドさまたちは、森の状況を確認しに行かれましたわ」


「……森ですか」


 メルティアは広場の奥。鬱蒼とした森に目をやった。


「まあ、偵察という奴じゃな」


 と、リノが言う。


「そろそろ戻ってくる頃のはずじゃ」


「……そうですか」


 メルティアは目を細めた。


(あの奥に……)


 そして、グッと手を強く握る。


(コウタがいるのですね)

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