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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第12部

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第八章 御子の使命⑥

 夜深く、謁見後。

 コウタは一人、焔魔堂の里の中を進んでいた。

 向かう先はムラサメ邸である。

 長老たちには護衛をつけさせて欲しいと言われたが、それは断った。

 少し一人で歩きたかったのだ。


「結局、何も改善しなかったよ……」


 和式の街並みを歩きつつ、コウタは深々と嘆息した。

 この里は、街規模の場所だ。

 そのため、一定間隔で提灯と呼ばれる街灯が設置されており、夜遅くとも、街並みはそこまで暗くはない。

 ただ、人の姿はほとんど見かけなかった。


「この時間帯だと、アイリはもう寝ているかな?」


 そう呟く。

 今日の内容は、明日伝えよう。

 アイリには、きっと呆れられるかもしれないが。


(それにしても『御方(おんかた)さま』か……)


 わざわざ自分を指名してくれた謎の存在。

 このステラクラウンには、人外の存在がいる。

 その中は、異界からの来訪者もいると聞いている。

 そのことは、コウタは疑っていない。

 リノの話だと《九妖星》の中には、そういった者もいるそうだからだ。

 しかし、信じてはいても、どうして見知らぬ人外に、いきなり名指しされるようなことになってしまったのか……。


(いや。もしかしてどこかで会ってるのか?)


 コウタは眉をひそめた。

 少なくとも『御方(おんかた)さま』はコウタのことを知っているのだ。

 だったら、実は面識があってもおかしくはない。


(別に人外だからって、人の姿をしていない訳でもないだろうし)


 いずれにせよ、今の事態を打開するのは、『御方(おんかた)さま』に会うしかない。

 コウタは嘆息しつつ、歩き続ける。

 そうして、十数分後、ムラサメ邸に到着した。


「お帰りなさいませ。御子さま」


 そう言って、出迎えてくれたのはフウカだった。

 その傍らには、サザンXの姿があった。


「アイリとアヤちゃんは?」


 コウタがそう尋ねると、


「……フクチョウハ、モウネテル。アヤメハ……」


 サザンXは、フウカの方に目をやった。

 フウカは、コウタに頭を上げる。


「申し訳ありません。御子さま」


 そう切り出して、


「アヤメにはいささか覚悟……コホン。準備がございましてお迎えに上がれませんでした。何卒ご容赦を――いえ」


 そこで、ふと意地悪そうな笑みを見せた。


「御子さまのお心のままに、お叱りくださいませ」


「え? いえ。別に怒るようなことじゃあ?」


 キョトンとするコウタ。


「ふふ。そうですね。お叱りするのも、はたまた甘やかすのも、そこは御子さまのご意志にお任せいたします」


 フウカは、口元を片手で抑えて、意味深な笑みを零した。


「……コウタ」


 その時、サザンⅩがコウタの裾を引っ張った。


「……カイダンハ、ウマクイッタノカ?」


「……う」


 コウタは声を詰まらせる。

 それだけで、サザンⅩは察した。


「……ソウカ」


「うう。ま、まあ、詳細は、明日、アイリが起きてから話すよ」


 コウタは深々と溜息をついて、肩を落とした。


「お疲れのようですね」


 フウカが言う。


「浴場をご用意しております。今日はお休みください」


「あ、はい。ありがとうございます」


 コウタは、フウカに頭を下げた。

 それから浴場に向かい、疲れを癒してから自室に戻った。

 部屋の灯は消されているが、襖から差し込む月明かりだけで結構明るい。室内を確認するのに特に問題はなかった。

 広い和室には、一枚だけ布団が敷かれていた。

 アイリの姿はない。彼女は別の客室で寝ていた。

 サザンⅩも、コウタの願いもあって、アイリを守るために、彼女の部屋の方で待機している。この部屋にいるのはコウタだけだった。


「今日は本当に疲れたな」


 言って、コウタは布団の中に入った。

 色々と考えるべきことはある。

 けれど、今はゆっくりと休みたかった。

 コウタは、すぐに寝息を立てた。

 しばらくは静寂が続く。

 そうして、


(……ん?)


 コウタは、おもむろに瞳を開けた。

 不意に人の気配を感じたのだ。

 どれほど疲れていても、今は油断できない時だ。

 コウタは、すぐに意識を覚醒させた。

 次いで、襖の方に目をやった。

 そこには、襖越しに人影が見えた。

 小柄な女性らしき影だ。


「……アヤちゃん?」


 コウタは、その人影が誰なのかすぐに分かった。


『……コウタ君』


 襖の向こうから、想像通りの声が返ってくる。


『お休みだったのです?』


「あ、うん。けど、今起きたから」


 コウタは上半身を上げて答える。


『少し入ってもいいのです?』


「うん。いいよ」


 コウタは、ニコッと笑ってそう告げた。

 それから十数秒間、何故か沈黙があった。

 が、ややあって、


『し、失礼、するのです……』


 どこか緊張した声と共に、襖が開かれた。

 月明かりを背に廊下に立つアヤメは、白装束の和装だった。


 ――穢れなき、純白の乙女。

 そう呼ぶに相応しき姿で、アヤメは現れた。


 コウタは、数瞬ほど彼女の艶姿に見惚れていたが、


「……あ」


 不意に、ハッとする。


「ア、アヤちゃん。ど、どうかしたの?」


 少しどもりながらも、彼女に尋ねる。

 すると、アヤメは胸元に片手を当てて、大きく息を吐き出した。

 次いでゆっくりと入室してくる。

 彼女の表情は、真剣そのものだった。

 これは、只事ではない。

 そう感じ取ったコウタは慌てて布団から飛びだした。

 布団を整えて、その上に正座をする。

 一方、アヤメもコウタの前まで来ると、その場にて正座した。

 二人は見つめ合った。


「ど、どうしたの? アヤちゃん。心配事?」


「…………」


 コウタがそう尋ねるが、アヤメは無言だ。

 ふと気付く。

 アヤメの細い肩が、少しだけ震えていることに。

 コウタは、ますます心配そうに眉をひそめた。

 互いに正座して沈黙が続いた。

 が、それも終わりが来た。

 ようやく、アヤメが、わずかに紅を引いた唇を動かしたのだ。


 そうして――。


「……夜伽に参りました」


 アヤメは、告げるのであった。


「どうか、今宵、アヤメを可愛がってくださいのです」

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