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悪竜の騎士とゴーレム姫【第16部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第12部

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第八章 御子の使命①

 ガラガラガラ、と。

 荒れた地面が、馬車の車輪を鳴らす。

 上級の大型馬車ではあるが、皇都からかなり離れたこの道はさほど整地されておらず、振動も大きかった。


「さて。少し状況を整理しようぜ」


 と、ジェイクが言う。

 現在、この馬車の中には、かなりの大人数がいた。

 まずは長椅子の一つに、ジェイク、アルフレッド、リノ、零号が腰を降ろしている。

 次に、その迎え側になる長椅子に、メルティア、リーゼ、アンジェリカ、フランが座っていた。無人の着装型鎧機兵も壁際に待機していた。

 この並びは、比較的に冷静組と、あまりそうでない組で何となく分かれているのだが、その結果、現役 《七星》であるアルフレッドと、元 《九妖星》のリノが並んで座るという奇妙な画にもなっていた。


「まず、ダラーズ家なんだが」


 ジェイクは、アンジェリカとフランに視線を向けた。


「結局、もぬけの殻だったんだよな」


「ええ」


 アンジェリカが頷く。


「ジーン=ダラーズは校内にいなかった。彼の家の方にも行ってみたけど、そこにも誰もいなかったわ」


 こうして、零号に案内されて出立したジェイクたちだが、情報は多い方がいい。

 出立前にアンジェリカとフランがダラーズ家を調べたのだが、結果は空振りだった。


「思いたくはないけど……」


 アンジェリカは、眉をひそめて嘆息する。


「ダラーズ家もアヤメの協力者。今回の件の関係者なんでしょうね」


「まあ、そうだろうね」


 アルフレッドが言う。


「僕も調べたけど、ダラーズ家って、実は随分と前に没落しているみたいなんだ。多分、シキモリさんが行動しやすいように用意された偽装の家だと思う」


「「…………」」


 アンジェリカとフランは沈黙する。

 二人とも、沈痛な面持ちをしていた。

 二人こそが、アヤメと最も親しい友人だったのだ。

 秘密にされていたことはショックだったし、気付けなかったことにもショックを受けている。こればかりは流石に気落ちしてしまう。

 すると、


「アンジュ」


 アルフレッドが、優しく微笑む。


「気にしちゃダメだよ。君だって何でも知っておくことなんて出来ないんだから」


「アルく……アルフレッド」


 アンジェリカは顔を上げて、自分を励ましてくれる幼馴染に微笑もうとした。

 まあ、緊張したため、どちらかと言えば怒ったような顔にも見えたが。


(し、失言しちゃった?)


 と、反射的に顔を強張らせるアルフレッドをよそに、


「まあ、ソルバさんもだぜ」


 ジェイクが言う。


「確かにあの嬢ちゃんは隠し事をしていた。けど、隠し事なんて誰もがするもんだぜ。それをしてたからってあの嬢ちゃんが、ソルバさんと友達でなくなる訳じゃねえしな」


「オルバン君……」


 フランも顔を上げた。

 彼女の方は見事なもので――というよりも自然な本能か――乙女の顔で微笑んだ。


「ありがとう。オルバン君」


 しかし、


「はは、気にすんなって」


 と、ジェイクは平常運転で笑う。

 学園の男子生徒たちを薙ぎ払うフランの乙女オーラを前にしても揺るがない。

 改めて、記述する。

 ジェイクは、コウタの親友であるのだと。


「(メルティア)」


 リーゼが、こっそり横に座るメルティアに耳打ちする。


「(もしかして、ソルバさんは、オルバンのことを……)」


「(そのようですね)」


 コウタの幼馴染であっても、メルティアは鈍感ではない。

 今の仕草一つで、リーゼ同様に見抜いていた。


「(アンジュが、アルフレッドさんのことが好きなのは知っていましたが、彼女はオルバンさんのことが好きなようですね)」


「(まあ、そうですの)」


 アンジェリカが、アルフレッドに好意を抱いていることには、リーゼも少し驚いた。

 むしろ嫌っているように見えて、そんな素振りはなかったからだ。


「(アンジュは、色々と致命的に拗らせていますから」


 と、興味もなく、メルティアは言う。

 引き籠りのメルティアとて、やはり乙女だ。恋バナともなると普段ならもう少し会話に華を咲かせるのだが、今日は心ここにあらずだった。

 それも仕方がない。

 今は、行方不明のコウタとアイリのことで頭が一杯なのである。

 それは、リーゼもまた同じだった。

 ただ、事実を確認しただけで、それ以上、話を進めようとしない。


「……ふむ」


 その時、リノが口を開いた。


「あやつらの友情はともあれ、一つ解せんのう」


「何がですか?」


 メルティアがリノに尋ねる。


「ふむ。あの犀娘の目的についてじゃ」


 リノは、メルティアに目をやった。


「今回の件。あの犀娘は、偽装していた家まで捨てて強行しておる。じゃが、その目的は何なのじゃ?」


「……コウタを拉致することでは?」


 眉根を寄せてそう呟くメルティアに、リノは肩を竦めた。


「わらわが言いたいのは、コウタを攫うのに、どうして、皇国の学園に潜入する必要があったのかということじゃ」


「あ、なるほどな」


 リノたちの話が耳に届いたジェイクが、ポンと手を打つ。


「普通なら、オレっちたちと同じ学校に潜入するよな。つうか、こないだの交流会がなけりゃあ、あの嬢ちゃんはコウタと知り合うこともなかったしな」


「……それは」


 眉をしかめつつ、アンジェリカも話に加わる。


「アヤメとダラーズ家には、学園に潜入する別の目的があったってこと? それで今回はその目的を破棄してまで、ヒラサカ君を攫ったってことなの?」


「そう考えるのが自然じゃのう」


 リノは、嘆息する。


「出来れば、それも調べておきたかったのう」


「それも直接、聞けばいいでしょう」


 メルティアは、零号に目をやった。


「零号。コウタたちはこの先にいるのですね?」


「……ウム。間違イナイ」


 長椅子の上で短い足を伸ばした零号が、自信ありげに告げる。


「……アノ娘ノ匂イハ、キエテイナイ。ソモソモ、アイリモ、コウタノ匂イモ、オボエテイルカラ、大丈夫ダ」


「……あなたのその追尾能力は、私も知らない機能なのですが……」


 創造主たるメルティアは、悩まし気に頬に手を当てた。


「ですが、今はそれに頼るしかありません。いずれにせよ」


 ブスッとした顔で告げる。


「あの角娘は絶対に引っ掻きます。それは決定事項ですから」


 ガタンッ、と。

 石を砕き、馬車は目的地へと向かってくのだった。

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