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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第12部

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第七章 父、家に帰る②

 焔魔堂の里は、いわゆる山村である。

 周囲は森に囲まれ、里を横断するように大きな川がある。

 人口としては、およそ千七百人。

 里と呼んではいるが、実質的には小規模の街だ。


 木造建築が多いアロン様式である街並みには、人が溢れかえっている。

 その中を、コウタたちは進んでいた。


「へえ。珍しい街並みだ」


 コウタが、興味深そうに周囲に目をやった。

 コウタの故郷であるクライン村は、アロンの系統を引く村ではあったが、建築自体はセラ大陸のモノが主体だった。

 布団や浴衣。着物や巫女装束など、衣類や道具はクライン村にもあったので知っているモノも多いが、建造物までは知らなかった。

 引き戸の扉に、瓦と呼ばれる石板を敷き詰めた屋根。

 とても珍しい建造物が、大通りに並んでいるのである。


「……うん。初めて見る家だよ」


 と、アイリも言う。

 大通りを進むコウタたち一行は、全員で三人と一機だ。

 コウタと、アイリと、アヤメ。それからサザンXだ。

 コウタの左右にアイリとアヤメが並び、サザンXが少し前を歩いている。

 ちなみに、コウタもアイリも和装だ。着物と呼ばれる服を着ている。

 コウタは、短剣のみを腰に差していた。

 制服に着替えても良かったが、この場では逆に目立ってしまうと考えたからだ。

 まあ、サザンXがいる時点で、どうしても目立ってはしまうのだが。

 なお、フウカとタツマは同行していない。

 彼女には、屋敷での仕事もあるのだ。タツマは、サザンXを取り上げられて大泣きしていたが、どうにか離してもらった。


 ともあれ、コウタたちは、アヤメの案内で里を散策していた。

 コウタとしては、いざという時のために里の状況や地理を知る良い機会だった。


(相当に広いな)


 コウタは思う。

 里という名称から小規模な村を期待していたのだが、想定以上の広さだ。

 しかも、里の全周は森で覆われている。

 どちらの方向に向かえば、森を抜けるのか分からない状況だ。


(これは脱出は難しいかな)


 そう判断する。

 里から出ることは可能であっても、間違いなく道に迷う。

 やはり強硬脱出は、最後の手段にしたい。

 それに、自分が逃げ出せば、アヤメが罰を受ける可能性もある。

 アヤメだけならば一緒に連れていくという選択肢もあるが、この里には、アヤメの家族もいる。フウカや、アヤメの義兄が罰を受けるのも避けたい。

 そもそも攫われたからといって、アヤメを攫い返すのもどうかという話だ。

 誘拐は絶対にダメだ。それは自身でも言った台詞である。


 ……まあ、だったら、《黒曜社》から事実上、強奪したリノはどうなるのかという話だが、そこは一時預かりとしたい。リノの父にはいずれ話をつけるつもりだから。


 閑話休題。


(強硬策は一旦置いておこう。まずはこの里の長と話をすべきだ)


 そう決めた。

 今は散策を楽しみつつ、情報収集に専念しよう。

 コウタは改めて、周囲を見渡した。

 アヤメの故郷だけあって、角を持っている人物が多い。

 ただ、その全員が一本角だ。それも男性が圧倒的に多い。


「ねえ。アヤちゃん」


 コウタは、アヤメに尋ねた。


「アヤちゃんみたいに二本の角って少ないよね。あと、角を持っている人は男の人が多いみたいだ」


「うちの一族は女性が産まれにくいのです。それと……」


 アヤメは、自分の角の一本に触れた。


「二本角はとても珍しく、一族でも私だけと聞いているのです」


「へえ。そうなんだ」


 コウタは、まじまじとアヤメの角を見つめた。

 それから、少し足を止めた。


「少し触ってもいい?」


「え?」


 アヤメは目を見開いた。


「こ、ここでなのです?」


「あ、ダメならいいけど」


 コウタにそう言われ、アヤメは言葉を詰まらせた。

 初めて触れられた時を思い出す。

 あの、どうしようもない甘美な感覚を……。

 けれど、すでに、心角の試しは済んでいる。

 あれは最初の一回限りで、あんな感覚はもうないとフウカは言っていたが……。


「べ、別にいいのです」


 アヤメは躊躇いつつも、そう答えた。

 コウタはニコッと笑った。


「うん。ありがとう」


 言って、手をアヤメの心角へと伸ばす。

 アヤメはぎゅっと目を瞑って、下唇を噛む。

 その様子を、アイリとサザンXは、じいっと見つめていた。

 そして、


「うん。やっぱり変わった感触だ」


 アヤメの二本の心角に触れて、コウタが言う。

 一方、アヤメはガチガチに緊張していた。

 確かに以前のような感覚は訪れない。

 けれど、心音が激しくなるのを抑えられない。

 触れられるたびに、とても幸せな気持ちが溢れ出てきていた。


(こ、これはこれで、変な感じなのです)


 そう思う。

 ちなみに、行き交う人々――特に角を持つ者たちは足を止めて、「「……おお」」と目を見開いて驚いていた。

 アヤメ自身は、心角の試しさえも詐欺と断じていたため、知る機会もなかったが、実のところ、一族にとって心角を異性に触れさせることは、男性ならば『お前を生涯守る』という意味になり、女性ならば『私はあなたの女です』といった意味があるのだ。

 それは、当然ながら、二人きりの時にするような行いであり、堂々と大通りで行うコウタとアヤメに、驚きと感嘆の目を向けているのだ。

 ただ、コウタとしては、そんなことは知る由もなく、


「二本かあ。やっぱり一本よりも特別なことがあるの?」


「基本的に身体能力も、《焔魔ノ法》も一本よりも優れているのです」


 と、そんなことを言っていた。


「おお。大胆」


「若いっていいねえ」


 という周囲の声も、自分たちのことだとは思わない。

 何だかんだで、とても仲が良さそうなコウタとアヤメに、アイリが「……むむ」と唸り始めた時だった。


「ちょ、ちょっと!」


 不意に、声を掛けられる。

 コウタたちは、そちらに振り向いた。

 そこには、一人の女性がいた。

 年の頃は十代後半ほどか。

 着物を纏う、少しお腹が大きな女性である。

 肩まであるウェーブのかかった茶色い髪が印象的な、角のない女性だった。


「こんな大通りでそんなことして!」


 と、頬を赤く染めて叫んでいる。

 コウタたちとしては、キョトンとするだけだ。


「もう! 何を考えて――って」


 そこで、女性はアヤメの二本角に目をやった。


「二本角? え? もしかしてあなたって?」


 目を瞬かせる。

 そうして、女性はこう尋ねた。


「あなたって、フウカのとこのアヤメちゃん?」

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