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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第11部

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第八章 そうして、彼女は運命を知る①

(な、なんでなのです!)


 ――その頃。

 森の中で、アヤメは酷く焦っていた。


(なんで、攻撃が当たらないのです!)


 剛力で振るわれる金棒。

 木々も軽々と吹き飛ばす一撃が、彼相手だと掠りもしない。


(なんでなのです!)


 アヤメは、左手の指を立てた。


「《焔魔ノ法》中伝! 樹の章!」


 少年にへと左指を向ける。


「《(へび)(づる)》!」


 途端、ざわざわと木々がざわめく。

 葉の中から複数の蔓が飛び出し、少年へと襲い掛かる!

 しかし、少年――コウタは、


「――ふッ!」


 一呼吸で、すべての蔓を両断した。

 アヤメは唖然とするが、


「――くッ!」


 すぐさま金棒で襲い掛かった。

 だが、それもあっさりとかわされた。

 しかもそれだけではない。


「――あっ!」


 アヤメの足を払い、彼女の重心を崩したのだ。金棒が手から離れる。

 さらに空中で彼女の肩を掴んでさらに回転。アヤメは背中から地面に落とされた。


「~~~~~ッッ!」


 アヤメは歯を軋ませる。

 これで、もう何度目だろうか。

 アヤメの体には並みの攻撃は通じない。

 それこそ剣で斬りかかられても刃が通ることもない。

 だが、それを理解しているからだろう。

 彼は攻撃の主体を、投げ技に変えてきたのである。

 アヤメの攻撃を凌ぎ、重心を崩し、地面に叩きつけるのだ。

 いくら鉄を凌ぐ皮膚でも、衝撃まで吸収してくれる訳でもない。

 彼の投げ技は、着実にアヤメの体力を削っていった。

 隙は見せないまま、少年は言う。


「……君は強いよ。圧倒的な身体能力に、不思議な力。けど」


 一拍おいて、双眸を細める。


「……動きが素直すぎる。それだと先読みされるよ」


「うるさいのです!」


 アヤメは立ち上がった。

 しかし、ダメージは深く、ガクンっと膝が崩れた。

 ――と、


「あ、シキモリさん!」


 思わずコウタが手を差し伸べて、彼女の肩を支えた。

 途端、

 ――トクン、と。

 鼓動が鳴った。

 そしてあれほど荒ぶっていた心に、深い安堵が生まれる。


(……あ)


 アヤメは彼の腕を掴み、顔を上げた。


「大丈夫?」


 彼と視線が重なる。

 星さえ呑み込みそうな、夜の眼差し。

 数瞬の間、アヤメは、彼の瞳に魅入ってしまった。


「ッ!」


 アヤメは、顔色を変えた。

 そして、彼の腕をはねのけて後方に跳ぶ。

 アヤメは、ギリと歯を軋ませた。

 悔しいが、この少年は強い。

 戦闘能力ではアヤメの方が確実に上だが、恐ろしく戦い方が巧い。

 この少年が、これまでどんな人生を歩んできたのかは知らない。けど、彼は恐らく相当な修羅場をくぐってたのだろう。実戦経験値が桁違いだった。

 一方、アヤメは幼い頃から修練こそ毎日行っていても、実戦経験はほとんどない。

 実質のところ、この戦いこそが初陣とも言える。

 その経験の差が、如実に出てしまっていた。

 このままでは、敗北は必至だった。


(認めないのです!)


 自分の運命も。

 この少年の腕に触れて、本能的に安堵してしまったことも。

 何もかも、認めたくなかった。


「付いてくるのです!」


 アヤメは、そう叫んで走り出した。

 森の中を疾走する。

 アヤメの力は、生まれもった身体能力だけではない。《焔魔ノ法》だけではない。

 アンジェリカやフランと出会い、アノースログ学園に通うことで得た力もあるのだ。

 アヤメは、森を抜けた。

 木々のない、少し大き目の広場だ。

 ここならば召喚が出来る。

 少し遅れて、少年もこの広場に飛び出してきた。


「……ここは」


 流石に、アヤメの狙いに気付いたのだろう。


「どうしてもやるの?」


 少年が神妙な声で尋ねてくる。

 アヤメは、ふんと鼻を鳴らした。


「当り前です」


 彼女は、腰に差した黒刀に触れた。


「私は、私の運命を打ち砕くのです」


 そのためには手段も選ばない。


「来るのです。《黒鉄丸(くろがねまる)》」


 アヤメの前で、転移陣が輝いた。

 そうして現れたのは一機の鎧機兵だった。

 全高は五セージルほど。比較的に小さな鎧機兵だ。

 型式としてはアロン系統。

 盾を重ね合わせたような肩当てに、頭部には二本の角を持つ、紫がかった黒い機体。

 アロン系統でも、竜尾があることには変わらない。

 両膝を突く機体の横には、巨大な黒い金棒が突き立てられていた。

 アヤメは跳躍し、足場もかけずたった一歩で《黒鉄丸》の操縦席に乗り込んだ。

 やはり驚くべき身体能力だった。


《黒鉄丸》の胸部装甲が閉じられ、ブンと両眼が光る。

《黒鉄丸》は立ち上がり、金棒を手に取った。

 多関節らしき金棒は、火花を散らして削岩機(ドリル)のように回転する。


『さあ、お前も用意するのです』


 アヤメが告げてくる。コウタは小さく嘆息した。


(仕方がないか)


 ここまで来ると、完全に決着を付けないと彼女は納得してくれないだろう。


(まあ、あの不思議な力や金棒のことも気になるし)


 彼女には一度落ち着いてもらってから、その話を聞きたかった。

 正直、かなり興味津々だった。

 彼女は一体何者なのか。

 ここまで来ると、やはり知りたい。

 そんなことを考えつつ、コウタはそっと短剣に触れた。

 直後、転移陣から現れるのは、コウタの愛機・《ディノ=バロウス》だ。

 黒い処刑刀を傍らに、両膝を突く三つ首の魔竜を模した機体。

 自分の愛機よりも禍々しい鎧機兵にアヤメは目を剥いた。

 コウタは、鎧装の縁に足を掛けて《ディノス》に乗り込んだ。

《ディノス》の両眼が光る。


『……さて』


 コウタが呟く。


『君には色々聞きたいし、それが君に勝つことでしか叶わないというなら』


 一拍おいて。

 コウタは、自負を以て告げるのだった。


『悪いけど、これから君を倒させてもらうよ』

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