表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第11部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

356/535

第七章 開拓の巨人①

 森の中。

 コウタは一人、疾走していた。

 短剣の柄に片手を当て、木々の間を縫うように走る。

 まるで森の中ではないような速さだ。

 これは、コウタの身体能力の高さもあるが、山村産まれの山村育ち。その上、森の国エリーズで育ったコウタにとって、森とは最も戦いやすいステージでもあるからだ。


 グングンと速度を上げる。

 ――と、


「ッ! 敵だ!」


 耳に届く叫び声。人影が見えた。

 三人組。男子生徒二人と女子生徒一人だ。

 白い上着(ブレザー)に、黒いスラックス。女生徒はスカート。

 アノースログ学園の生徒たちだ。


「お嬢さま! お下がりください!」


 体格の良い二人の男子生徒が、コウタの前に立ち塞がる。

 明らかに女生徒を守る動き。「お嬢さま」と呼んだところから二人は従生徒(スクワイヤ)か。

 一人が短剣を抜き放ってコウタに斬りかかる――が、

 ――ドンッ!


「ガハッ!」


 コウタは全く速度を落とさず接近。膝蹴りを少年の腹部に叩きつけた。

 少年はその場に崩れ落ちた。その際に、胸元のフラッグワッペンを奪い取る。


「――くそ!」


 もう一人の少年も短剣を抜き、刺突を繰り出してきた。

 対し、コウタは微かに重心をずらすだけで切っ先をかわし、カウンターで少年のあごを掌底で打ち抜いた。

 大きく仰け反り、その少年も倒れた。フラッグを奪うことも忘れない。


 残りは一人だ。

 コウタは、女生徒を一瞥した。

 光沢を持つ飴色の髪の少女だ。ショートでボリュームのある髪。

 綺麗だが、少し勝気そうな面持ち。彼女には見覚えがあった。

 確かクラスのみんなが作成していた、アノースログ学園美少女ランキングで三位に入っていた子だ。結構な名家のお嬢さまだと聞いている。

 わざわざ二人も従生徒(スクワイヤ)が付いているのだから、それは事実なのだろう。


「こ、このッ!」


 従者が一瞬で二人も倒された状況でも、彼女は短剣を抜こうとしていた。

 しかし、それをみすみす見逃すコウタでもない。

 トン、と柄頭を手で押さえて、彼女の抜刀を封じる。


「………あ」


 目を剥く少女。

 コウタは、空いた左拳を動かした。

 彼女は青ざめてギュッと瞳を閉じるが、次の瞬間、腹部に訪れた衝撃は、トスンというとても軽いものだった。


「え? え?」


 彼女は瞳を開いて、そのまま瞬かせた。


「個人的に試合で寸止めって失礼だと思うんだ。だからこれで許して欲しい」


 コウタが言う。少女は目を瞬かせたままだった。


「これだって侮辱しているかも知れない。けど、ごめん。戦意のない子は殴れない」


 コウタは、左手を彼女に向けた。


「『参った』って言って欲しい。お願いできるかな?」


 優しい声。とても優しい眼差しでそう告げられて――。

 ……ボンっと。

 少女の顔が、真っ赤になった。

 そしてアタフタと動揺しつつも、自分のフラッグを外して、


「ま、参りました」


 俯いた視線で、コウタの手の平にフラッグを乗せてくれた。

 コウタは「ありがとう」と告げて微笑んだ。

 彼女はコウタの顔を凝視の眼差しで見つめてから、「は、はい……」と、視線を伏せて縮こまってしまった。


「それと」


 コウタは、倒した少年たちに目をやった。


「彼らの様子を見ていて欲しい。すぐに騎士の人か先生たちが来ると思うけど、まだしばらくは起きないと思うから」


「は、はい」


 少女は、コクコクと頷いた。


「それじゃあ気をつけて。この森は、魔獣はいないけど獣ならいるから」


 言って、コウタは再び走り出そうとする。と、


「あ、あの!」


 少女が叫ぶ。


「私の名前はアリサです! アリサ=グレスト! お、お名前を!」


「え? ボクの名前?」


 コウタは、パチパチと目を瞬かせた。

 少女は、真っ赤な顔で、コクコクコクと頷いている。

 どうしてだろう。()()聞かれてしまった。

 しかし、名乗る程度は大したことでもないので笑って答えた。


「コウタだよ。コウタ=ヒラサカ」


 そう告げて、コウタは再び走り出した。自分の後方でアリサと名乗った少女が「ふ、ふわあ……」と吐息を零して、ペタンと座り込んでいることには気付かずに。


(これで二十一)


 コウタは、さらに加速する。

 戦闘が始まって十五分。中々の遭遇率だ。

 印象としては、アノースログ学園の男子生徒は勇猛果敢だ。迷いなく剣を振るう。たとえ劣勢でも最後まで諦めない。

 一方、女生徒の方は、戦況を理解してくれる聡明な人が多いようだ。

 男子生徒だけの班は敗北を促しても、最後の一人まで戦うのに対し、女生徒たちはコウタの声に耳を傾けてくれる。

 さっきのように話をしたら、敗北を認めてくれるのだ。


(けど、やっぱり、皇国の貴族の子って礼儀正しいんだな)


 さっきの子で六人目だ。

 まずは名乗って、次にコウタの名前を聞いてくるのだ。

 名乗りとは、騎士にとって重要なものと聞く。

 やはり、彼女たちは騎士の家の娘ということなのだろう。

 自分には、よく分からない感覚だが。


(う~ん、ボクって、やっぱり庶民なんだな)


 のほほんと、そんなことを考えながら、コウタの『狩り』は続く。

 その後、さらに二班、コウタは撃退した。

 また一人、女生徒に名前を聞かれたが。


(これで二十六)


 コウタは走る。

 出来れば、『彼女』と遭遇する前に三十は撃破しておきたいのだが。


(そうもいかないかな)


 コウタは、黒い双眸を細めた。

 ピリピリと、肌がひりついてくるのを感じる。

 どうしてだろうか。『彼女』の存在を強く感じ取れる。


(そろそろか)


 森の中をさらに加速する。と、その時だった。

 ――ズズウゥンッッ!

 突如、森の中に轟音が響いた。

 コウタは足を止める。微かに地面から振動を感じた。


(……うわあ)


 コウタは、少し顔を強張らせた。

 そして顔を上げて、苦笑と共に呟いた。


「……メル。本当に始めたんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ