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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第11部

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第六章 フラッグ・ゲーム②

 ――同時刻。

 アルフレッド=ハウルは、朝早くから学校に来ていた。

 今日のレクリエーション。

 フラッグ・ゲームの準備のために訪れたのだ。

 朝一に来て、両校の教師陣やエリーズ国側の騎士たちと共に、警備する場所、脱落者の回収班や、警邏班、万が一の医療班などのチーム分けを調整していた。

 それもようやく終わり、アルフレッドは一息をついていた。

 一時間後には、アルフレッドは、騎士たちと共に舞台となる森に向かう予定だ。


 だが、それまでの時間は、完全に空き時間となった。

 この国に来て、初めてとなる息抜きの時間である。


 アルフレッドは一人、校内を散策していた。

 友人であるコウタやジェイク、リーゼやメルティアが通う学び舎。

 異国の学校を、興味深そうに見物していた。


(ここがコウタたちの学校か)


 エリーズ国騎士学校の造りは、どちらかと言えば庶民よりだった。

 豪華と呼ぶには程遠く、質素さや簡素さを感じる。

 通う生徒が貴族か、またはその従者だけなので、運営寄付がとても潤沢なアノースログ学園とは大分趣が違う。

 けれど、アルフレッドは、この学校の方が落ち着いた。

 華美な装飾よりも実用性の方が好みなのだ。


(やっぱり僕も、真っ当に学校に通ってみたかったな)


 折角この国にやってきても、友人たちと会話をする機会もない。

 それは、とても残念なことだった。


(まあ、その分、アンジュに呼び出されることもないんだけど)


 それには、少しホッとする。

 仕事の多忙さに加えて、彼女の我儘にまで付き合わされては胃が焼失してしまう。

 ただ、教師たちの話を聞くと、アンジェリカは生徒会長として素晴らしい働きをしているそうだ。両校の友好の懸け橋にもなっているらしい。

 彼女が活躍する話を聞くと、やはり幼馴染。嬉しく思う。

 その友好さを、少しだけでも自分の方にも向けてくれたらなぁとは思うが。


(けど、本質的にアンジュは負けず嫌いだしな)


 アルフレッドは、廊下の途中で足を止めた。

 ここは校舎の四階だ。

 窓の外からは、王都の街並みや、その遥か向こうの山並みも見ることが出来る。


 ――フラッグ・ゲーム。

 レクリエーションとはいえ、両校を競わせる初めてのイベントだ。


 当然、両校とも、自校の勝利を望んでいることだろう。

 作戦の妙もあるだろうが、フラッグ・ゲームは、基本的にゲリラ戦に近い。

 となれば、両校とも主力が勝敗の決め手になるはずだ。


(アノースログ学園側の主力は、アンジュにソルバさん。そして……)


 アルフレッドは、双眸を細めた。

 ――黒髪の少女。

 多分、彼女の実力は、アンジェリカ以上かもしれない。

 ――しかし。


(……きっと彼女は強い。だけど)


 苦笑を零す。


(たとえ、彼女であってもコウタには……)


 コウタの実力は別格だ。対人戦ならば、アルフレッドとも互角。鎧機兵戦においても、かの《死面卿》さえも討ち取った実績がある。


 ――悪竜の騎士。あの姿は、今でもよく憶えている。


 彼がいるだけで、アンジェリカたちに、もう勝ち目はないだろう。

 コウタならば、遭遇と同時に相手を瞬殺できる。

 出遭っただけで数減らししてくる怪物が、学生の中に混じっているのだ。


(アンジュ。膨れるだろうなあ)


 そんなことを思う。

 彼女のことだ。きっとコウタに挑むだろう。

 実力差から、無茶なこともするかもしれない。

 なにせ、訓練にしろ、勝負にしろ、昔から彼女は勝つまで絶対に止めないのだ。


(……大丈夫かな?)


 アルフレッドは、少し眉根を寄せた。

 コウタは、とても優しい人間だ。

 ましてや、レクリエーションなどで相手を傷つけるような事は絶対にしない。

 それは確信もしているし、信用もしている。


 だが、それでも……ふと脳裏に浮かぶ光景がある。

 それは、かつてアンジェリカが外道の輩に攫われた事件の光景だ。


 心が灼けつくほどの焦燥感を抱いた事件。

 あの時、アルフレッドは思わず強権を執行した。祖父の制止さえも聞かず、『黒犬』『白狼』の両兵団まで総動員して、アンジェリカの行方を捜したのだ。

 あの時の恐怖に凍り付いた彼女の目は忘れられそうにない。まあ、その後の、あんな状況であっても揺るがない、実に彼女らしい態度には心底ヘコんだものだが。


 ただ、それでも幼馴染だ。

 アンジェリカが、強がっていることぐらいはすぐに分かった。

 彼女は、徹底した強がりなのである。

 そんな幼馴染だから、本当は少し後悔もしている。

 なにせ、男に乱暴されそうになったのだ。彼女は男全般に怯えているかもしれない。

 男である自分が安易に触れると、怯えさせてしまうかもしれない。

 あの時は、そう思って躊躇ってしまった。


 けれど、それは、本当に正しかったのだろうか?

 あの場では、無理やりにでも彼女を抱きしめるべきではなかったのか。

 もう怯えなくてもいいよ、と告げるべきではなかったのか。


 たとえ、彼女に殴られても。

 ……または、胃が焼失する覚悟をしてでも。


「……アンジュ」


 幼馴染の名を、小さく呟く。

 恐らく、今日、彼女はコウタと戦うはずだ。

 勝てるとは思わない。

 コウタは、自分が戦っても手強いと考えている。対人戦はもちろん、愛機の性能差がなければ鎧機兵戦でも苦戦するかもしれない。仮にも《七星》の一角である自分が強敵だと認識しているのだ。アンジェリカの敗北は確実だった。

 だが、それでも、彼女なら、さぞかしねばることだろう。

 そうなると、もしかしたら、コウタであってもつい目測が狂って――。


「…………」


 アルフレッドは、しばし瞳を閉じた。

 そして、


「……仕方がないか」


 ポツリ、と呟いた。


「今日は、少しアンジュのことを気にかけようかな」

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