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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第11部

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第六章 フラッグ・ゲーム①

 明くる朝。

 自室にて、アンジェリカは少し困惑していた。

 隣に立つフランも同じ表情だ。

 まだ朝も早く、部屋着姿の二人は顔を見合わせた。

 そして、


「あ、あの……」


 アンジェリカが、代表して声を掛けた。

 体のラインが浮き上がるインナースーツだけの姿で、何やら、懸命にストレッチを繰り返すアヤメに対して。


「どうかしたの? アヤメ?」


「問題ない、のです」


 腕を、ぐいぐいと伸ばしてアヤメは答える。


「私は覚悟を決めたのです。もう迷わないのです」


 そう告げるアヤメの顔は、いつにないぐらい活力に満ちていた。

 いつもの無表情・無感情のアヤメではない。

 ここまで溌溂とした彼女は初めて見た。

 アンジェリカとフランは、もう一度、顔を見合わせた。


「その、どういうことなの? アヤメ?」


 再び、アンジェリカがそう聞いてみる。

 すると、アヤメは、


「私は、ずっと、曖昧な運命とか使命とかに縛られていたのです」


 そんなことを語り出した。


「え、あ、うん」「そうだったんだ」


 よく分からないが、相槌を打つアンジェリカとフラン。

 アヤメは、言葉を続ける。


「けど、その曖昧な運命が昨日の夜、遂に形になって現れやがったのです」


「え、それって……」「ア、アヤメ……?」


 アンジェリカとフランが、少しドキドキしつつ瞳を輝かせた。

 もしや、その運命とは……。


「コウタ=ヒラサカ」


 アヤメは、彼の名を呟いた。


「彼が、私の運命だったのです」


「「きゃああっ!」」


 アンジェリカとフランは、同時に黄色い声を上げた。

 まさか、まさか、まさかっ!

 あのアヤメが! 色恋沙汰には一切興味なさそうなアヤメが!

 遂に、運命と呼ぶような男の子と――。


 と、はしゃぎかけた時、


「ぶちのめしてやるのです」


 アヤメが、ポツリと呟いた。


「「…………え?」」


「今日、完膚なきまでに、ぶちのめしてやるのです」


「「何があったの!? アヤメ!?」」


 アンジェリカとフランは、揃って声を上げた。

 アンジェリカが青ざめた顔で、アヤメに近づき、彼女の肩を両手で掴んだ。


「え? アヤメ? もしかして、昨日、彼に何かされたの?」


 昨日の晩、アヤメは帰ってくるのが随分と遅かった。

 本当にこっそり彼と逢引きしていたのではないかと、フランと一緒に妄想してはしゃいでいたが、それは事実だったのだろうか?

 しかし、もしそうだとしたら、アヤメがここまで敵意を見せるのもおかしい。

 もしかして、彼は、アヤメの好意につけこんで何かしたのだろうか?

 誠実そうな少年だったが、アヤメはとても魅力的な少女だ。

 つい、魔が差すような行為をしてしまったのかもしれない。


「……アヤメ。正直に答えて」


 アンジェリカは、真剣な眼差しでアヤメを見つめた。

 もしそうならば、生徒会長としても、アヤメの友人としても見過ごせない。

 フランもまた、胸元に片手を当てて神妙な顔をしている。

 しかし、当のアヤメは、キョトンしたもので。


「彼と……ですか? それは……」


 アヤメは、頬に指先を当てた。


「昨夜は、危ない場所に迷い込んだところを、彼に助けてもらいました」


「……え?」


「それから夜の公園で、二人でお話をした、のです」


「う、うん」


「彼は、ずっと優しい目をしていて、きっと、私を気遣っていてくれていたのだと思うのです。凄く深い瞳で、吸い込まれそうで……だから私は」


 一拍おいて、アヤメは言う。


「彼をぶちのめすと宣言した、のです」


「「なんでそうなるの!?」」


 アンジェリカとフランは、同時にツッコんだ。


「私にも事情があるのです。運命は非情なのです。こればかりはアンジュにもフランにも関係のないこと、なのです。ともあれ」


 アヤメは、おもむろにアンジェリカの手を取った。


「大丈夫なのです」


 目を細めて、アヤメは微笑んだ。

 アンジェリカとフランは、目を丸くした。

 アヤメの笑顔。それもまた初めて見るものだったからだ。


「……アヤメ?」


 アンジェリカは眉をひそめた。


「本当に、どうかしたの?」


「大丈夫なのです。今日、アンジュの方にも色々とある……かも知れない、のです。けど絶望しないで。すぐに行くから」


「え?」


 アンジェリカは目を瞬かせた。


「絶望ってなに?」


 そう尋ねるが、アヤメはかぶりを振るだけだった。

 ただ、静かに、


「大丈夫なのです。そう。全部」


 アヤメは、強い意志を以て告げた。


「私がどうにかするのです。運命なんてくそくらえ、なのです」

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