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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第11部

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第四章 炎と風の姫③

 一方、その頃。

 グラウンドは、静寂に包まれていた。

 とは言え、人が少ない訳ではない。

 むしろ、普段よりも、さらに多くの人間が集まっていた。

 グラウンドの中央に立つのは、二人の少女だ。


 アンジェリカと、リーゼである。

 互いに劣らぬ美貌を持つ二人だが、その雰囲気は対照的だった。


 絢爛たる姫君。

 それは、燃え上がる炎のごとく。

 右手に長剣型の木剣を。腰左手を当てて佇むアンジェリカ=コースウッド。


 煌めく心の姫。

 その立ち姿は、涼やかなる風のよう。

 切っ先を下に、両手で細剣型の木剣を握りしめるリーゼ=レイハート。


 二人の姫君は、共に制服姿だった。

 彼女たちに限らず、この場にいる生徒たちは全員が制服姿だ。

 多くの騎士学校がそうなのだが、対人戦闘訓練には専用の衣服はない。

 常在戦場が、各校共通の方針だからだ。

 まあ、汚れた場合の代えの制服はあるのだが。

 ともあれ、二人は互いを見据えて、静かに対峙していた。


「……ふむ」


 彼女たちの中央には、四十代の男性がいた。

 アノースログ学園側の教師の一人だ。


「では、そろそろ始めるか」


 これから行うのは、アンジェリカとリーゼによる一対一の模擬戦闘だ。

 初めての合同実技。

 両校の力量を知るためにも、代表生徒たちの模擬戦闘を許可したのである。

 まあ、リーゼの方はともかく、アンジェリカの方にはそれ以外の思惑もあったが。


(……リーゼ=レイハート)


 アンジェリカは、双眸を細めた。

 数セージルほど先で、静かに佇む少女。

 エリーズ国騎士学校の代表生徒。

 確かに、その佇まいは実に洗練されている。

 自分に次ぐ実力者であるアヤメには届かないかもしれないが、三番手のフラン相手ならば、互角に渡り合えるかもしれない。


(……中々の実力者みたいね)


 これは侮れない相手だ。それを肌で感じた。

 しかし、それ以上に気になるのは、やはり彼女の美貌だった。

 まるで黄金を思わせるような、蜂蜜色の髪と瞳。

 顔立ちは精緻な人形のように整っている。

 両腕、特に両足は腰辺りからすらりとしており、まさに美脚だった。

 それに、何よりも(おっぱい)だ。

 運動をほとんど阻害しないであろう胸。

 しかし、ぺったんこではない。

 アヤメよりも少し大きいぐらいのサイズ。ギリギリ手の平に納まるぐらいか。

 確実に女性としての膨らみはあるサイズだ。

 あの聖女さまと同じである。


(……むむ)


 一瞬だけ足元を遮る自分の胸に視線を落とし、アンジェリカは呻いた。

 自分とは、明らかに違うタイプの(おっぱい)だった。

 アルフレッドが気に掛ける女。

 まさに、彼好みの容姿の少女であった。

 どうして、アルフレッドが異国の公爵令嬢と面識があったのか。

 そこまではまだ調べきれてはいないが、剣は、時に言葉よりも遥かに雄弁に相手のことを教えてくれるものだ。


 ――そう。恋敵を知るために、あえてこの試合を申し出たのである。


 それに気付いているのは、フランとアヤメだけだった。

 フランは青ざめており、アヤメは相変わらずの無表情だった。

 いや、時折、別の方向に視線を向けている。


(……アヤメ?)


 たまたまそれに気付き、アンジェリカは微かに眉をひそめた。

 珍しい。アヤメが、ほんの少しだけそわそわしているように見える。

 アンジェリカは、彼女の視線の先を追った。

 そこには、黒髪の少年の姿があった。


(えっと、彼は……)


 見覚えがある。確か、リーゼ=レイハートの補佐という生徒だ。

 今日も彼女の隣にいた。

 ただ、アンジェリカとしては、


(アヤメと同じ、アロンの出身者かしら?)


 といったぐらいの印象しかなかった。

 見たところ、貴族出身とは思えないので、アノースログ学園でおける、従生徒のような立場なのかもしれない。


(あ、もしかして)


 無表情、無感情を貫くアヤメだが、少女であることには変わらない。

 珍しい同郷の少年に、強い興味を抱いたのかもしれない。

 それこそ、恋心にも似た想いを。


(もし、そうなら応援しなくちゃね)


 そんなことを考えて、微かに口元を綻ばせる。

 アヤメは友人だ。もし初恋ならば成就させてあげたい。


(後で聞いてみましょう。けど、今は……)


 アンジェリカは、グッと木剣を握りしめた。

 改めて、リーゼ=レイハートを見据える。

 彼女は、ゆっくりと木剣を動かし、刺突の構えを取った。

 それだけで覇気が大きく変わる。


(……へえ)


 アンジェリカは、炎が揺れるように双眸を細めた。


(これは凄いわね)


 ――隙がまるでない。

 切っ先は、真っ直ぐアンジェリカの喉元に。

 重心は揺らがず、余計な力みもない。このまま棒立ちのままならば、あの刺突は最速の動きで、アンジェリカの喉を捉えることだろう。

 それが、強くイメージさせられる。


(これは前言撤回だわ。フラン以上、もしかするとアヤメにだって届くかも。ただのお嬢さまじゃないって訳ね)


 まあ、家柄と美貌だけで代表生徒になれるはずもない。

 それ以前に、アルフレッドに見初められるほどの女が、只者であるはずがなかったか。


(けどね)


 ――すうっと。

 アンジェリカは、木剣を横に薙いだ。

 その動作に、リーゼが、ピクリと片眉を上げた。

 今の動きだけで、リーゼもアンジェリカの力量を理解したのだろう。

 油断できない相手だと。

 わずかだが、切っ先に緊張が宿るのを感じ取った。


(私は、アンジェリカ=コースウッド)


 炎のごとき、双眸を細める。


(アノースログ学園生徒会長。そして――)


 アンジェリカは、一歩踏み出した。


(《七星》が第七座。アルフレッド=ハウル。私はアル君の妻となる女なのよ)


 静かな足取りで、間合いを詰めていく。


「……リーゼ」


 彼女は告げる。


「それじゃあ始めよっか」


「ええ。そうですわね」


 リーゼも、不敵な笑みを見せて答えた。


「……ふむ。では」


 審判である教師が、おもむろに腕を上げて、


「これより模擬戦を行う!」


 振り下ろす!

 同時に、アンジェリカが駆け出した。

 リーゼはそれを迎え撃つ。


 かくして。

 炎と風の姫君たち。

 武芸を誇る二人の令嬢の戦いが始まった――。

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