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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第2部

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第一章 初めての来客①

「……ううゥ」



 カーテンで光を遮った薄暗い部屋。

 そこは、とある館の四階。天蓋付きの宮殿のような丸いベッドと、散乱する工具や、鎧機兵で使用するようなパーツが、あちこちで目立つ広い寝室。


 その部屋で彼女は一人、ベッドの上で座り込んでいた。

 年の頃は十四歳。

 うなじ辺りまで伸ばしている薄く紫がかった白銀に近い髪と、金色の瞳。肌は白磁のように白く、ピコピコと動くネコのような耳が特徴的な、美しい少女である。


 メルティア=アシュレイ。

 四大公爵家の一つ、アシュレイ家の子女であり、この館の主人でもある少女だ。

 年齢離れした抜群のスタイルを持つ彼女は、肩を露出する白いブラウスと、黒いタイトパンツを身につけていた。何着も所有する彼女のお気に入りの服だ。

 今はその上に、真っ白なシーツを被っている。



「……うう、遂に……」



 メルティアはシーツを頭から被り直し、ベッドの上で呻く。



「遂にこの日が来てしまいました」



 泣き出しそうな顔で、ぶるぶると震える少女。

 ――そう。この館に友人達を迎える日が遂に来てしまったのだ。



「ど、どうしてこんなことに……」



 この屋敷は、彼女を守る砦だ。

 本音を言えば、誰もここには近付けさせたくない。たとえ友人であってもだ。

 例外は家族や一部の使用人。そして彼女の大切な幼馴染だけだ。

 しかし、今回はその幼馴染に押し切られてしまった。

 あの少年は、普段はメルティアの心情を最優先にしてくれるのだが、時折すごく強引になる。そして、メルティアは彼の『お願い』にとても弱かった。

 最初こそ渋ったのだが、結局、友人達を招く許可を出してしまったのだ。



「リーゼ達は嫌いではありません。ですが、ですが……」



 ギュッとシーツの裾を握るメルティア。

 やはり家に招くと言うのは、ハードルが高い。



「ううゥ、い、今更嫌だと言ってもダメでしょうか?」



 思わずそう考えてしまう。

 メルティアは、ただ深々と嘆息するのだった。





 ――同時刻。

 薄暗い室内とは打って変わって、燦々と輝く太陽の下。

 澄んだ青い空に鳥達が羽ばたく中。

 アシュレイ家の敷地を囲う門前にて、一人の少年が立っていた。

 年齢はメルティアと同じ十四歳。

 セラ大陸では珍しい黒髪黒眼が印象的な少年である。


 コウタ=ヒラサカ。

 メルティアの幼馴染であり、このアシュレイ家の使用人――少なくとも本人はそう思っている――でもある少年だった。



「そろそろかな?」



 巨大な門格子を支える石柱に背中を預けて、コウタがふと呟く。

 普段は服装には無頓着で、夏期休暇中と言えど騎士学校の制服を着ることが多い彼なのだが、今は黒系統のズボンと茶色のブーツ。白いシャツの上に黒いベストを着ていた。

 かなり珍しい彼の私服姿だ。流石に友人を出迎えるのに、堅苦しい制服は着るべきではないと考えたチョイスである。



「えっと、約束は十二時だっけ?」



 言って、コウタはベストの中から懐中時計を取り出した。

 時計の針は、あと十五分ほどで正午を示そうとしていた。



「うん。もうじきだ」



 コウタは懐中時計を懐に仕舞った。

 と、同時に、



「よう! コウタ!」



 不意に声をかけられた。

 振り向くと、手を上げながらこちらに近づいてくる人物がいた。

 短く刈った濃い緑色の髪が特徴的な体格のいい少年だ。やけにポケットの多い緑系統の服を着ているため、髪の色も合わせて全身が緑色にも見える。


 ジェイク=オルバン。

 コウタの同級生であり、相棒と呼んでもいい友人だ。



「やあ、ジェイク。珍しいね。リーゼさんより早いなんて」



 コウタは軽く手を振った。



「乗合馬車が丁度いい時間帯でな。つうか、お嬢はまだ来てねえのか?」


「うん。けど、リーゼさんのことだし、もうじき来るんじゃないかな」



 リーゼはとても時間に厳しい少女だった。

 普段の待ち合わせの時は、遅くとも十分前には約束の場所に来ている。恐らくもう数分もしない内に来るはずだろう。



「おっ、コウタ。どうやら言ってる傍から来たみてえだぞ」



 と、その時、ジェイクが遠くを指差してそう言った。

 彼が指差す先には、白い外装の馬車が走っていた。三頭の馬が引く、一目で貴族用と分かるようなとても豪勢な造りの馬車だ。

 馬車は徐々に速度を落とすと、アシュレイ邸の前で止まった。

 そして御者がまず降りて馬車のドアをゆっくりと開ける。



「ありがとう」



 御者にそう礼を言って、ドアから出て来たのは一人の少女。

 蜂蜜色の髪を揺らし、華奢の肢体を白いドレスで包んだリーゼである。

 彼女が馬車から降り立つと、「では、お嬢さま。私は失礼いたします」と言って御者は馬車と共にその場から去って行った。リーゼはそれを見届けてから、コウタの前まで進み、ドレスの裾を掴んで公爵令嬢の立場に恥じない優雅さで一礼した。



「お招きありがとうございます。コウタさま。オルバンもごきげんよう」


「おう。お嬢も元気そうだな」と、ジェイクがニカッと笑って応じ、


「あっ、こちらこそ来てくれてありがとう。リーゼさん」



 つられるように頭を深々と下げるコウタ。

 コウタは本来田舎少年。こういった格式ばった挨拶には面を喰らってしまう。


 それに、何よりも――。



「あ、あのさ、リーゼさん」


「はい。何でしょうか。コウタさま」



 にこやかに微笑むリーゼ。コウタは少し頬を引きつらせながら告げる。



「そ、そのコウタさまって何なのかな? 出来ればやめて欲しいんだけど……」



 最近、何故かリーゼはコウタのことを『さま』付けで呼ぶ。

 コウタとしては気恥ずかしくてこの上ない呼称だ。

 しかし、リーゼは全く意にも介さず。



「あら。コウタさまはコウタさまですわ。少々仰々しく感じられるかも知れませんが、言わば親しい友人としての愛称なようなもの。どうかお気になさらずに」


「は、はあ……」



 リーゼの説明に、コウタはただ困惑した声を上げるだけだった。



「まあ、上級貴族なりの愛称ってことだろ。気にすんなよ。コウタ」



 と、ジェイクがコウタの背中をバンバンと叩いて笑った。

 コウタは渋面を浮かべる。



「いや、クラスメートに『さま』付けされるんだよ。流石に気にするよ」



 と、一応意見を言ってみるが、ジェイクも、当人であるリーゼも素知らぬ顔だ。

 コウタは深々と嘆息した。

 どうやら、この呼称の変更はもう不可能らしい。学校が始まった時、クラスメート達に茶化されるのが、目に浮かぶようだ。



「はあ、何かボクのクラスでのあだ名が『コウタさま』になりそうで怖いよ」


「ハハッ! まあ、そん時はそん時だろ。それよりもコウタ。今日は『噂の館』に案内してくれんだろ?」



 と、ジェイクが今日の本題に入った。

 リーゼも興味深そうに、コウタを見つめた。



「うん。そうだよ」



 コウタも気持ちを切り替えて、顔つきを改めた。

 ――そう。二人を呼んだのは他でもない。

 このアシュレイ邸の敷地にある、別館に招待するためだ。



「お前さんの話によく出てくる館か。オレっち、意外と楽しみにしてたんだわ」


「それはわたくしも同じですわね」



 と、ジェイクとリーゼが呟く。

 二人とも、どこかそわそわとした表情だった。



「はは、ボクは少し緊張しているよ。なにせ、今まであの館に行ったことがあるのは、ボクとご当主さま。執事長のラックスさん。それとアイリぐらいだからね」



 コウタは頬をかいて、そう告げる。

 正直、彼らを迎えるには相当苦労した。

 基本的に人付き合いが嫌いなメルティアが、かなり渋ったのだ。

 だが、コウタは諦めなかった。リーゼもジェイクも良き友人だ。彼らをこの館に招待することは、きっとメルティアに良い影響を与えると思ったのだ。

 だからこそ、どうにかメルティアを説得したのである。



(うん。ようやくここまで来た)



 コウタは、わずかに口角を崩した。

 これは、メルティアにとって大きな一歩になるはずだ。

 コウタはそう確信している。

 まだ少しずつではあるがメルティアは前向きになろうとしている。

 そのことが、純粋に嬉しかった。



「うん。それじゃあ、そろそろ行こうか」



 そしてコウタは笑みを浮かべて、友人達を歓迎する。



「これから二人をアシュレイ邸の別館に案内するよ」

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