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悪竜の騎士とゴーレム姫【第16部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第1部

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第八章 贈られしモノ⑤

 シン――と静まり返る広場。

 わずか数秒前までは戦場だったため、虫の声さえしないその場所には、二機の鎧機兵が互いに背を向けて佇んでいた。

 悪竜の騎士・《ディノ=バロウス》と、牛頭の巨人・《金妖星》の二機だ。

 二機は全く微動だにせず、さらに数秒が経つ。


 そして――。



『……これは少々驚いたぞ』



 不意に《金妖星》が振り向き、操手であるラゴウは口角を崩した。



『まさかあの状況で反撃してくるとはな。ヌシの力をまだみくびっていたか』



 言って、愛機の左腕に視線を落とす。

 黄金の牛頭の巨人は左腕を肩から失っていた。

 先の反撃で、咄嗟に首への直撃だけは避けた結果だ。



『ふふっ、腕を切り落とされるなどいつ以来か。しかし……』



 ふとラゴウは、疑問を口にする。



『処刑刀での刺突とは思えん一撃だったな。押し潰されるのならいざしらず切り裂かれるのは予想外だったぞ』



 処刑刀の切っ先は丸い。普通ならば切り裂くことなど出来ない形状だ。

 すると、その処刑刀を片手に《ディノ=バロウス》が、ゆっくりと振り向いた。

 そして操手であるコウタが、皮肉気な様子で語り出す。



『折角だから、ボクの方も技を見せたんだよ』



 少年がそう呟くと同時に、《ディノ=バロウス》が処刑刀を横に薙いだ。

 大剣に煽られ、大きく風が動く。



『使ったのは構築系闘技。剣の刃に沿って恒力で作った極小の刃を並べるんだ。それを超高速で移動させる。すると驚くほど斬れ味が増すんだよ』



 そこで一拍置いて、コウタは告げる。



『ボクはこの闘技を《断罪刀》と呼んでいる』


『……ほう。なるほどな』



 ラゴウはあごに手をやり、目を細めた。



『中々興味深い闘技だ。鎧機兵の鎧装の加工に使う機械工具と似た仕組みだな。それを闘技にまで昇華させたのか』


『まあ、その通りだよ。なにせ幼馴染が作業する姿を見て思いついた闘技だし』



 そう言って、コウタは苦笑を浮かべた。

 彼の後ろにいるメルティアは、何とも複雑な表情を見せている。

 と、そんな二人をよそに、



『ふふ、そうか』



 ラゴウはふっと笑い、いよいよ本題を切り出す。



『ともあれ、この戦いはヌシの勝ちだ。ヌシは見事に力を示した。よもや《金妖星》の腕まで斬り落とされるとは思わなかったがな』



 そこで愛機を反転させ、



『では、吾輩はここらで退散しよう。今宵は実に楽しかったぞ少年』



 そう告げて、《金妖星》がゆっくりと離れていく。

 コウタとメルティアは、ただ敵機の背中を見据えていた。

 今さら引き留める気もないし、ましてや攻撃する気もない。

 この厄介な男との戦いは、ここで終わらせたかった。


 が、その時、



『ああ、そうだ』



 ラゴウがそう呟き、唐突に《金妖星》が足を止めた。

 それから愛機を振り向かせて告げてくる。



『去る前に、ヌシにはまだ二つほど用件があったな』


『……用件って何だよ? ボクにはないぞ』



 コウタは眉をしかめた。

 まだこの戦いが続くとしたら正直うんざりする。

 と、そんなことを考えていたら、ラゴウが苦笑を浮かべた。



『そう身構えるな。もう戦う気はない。すぐに終わる用件だ。まずは一つ目。今更だがヌシの名はなんと言うのだ?』


『……えっ』



 あまりにも意外な問いに、コウタは一瞬唖然とした。

 が、思い返せば、この男に名乗る機会など一度もなかった。

 コウタは少しだけ迷ったが、結局名乗ることにした。



『……ボクの名前は、コウタ=ヒラサカだ』


『……ほう。アロンで使われる響きだな。やはりヌシもアロン出身者か』



 と、コウタの黒髪黒眼を思い出し、ラゴウが呟く。

 それに対し、コウタもラゴウの容姿を思い浮かべて苦笑する。



『まあね。正確にはボクのひいお爺さんがアロン大陸の出身者らしいけどね。けど、そんなことよりも……』



 コウタは眉をしかめて尋ねる。



『もう一つの用件って何さ?』


『……ふむ』



 少年に催促され、ラゴウはあごに手をやった。



『実はな。去る前にヌシに名を贈ろうと思ったのだ』


『……はあ?』



 コウタは目を丸くした。そして眉をひそめる。

 言葉の意味が分からない。一体何の話なのだろうか。

 黙って様子を窺っていたメルティアも、同じように眉をひそめていた。

 すると、ラゴウはどこか楽しげに、



『まあ、要は「二つ名」という奴だ』



 そう言葉を続けた。



『この《金妖星》の片腕を切り落としたのだ。ヌシには充分その資格がある』


『ふ、二つ名? ボクに?』



 コウタは再び目を丸くした。

 確かに有名な戦士や騎士には、二つ名を持つ者が多くいる。

 例えば皇国の《七星》などは全員が二つ名持ちだった。

 しかし、コウタ自身は、自分の二つ名など今まで考えたこともなかった。



『そんなの考えたこともなかったよ』



 と、意識もせず、コウタの口から素直な言葉がこぼれる。

 それを聞いたラゴウは、くつくつと笑い、



『元来二つ名とは他者より贈られるモノだからな。だからこそ、《九妖星》の一角。《金妖星》ラゴウ=ホオヅキが、敬意を以てヌシに贈ろう』



 そして《黒陽社》が誇る最強の戦士の一人は、すっと目を細めて――。



『《悪竜》を現世に顕現せし者よ』



 厳かな声が森の中に響き、一拍置いてラゴウは告げる。



『今宵よりヌシは《悪竜顕人(あくりゅうけんじん)》と名乗るがよい』


『あ、《悪竜顕人》……?』



 ある意味、問答無用で贈られた二つ名に、コウタは唖然とした。

 が、数瞬後、(たま)らず苦笑を浮かべてしまった。



『……何だよそれ』



 流石に呆れてしまう。



『それって完全に悪役の二つ名じゃないか。何の嫌がらせだよ』


『ふん、吾輩は悪党だぞ。悪役寄りになるセンスぐらいは許容してくれ』



 ラゴウは《金妖星》の中で肩をすくめた。



『だが、そんな異形の機体を扱うヌシも悪いと思うぞ。恐らくいずれは似たような二つ名がつくだろう。諦めることだな』



 そう言われると、反論も出来ないコウタだった。

 そして、少年は諦めるように嘆息し、



『分かったよ。ラゴウ=ホオヅキ。ありがたくその二つ名を頂戴するよ』


『ふははっ、そう言ってくれると嬉しいぞ。では、今度こそ……』



 そう告げるなり、《金妖星》は再び背を向けて歩き出した。

 徐々に遠ざかる牛頭の巨人。そして――。



『さらばだ。《悪竜顕人》コウタ=ヒラサカ。そしてその傍らにいる少女よ。またいずこかの戦場にて会おう』



 ラゴウが別れの言葉を告げ、黄金の機体は森の奥へと消えていった――。

 コウタとメルティアの二人は数秒間、じっと黙り込んでいたが、



「…………ふはあァ」



 と、不意にコウタが脱力した。

 今度こそ、完全に危機は去ったようだ。



「……お疲れ様です。コウタ」



 そう言って、メルティアは頬をコウタの背中に当てた。

 コウタは疲れ切った顔で苦笑を浮かべる。



「本当に疲れたよ。今晩だけで何十日も過ごした気分だ」


「まあ、あんな怪物を相手にしては当然ですよね」



 と、メルティアも苦笑をこぼした。

 疲労しているのは彼女も同じだ。本当に忙しい夜だった。



「とにかく今はただ休みたいよ」



 コウタがぐったりとして、そう呟いた。



「それは同感です。ぐっすり寝たいです。ですが、その前に……」



 メルティアはそこで言葉を詰まらせた。

 安堵した途端、彼女の脳裏に友人達の顔が浮かぶ。



「……リーゼやアイリ、オルバンさんは無事なのでしょうか?」



 コウタの話では、彼らも相当な無茶をしたはずだ。

 流石に胸中に不安がよぎる。が、彼女の幼馴染は顔を振り向け、



「大丈夫だよ」



 そう告げて笑う。



「ラゴウの部下の話だと奴らは完敗したようだしね。怪我をしていないか不安だけど、少なくとも上手く逃げられたのは確実だ」



 コウタが信頼する友人のジェイクはかなり強かな人物だ。

 きっと、上手く立ち回ってくれたに違いない。



「まあ、とは言え、早めに合流した方がいいか」



 そう言って、コウタはグッと操縦棍を握りしめた。

 彼らの無事な顔を見るまでは、完全に安心は出来ないのも事実だ。

 すでに通常モードに戻っている《ディノス》の両眼が光る。

 そしてコウタは後ろの少女の方を見やり、



「それじゃあ、みんなの所に帰ろうか。メル」


「ええ、帰りましょう。コウタ」



 そう言って、二人は笑った。

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