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【第16部更新中】悪竜の騎士とゴーレム姫  作者: 雨宮ソウスケ
第9部

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第八章 黄金の魔王④

 二機は正面からぶつかり合った。

 刃同士ではない。

 かつて対峙した時のように、互いの額をぶつけ合う構えだ。

 衝撃で大地が震えた。


 だが、二機が吹き飛ぶ様子はない。

 突進力が完全に拮抗していたからだ。


 互いの角を突き合うように、対峙する二機。

 そして二機が拮抗を崩したのは、同時だった。

 互いに後方に跳躍。大きく間合いを取ると、全く同じタイミングで、処刑刀と断頭台を繰り出した。


 交差する刃。今度は拮抗しない。弾かれたのは処刑刀の方だった。

 膂力では《金妖星》の方に分があるようだ。



『――ぬうんッ!』



 態勢を崩した《ディノ=バロウス》に、《金妖星》は断頭台の刃を振り下ろした。

 右肩を狙った一撃。タイミング的に避けようがない。

 ――が、



『ッ! なにッ!』



 ラゴウは目を瞠った。

 何故なら、繰り出した断頭台の一撃が敵機の装甲に届く前に、身に纏う『海』で抑え込まれたからだ。



『リノの「海」は果てしなく大きくて深い』



 悪竜の騎士が語る。

 その左手の拳を強く固めて。



『今の《ディノ=バロウス》は大海を纏っているんだ。その防御力は桁違いだ。たとえ《金妖星》の膂力であっても、ただの攻撃が通じるなんて思わないことだ』



 言って、拳を繰り出した。



『――クッ!』



《金妖星》は咄嗟に左手で受け止めて、拳の勢いを利用して間合いを取った。

 次いで、海を纏う魔竜を睨み据える。



『……ふん』



 断頭台を構えつつ、ラゴウは鼻を鳴らした。



『なるほどな。まさしく《水妖星》の力だな』



 そこで目を細める。



『……本当にヌシは姫を手中に収めたということか』


『そういうことじゃ』



 と、ラゴウの声に答えたのはリノだった。



『わらわはすでにコウタの女。コウタの前に立ち塞がるというのならば、たとえお主であっても容赦はせんぞ』



 そう告げた直後だった。《ディノ=バロウス》の海が変化する。右肩辺りが渦巻き、ランスのようになって撃ち出されたのだ。



『――ぬうッ!』



 咄嗟に《金妖星》は断頭台の刃を盾にした。

 水のランスの威力は重く、《金妖星》は大きく後退させられた。

 リノの特性は『防御重視型』。

 破天荒に見えても、意外と奥手なところもある彼女らしい特性である。

 しかし、その一面だけが彼女の性格ではない。

 防御から一転。怒涛の苛烈さもある。



『まだまだじゃ!』



《ディノ=バロウス》の海が大きく波打った。

 そして背に複数の渦が生まれる。それらもまた水のランスを放った。



(――チイッ!)



 ラゴウは舌打ちして、愛機を疾走させた。



『逃さぬ!』



 黄金の鎧機兵の後を追って、ランスも軌道を変えた。

 ――が、直撃までには至らない。次々と地面を打ち砕くだけだ。



『……クッ!』



 リノが無念そうに呻く。

 だが、今ここで戦っているのはリノだけではなかった。

 彼女の愛する少年も戦っているのだ。



『逃がさないよ』



 コウタはそう呟き、《ディノ=バロウス》を跳躍させた。

 一瞬で潰される間合い。放たれる横薙ぎの刃。

《金妖星》は、咄嗟に左腕を盾にして刃を防いだが、刃が手甲に食い込み、黄金の装甲の欠片が舞い散る。そこにリノのランスが《金妖星》の頭部に直撃した。

 横から襲い掛かる衝撃に《金妖星》は大きく吹き飛び、砂浜でバウンドする。



(――勝機!)



 コウタは、さらに追撃しようと身構えた――その直後のことだった。

 ――ズズゥンッ!



『――ッ!』『クゥッ』



 コウタとリノが呻く。

 突如、途轍もない重圧が《ディノ=バロウス》に襲い掛かって来たのだ。

 周囲の砂浜も円筒状に陥没している。

 防御重視型の《ディノ=バロウス》でなければ、両膝をつくところだ。



(この技は!)



 ――《黄道法》の放出系闘技・《堕天》。

 上空に膨大な恒力を集束させ、地面に向かって大瀑布のように放出する闘技。

 かつて、あの男に戦った時に喰らった因縁の闘技だ。

 だがしかし、この威力は――。

 ――ズンッ!

《ディノ=バロウス》は処刑刀を逆手に構えて杖代わりにした。

 そうでもしなければ立っていられない。



(あの時の比じゃない!)



 コウタは、内心で呻いた。

 このまま地の底にまで押し潰されてしまいそうな圧力だ。



『……やってくれる』



 その時、不意に声が響いた。

 ――ズシンッ、と。

 断頭台の石尻を地面に打ち付ける《金妖星》――ラゴウの声だ。



『よもや吾輩の《金妖星》が地を舐めさせられようとはな。姫の力を得たとしても見事なものだぞ。《悪竜顕人》よ。だがな――』



 黄金の鎧機兵の両眼が怪しく光る。

 同時に《ディノ=バロウス》を縛る重圧も、ふっと消えた。

 まるで凪のように。

 静かな静寂が夜の浜辺に訪れる。

 そして――。



『…‥いささか調子に乗りすぎだ。小僧が』



 ラゴウは、そう告げた。

 直後、

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッッ!

 黄金の鎧機兵が、雄々しく吠えた。

 ただの覇気だけで、《堕天》にも劣らない圧を放って。

 コウタは目を瞠り、息を呑んだ。



「……コウタよ」



 その時、リノがギュッとコウタの背中を抱きしめる。

 彼女の頬には、冷たい汗が伝っていた。



「……気を引き締めよ」



 そして神妙な声で告げる。



「ラゴウが本気で来るぞ。ここからが《九妖星》の本領と知れ」


「……うん。分かっているよ」



 コウタは頷いた。

 恐らく、初めてだ。

 初めて、あの男が本気でコウタを殺し来る。

 今までの威圧とは質が違う。明確な殺意が宿っている。

 それを肌で感じ取っていた。



『我が名は《金妖星》ラゴウ=ホオヅキ』



 ラゴウは、厳かな声で名乗る。

 その声さえも、別人のように聞こえてくる。



『最も猛々しき《妖星》なり。我が猛威の前にひれ伏すがよい』



 再び咆哮を上げる《金妖星》。

 息を呑むコウタと、リノ。

 今、黄金の魔王が、二人の前に立ち塞がった。

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